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陽葵のお名前覚えタイム!

喫茶の時間となり、多くの高齢の入居者様が各々の席に着いたり、車椅子に座していたりしながら談笑している者や、静かに瞳を閉じて休んでいる人も。


CDプレイヤーから高齢の方にとっての青春時代に聴いていた歌が流れている。その近くに車椅子で自走し近寄り気持ちよさそうに歌を聴きながら、歌を口ずさんでいる高齢の女性がいた。その方にまず目線を合わせ、名前を聞こうと陽葵は声をかける。


「おはようございます! はじめまして! 私は立花陽葵と申します!」


「ふんふんふ〜ん〜」


「あの、お名前伺ってもよろしいですか?」


「ら〜ららら〜」


「あの……お名前……」


「はぁ〜ん、ららら〜らら〜!」


「お名前……」


陽葵の呼び掛けに気づいていないのか、我が道を行くといった具合で歌を口ずさみ続けている。陽葵はどうしたものかと、笑いながら戸惑う。


「田所さん! 若い子が呼んでますよ!」


主任の中崎がぽん、と背中を優しく触れながら、耳元でゆっくりはっきり声をかけると、田所と呼ばれた入居者様は、歌をやめて目を開き、触れてきた中崎を見る。


「あら、中崎さんおはようございます。どうかしたの?」


「新しい職員が、ご挨拶を! ほら、立花さん!」


「あ、はい! 私は立花陽葵と申します! お名前! 教えてくださいな!」


「お名前ね。お名前。まい子よ〜。よろしくお願いしますね〜」


「はい!」


名前と簡単な似顔絵をメモ帳に記している陽葵に、中崎は静かに声をかける。


「この方に限らないんだけど、耳が遠い人も多いから、優しく触れながらはっきりゆっくり声掛けするといいわよ」


「はい! 優しく触れながら、はっきりゆっくり……」


「あとね、特別養護老人ホームという性質上ね」


「はい!」


「認知症を患ってる方が大半よ。軽度重度は様々だけど」


「認知症……はい!」


「だから意思疎通が上手くいかなくても、ある程度は割り切る必要があると思うの。そこは経験していってね」


「……はいっ!」


「でも、目線を合わせての声掛けして話を聞こうとしたのはいい事よ」


「ありがとうございます!」


ちょっと古臭い決めポーズで陽葵を褒めた中崎は、周囲の他の入居者様を気にかけながら、陽葵の名前覚えに付き添っていく。その間に食堂フロアの担当をしている遊沢は、黙々と入居者様のリクエストに合わせてお手製コーヒーやお茶を入れては配っている。時折その目は陽葵に向く。


「はじめまして! 立花陽葵と申します! お名前伺ってもよろしいですか?」


「おぉサトルかい? 迎えに来てくれたのかい?」


「ごめんなさいサトルじゃないの! 十八歳の女の子です!」



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