宣誓! 陽葵の決意!
ここは埼玉県にある地域密着型な特別養護老人ホームである。自分の家から自転車で三十分!うん!いい運動!くらいな通いやすさと、学歴関係なく雇用を募集していたこと、そして祖母が最後にお世話になった場所という理由で、陽葵はここ、翡翠の郷に就職しようと決意し、今に至る。
「皆さん、すごいやる気に満ち溢れた若者が翡翠の郷にやって来てくれました。ただ、社会人として初めて働く場所。不安もたくさんあると思います。皆さん気にかけて助け合ってくださいね」
ダンディズムを具現化したような男性の施設長が研修室に職員を集め陽葵の紹介をする。集まった皆は適切に距離を取り並んでいる。窓は解放し春の空気が流れ込む。そして不織布のマスクを皆着用している。この感染症に敏感な御時世柄、可能な限り対策は徹底させていた。
「では立花さん。新入社員としての意気込みを!」
「はい! 私は技術も知識も社会人のルールも未熟な者ですが、体力とやる気は人一倍あります! 頑張りますので御指導よろしくお願い致します! そして……」
陽葵は一拍息を吸い、想いを込め直して、これから一緒に働く仲間に向けて、溌剌に宣言した。
「入居者様の声を、しっかり聴いてあげたいです!」
その発言に、素直に感心する者や、ややひねくれた笑みをする者も。施設長は、深く、静かに頷くと、拍手をゆったり響かせる。つられて職員皆も拍手する。
「この翡翠の郷の理念は、想いを受け止め尊重して。面接の時に私はこの決意を聞いて、彼女はこの翡翠の郷にいい廻りを与えてくれると思っています」
陽葵は、高らかに宣言しておいて、今となり緊張と羞恥心で手が震え、顔が紅潮してきた。その変化をよく見つめて気づいている一人の青年がいた。