立花陽葵、出陣!
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「陽葵ちゃんはいい耳してるねぇ。おばあちゃん大好きよ」
「みみ? わたしのみみたぶ? やわらかいから?」
夕焼けが静かに沈むとある民家の縁側で、品の良い祖母と、陽葵と呼ばれたその年端も行かない孫の女の子が足を降ろして座っている。あまり広くない敷地内には、申し訳程度の畑と花壇がある。実りもあり、花も咲いていたが、やや、枯れ始めていた。
「それとそうだけどね。陽葵ちゃんは、よく私の話を聴いてくれるからねぇ」
「だっておばあちゃんのこえすきだもん! あったかいし、やさしいし!」
「陽葵」
「なぁにおばあちゃん?」
「その心持ちに救われる人はたくさんいると思うの。大事にしてね。聴いてあげること」
「? うん!」
「さて……」
祖母はゆっくり、四点杖を手にしながら立ち上がり、部屋の中へ向かおうとする。陽葵もつられて立ち上がり、祖母の後を追うと、祖母は陽葵の気配を感じて振り返る。
「あら、陽葵ちゃん。来てたのね。いらっしゃい。お菓子いるかい?」
「……うん! いっしょにたべよ!」
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まだ暗く襖障子越しから差し込む朝日もまだ薄明かりである。その部屋の中で布団から飛び出て目覚めた女の子。寝癖まみれの髪を自身の手で撫で梳かし、一度深く呼吸をする。少しの間静けさに浸る。
スマートフォンのアラームが鳴り響く。時刻は五時に。瞬間、圧倒的瞬発力で早押しクイズかの如くスマートフォンをタッチしアラームを停止させる。
「しゃあ! 勤務初日は目覚ましに圧勝だぞ! 幸先いいぞ! うおー!」
「ひーまーりー! うるさい!」
「お母さんに負けてたー! くそー!」
「早く降りてきて支度しちゃいなさい! ご飯準備できてるから!」
「ありがとー!」
布団を綺麗に畳み、襖障子と窓を開け、朝の冷たい空気をその身に浴びる。それが立花陽葵のマイルーティン。高校を卒業した新しいこの春に、陽葵が務めるその場所は。
「おはようございます! はじめまして! 立花陽葵と申します! よろしくお願い致します!」
「よろしく! ようこそ! 特別養護老人ホーム翡翠の郷へ!」
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