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お姉様の口がパクパクと動く。扇子を取り落とし、床に乾いた音が響いた。

「ア、アメリス……!? な、なぜあなたがここに……しかも、その格好は……!」 「驚かせてごめんなさい。でも、こうでもしないとお姉様、私と会ってくれないでしょう?」

私はソファに座り、真っ直ぐにお姉様を見た。

「衛兵を呼ぶなら呼んでもいいわ。でも、その前に私の話を聞いて。これはロナデシアの、ううん、お姉様自身の損得に関わる大事な話よ」

「損得」という言葉に、お姉様は反応した。彼女は震える手で眼鏡の位置を直し、大きく深呼吸をした。

「……追放された分際で、随分と大胆な真似をするようになったものね。いいでしょう、聞きなさい。ただし、私の興味を引けなければ即座に突き出しますわよ」

態度は相変わらず冷徹だが、話を聞く姿勢は見せてくれた。第一関門突破だ。 私は単刀直入に切り出した。

「お父様とお母様の方針に従っていたら、ロナデシアはジリ貧よ。マスタールとマルストラスが手を組んだ今、ロナデシアが孤立するのは時間の問題。……お姉様も、それに気づいているんでしょう?」

図星だったようだ。お姉様は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……父様も母様も、感情論で動きすぎですわ。特に母様はマスタールへの対抗心で目が曇っている。このままでは私の計算した黒字計画が全て水泡に帰してしまう」 「なら、私と手を組みましょう」

私は身を乗り出した。

「私は今、マスタール州知事と協力関係にあるわ。そしてマルストラスともパイプを作れる可能性がある。私が間に入れば、ロナデシアを孤立から救い、かつての交易ルートを復活させることができる」

「あなたが? 無能な次女のあなたが、何を根拠に?」

お姉様は鼻で笑った。

「根拠ならあるわ。私が『アメリス』だからよ。マスタールは私を保護するという名目で、ロナデシアを攻撃する口実を持っている。でも、もし私が『お姉様と和解した』となれば、彼らは攻撃する大義名分を失う。……これは、戦争を回避するための唯一の策よ」

これはロストスとアルドの受け売りだが、自信満々に言い放った。 お姉様はしばらく沈黙し、頭の中で高速でそろばんを弾いているようだった。彼女の瞳が、計算高い光を帯びていく。

やがて、お姉様はふぅ、と息を吐いた。

「……確かに、計算は合いますわね。あなたが戻れば、少なくとも外交上の最悪のシナリオは回避できる。それに、あなたを私の管理下に置けば、母様への言い訳も立ちます」

お姉様は冷ややかな笑みを浮かべた。

「でも、タダで協力するとは思えませんわね。条件は?」 「三つあるわ」

私は指を立てた。

「一つ、タート村およびヨース村への干渉を一切やめること。彼らの自治を認め、不当な重税を課さないこと」 「……些末なことね。いいでしょう、あの痩せた土地など興味ありませんわ」

「二つ、前線に送られたアルドたち兵士の名誉回復と、彼らの帰還を認めること」 「……有能な兵士を遊ばせておくのは損失ですが、まあ、あなたの護衛という名目なら経費で落ちますわね」

「そして三つ目」

私は一度言葉を切り、お姉様の目を強く見つめた。

「お父様とお母様が隠している『秘密』について、お姉様が知っていることを全て教えてほしいの」


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