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「……あら? 存じ上げないお顔ですわね。どちら様かしら?」

バレていない! 私は内心でガッツポーズをしつつ、表面上はクールな笑みを浮かべた。

「お初にお目にかかります、美しきロナデシアの才媛。私はアメル・クリスティ。東方より、新たな投資先を探してこの地へ参りました」 「アメル……? 聞かない名ですわね」

お姉様は疑り深い目で私を上から下まで眺め回した。値踏みされている。まるで商品棚の壺でも見るような目だ。 しかし、私のタキシードの襟元、ルネが選んでくれた最高級のシルクのネクタイに目が留まると、彼女の眉がピクリと動いた。

「ですが、そのお召し物は悪くないわ。マスタールでも手に入らない一級品ね」 「お目が高い。これは我が国独自のルートで仕入れたものです。……ロナデシア領は現在、流通の停滞にお悩みだと小耳に挟みましたが?」

私が核心を突くと、お姉様の表情が一瞬強張った。

「どこでそのような噂を? 我が領の経営は盤石ですわ」 「隠しても無駄です。数字は嘘をつかない。あなたの瞳にある焦りもね」

私は一歩踏み出し、お姉様の手を取った。本来なら無礼討ちになってもおかしくない距離だ。しかし、私は賭けに出た。あの男が言った「淫魔」の力が本当にあるなら、今こそ役に立ってもらわなければ困る。

私はお姉様の手の甲に、うやうやしく口づけを落とした。

「私なら、あなたの悩みを解決できるかもしれない。……少し、静かな場所でお話ししませんか?」

顔を上げ、至近距離でお姉様の目を見つめる。 その瞬間、いつも鉄仮面のようだったお姉様の頬が、朱に染まったのを見逃さなかった。 彼女の目が潤み、呼吸がわずかに乱れる。

「……よ、よろしくてよ。特別に時間を割いて差し上げますわ」

やった! 私は背後のロストスにこっそりとVサインを送った。ロストスも驚いたように目を見開いている。 お姉様は従者たちを手で制し、私を別室の応接室へと案内した。

重厚な扉が閉まり、部屋には私とお姉様の二人きりになった。 遮音性の高い部屋だ。ここなら何を話しても外には漏れない。

お姉様はソファに座ると、扇子でパタパタと顔を扇いだ。まだ頬の赤みが引いていないようだ。

「さて、アメル殿。具体的な提案をお聞きしましょうか。我が領にどのような利益をもたらしてくれるのかしら?」

お姉様はすぐにビジネスモードに戻ろうとした。さすがだ。 私は対面のソファには座らず、お姉様の前に立ったまま、ゆっくりとネクタイを緩めた。

「あら? いきなり何を……」

お姉様が狼狽える。私は構わず、カツラを留めていたピンを外し、タキシードの上着を脱ぎ捨てた。 ふわり、と結い上げていた長い髪が解け、肩に落ちる。

「……え?」

お姉様の目が点になった。 私は普段の、アメリスとしての声に戻して言った。

「久しぶりね、アサスお姉様。少しは私の顔、思い出してくれた?」


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