第41話 アメリス、男装する。
あまりにも唐突な出来事であり、なすすべもなくルネに身体中弄られてしまったため、彼女が出ていってからも私はしばらく呆然としていた。
あの子、男装とか言ってたわね。
先ほどルネが出ていく前に話していたことを咀嚼する。
一体全体何を考えているのかしら。
ぼんやりとそんなことを考えていると、
バンッ!
という強い音と共に、閉じていた扉が開け放たれた。驚いて扉の方へ目を向けると、そこには何やら大荷物を抱えたルネが立っていた。彼女の身長の半分はあるのではないかと思わせるような大きな袋を抱えており、視界の確保が大変そうだ。
彼女は荷物が重いためかよろけながら部屋へと入ってきて、座り込んでいる私の目の前まで近づくと、ドスンという振動音と共に荷物を下ろした。静かな部屋に、音が響き渡る。
「ルネ、その大荷物は一体……?」
検討がつかず、私が首をかしげると、
「もうアメリス様、察しが悪いですね。今の会話の流れからわかるでしょう」
ルネはそう返事をして、床に置かれた袋を漁り始めた。「これも違うなぁ、いや、一回着ていただくのもありか……」などぶつぶつの喋りながら、袋の中をのぞいている。
どう声をかけたものだろうかと悩んでいると、
「う〜ん、まずはこれでいいかな。アメリス様、これ着てみてください」
という声と共に、ルネは布のようなものをこちらに向かって投げてきた。丁寧に折りたたんである黒い布であり、非常に手触りが良い。
なんだろうと思い、布を広げてみると、
「これは……タキシード?」
布は明らかに男性用の装束であった。
「そうです。すらっとしたタイプのアメリス様なら、やっぱりそれがお似合いじゃないかなと思いまして。さぁ、着てみてください!」
キラキラとした目でルネはこちらを見てくる。
「え、でもこれ男性の服だし……」
「でも変装する必要があるんでしょう? だったら着るべきです! いや着なきゃいけません! 私はきっとアメリス様に出会った理由は男装させるためだったんです!」
それは違うでしょうに。ロストスの妹だったからでしょうに。
「いやいやいや、男装に限らなくても女性のまま見た目を変える手もあるじゃない。こう、お婆さんの姿になるとか、ね?」
だが、私の再びの抵抗はルネの心には届かなかった。
「そんな選択肢ありません」
「え、ないの?」
「はい、ないです」
ルネはそう言うと、しゃがみ込んでずいと私の方に顔を近づけてきた。ここまでくるとどう逆らっても無駄な気がしてくる。
「わ、わかったから。とりあえず着るだけ着てみるから」
私がそう言うと、ルネは満足そうに笑みを浮かべ、うんうんと頷いた。
そこからのルネの手際は凄まじかった。スルスルと私の服を流れるような作業で脱がせ、まさしく神業の要領で私の着替えを一瞬で終わらせてしまった。今まで付き添ってきてくれたどんな従者よりも手際が良かった。
「さ、あとはネクタイを締めれば完成です」
そう言いながら、私の首元でルネはネクタイの微調整を行い、全てが完了したらしい。
「さあアメリス様、ご自身の姿を確認してください」
ルネはそう言って袋の中から、折りたたみ式の鏡らしきものを取り出すと、これまた素早い手つきで組み立てて私の前に静かに置いた。
「なんだか別人になったみたいね」
正直な感想であった。
普段はふんわりとしたドレスばかり着ていたので、こういった体のラインが強く出るような服装はあまり馴染みがない。だからと言っていやらしい雰囲気があるわけでもなく、サラシで胸は潰してあるので、長身の私には悔しいがこの格好は似合っていると思ってしまった。
「あとはメイクをして、髪型を整えればどこからどうみても若い公爵にしか見えません。女性だってイチコロですよ!」
なぜかさっきから妙にイキイキしてるわねこの子。
どうしてルネがここまで楽しそうにしているのかはわからなかったが、自分でもこれなら身分を誤魔化して変装可能なのではなかと密かに思う。
「さあアメリス様、その姿を皆に見せてあげましょう!」
まるで自分のお気に入りのおもちゃを見せびらかしてやろうと言わんばかりに、ルネは勢いよく部屋から出ていってしまった。
……なんかあの子キャラ変わった?
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