09.3人でデートと主人と凄い勘違い
(んん...眩しい…)
僕は朝日に照らされて起きた。
今日は3人でお出かけの日だ。
「ん。おはよ。」
「ふわぁ。あら、シルフ起きてたのね。おはよう。」
「今ちょうど起きたとこです。おはようございます。」
横で寝ているふたりが目を覚ました。
お気付きだと思うが、3人川の字で寝ているのだ。
真ん中に僕を置いて、抱きしめて。
2人のいい匂いと柔らかい身体が押し付けられて、あまり寝れなかったわけじゃない。本当に。
「今日は楽しみましょ。ところでもう少し抱いてていいかしら?」
「シルフ、ふわもちで気持ちよかった。もう少し抱きしめて寝ていたい。」
「やめてください!?」
2人のマイペースさに困惑した。
僕の心臓はいつまで持つだろうか。
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3人は街まで来ていた。
「さて、まずは何か食べましょうか。シルフは何か食べたいものあるかしら?」
「ん。なんでも言って。いくらでも買ってあげる。」
得体の知れない僕に過保護すぎる気がするけど、気のせいかな。
それよりも僕は何を食べたいか考える。
(食べたいもの…。フランスパン食べたい。あの硬さが丁度いいんだよね。それにスープに浸けて食べるとまた別の良さがある。でも、フランスパンって無さそうだし、なんて言おうかな…。硬いパンでいっか。)
「硬いパンとスープが食べたいです。」
途端2人は苦々しい表情をした。
もしかして、パンって高級食材なのかなって考えてると、そうじゃなかったらしい。
「もっと贅沢していいのよ?私たちお金持ちって言ったでしょ?ほら、あそこのお店なんかどうかしら。
お洒落で料理も美味しいって評判よ。」
「私もあそこがいいと思う。行ったことないから行ってみたい。」
指されているほうを見ると、明らかに高そうなお店があった。
(むりむりむり。絶対高いよあそこ。住まわせて貰ってる上にご馳走をいただくなんて…)
「私なんかが贅沢をするのは良くないです。パンとスープさえあれば大…!?」
僕の言葉はサラさんに抱きしめられたことによって遮られた。
「自分を卑下したらだめ。シルフは幸せを求めてもいいの。お願い…。」
僕はサラさんの暖かい言葉と優しさに絆されて、そのお店へ行くことになった。
食事を終えた僕達が次に向かったのは服屋だ。
着いてからはもはや何をしたか覚えていない。
僕は自分が可愛いことを自覚したのと、
ずっと着せ替え人形にされてた気がする。
時折、
「なんでも似合うわね!あぁこれもそれもあれも全部買っちゃいましょ!」
「ん!可愛すぎる!次はこの服着せる!その次は…。」
なんて声が聞こえてただけだった。
僕はくたくたで、2人はやりきった表情をして店を出た。着替えさせられただけで疲れた。
「もうこんな時間なのね。どこか座って食べれるものを探しましょ。」
「なら、クレープ食べたい。甘いものは神。シルフもクレープが食べたいと言ってる。」
僕の気持ちを勝手に代弁しているがその通りだ。クレープ食べたい。
ちょうど近くにあったクレープ屋さんで購入し、近くのベンチに3人並んで座った。当然僕が真ん中になった。
そういえばここの町とこの世界ってなんて言うんだろ。2人に聞いてみた。
「この世界は″テーラ″。と言うわ。
3つの国で成り立ってるの。
1つ目は聖国。神を崇拝している国。
2つ目は人心王国。この国のことね。
3つ目は魔界帝国。これは一番危険よ。絶対行っちゃダメ。
そしてこの町は″シッタ″よ。」
「魔界帝国は魔族や魔人がいる。私達でも勝てるかわからない。」
僕はサラさんとシオンさんでも勝てない敵がいるんだと知り、少し怖くなった。
そんな僕の心情を察し、サラさんが撫でてくれた。気持ちいい。
目を細めて気持ちよくなってると、シオンさんが真剣な表情で僕を見た。
「辛いかもしれないけど、私の質問にも答えて欲しいの。いいかしら?。」
なんのことか分からないけど、僕にできることはするつもりだから頷いた。
「あなたの主人の名前を覚えていたら教えて欲しいの。辛いと思うけどお願い。」
主人…?なんの事だろ。保護者みたいなものかな。おじいちゃんの名前を言えばいいのかな。それ以外いないからね。
「たしか…龍信って名前だった気がします。」
「...!リュウシン!?」
「まさか…そんな……うそ…。」
僕が龍信って言うと、2人が青ざめて震えだした。
そんなに珍しいなまえだったのかな。
2人が何かコソコソ話した後に僕を抱きしめてきた。
「大丈夫。大丈夫よ。私達が守るから。だから安心して。」
「ん。絶対に守ってみせる。指一本たりとも触れさせない。」
何故こんなに抱きしめられているのか分からないけど、暖かくて安心するからよしとした。
その後僕は眠気に勝てず、おんぶして貰って帰った。
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シルフをベッドに寝かせた後、私とサラはリビングで真剣な顔で向き合っていた。
「これは予想以上に不味いわね。まさかあの子の主人がリュウシンだなんて想像だにしなかったわ。」
「ん。私も考えてなかった。」
リュウシンとは
裏社会を牛耳っている組織――終焉邪教――の幹部なのだ。
「これは私達だけでどうにかなる問題を超えてるわね。ギルマスに話に行きましょ。」
「ん。了解。その前に…。」
2人はシルフの寝顔を見てからギルドへ向かった。
ガロウにシルフのことを伝えたら、すごい顰めっ面になった。
「シルフにそんな過去があったんじゃな…。なんて不幸で可哀想な子なんじゃ。」
ガロウはシルフのいた境遇を想像すると胸が痛くなった。
だが、それ以上に気になったことがあった。
「今、リュウシン...と言わんかったか?」
「ん。言った。シルフの主人はリュウシン。危険な奴。」
ガロウはリュウシンをよく知っている。だからこそ聞き間違いであってくれと願ったのだ。
しかし、聞き間違いではなかった。
「リュウシンが相手となると厳しいのう。彼奴は強すぎるのじゃ。」
「もちろんわかっているわ。だからこそギルマスに協力を仰ぎに来たのよ。」
シオンはギルマスには基本敬語だが、焦っている時はタメ語になる。それほどまでにリュウシンとは危険な敵なのだ。
「…分かった。協力するのじゃ。お主らの頼みでもあるしのぅ。」
「ありがとう。ギルマス優しい。髭も立派。」
なんとか協力を得られた。
「じゃあ私たちはシルフを家で1人にさせてるからすぐに帰るわ。また来るわね。」
「また後日。じゃあね。」
そう言って2人は帰っていった。
「せっかちなやつらじゃ。それに、シルフという幼女はなんて不憫なんじゃ。名前もなく奴隷じゃったなんて...。幸せになってほしいのう。」
ガロウは窓の外を眺めた。
(……。嫌な予感がするのう…。)
近いうちにガロウの予感は的中することとなる。