05.勘違いは加速する~シオンとサラ視点~
サラに手を引っ張られて、病室から出た私達はそのまま家に直行した。
「・・・・」
「・・・・」
沈黙。
2人は今あの幼女のことを考えている。
翠眼。銀髪ロング。筋の通った小ぶりな鼻。長い耳。
恐らくエルフなのだろう。
エルフというのは基本長命で、見た目が10代後半で止まる、美しい種族だ。
だが、あの幼女は、これまで出会ったエルフの中でもとびきり可愛く、美しいのだ。実は精霊だと言われても信じる。
・・・
話が逸れてしまった。
今はまずあの子をどうするかだ。
私が思考を巡らせていると、
「シオン。私はあの子をチームに入れたい。」
チームに誰かを入れることを必ず拒んでいたあのサラが、初めて人を入れたいと言ったのだ。
私も迎え入れたいと思っているけど、そう単純な話では無い。
「私も迎え入れたいと思っているわ。だけど、Aランクのチームに入るには、最低Bランクは必要なの知ってるわよね。」
「ん。勿論。だけど、あの子を1人にしたら多分―――死ぬ。」
サラの言っている通り、あの子を1人にしたら死ぬだろうとシオンも思っていた。
この世に家族がおらず、名前もなく、友人もいなく、ずっと奴隷として生きてきた彼女。
自己肯定感も低く、自分に価値が無いと思い込んでいる。
ずっと無表情なのは恐らく、誰からも愛されず、心を閉じ込めているからだろう。
このままだと心も壊れてしまうのではないかと悟る。
「あの子・・・無表情のまま涙を流して、なぜ自分が泣いているのかすら分かってなかったわ・・・。
優しくて、良い子で、礼儀正しすぎるのよ・・・。
彼女は見た目相応の歳をしてると思うのに、一体どんな環境で生きてたっていうのよ・・・。」
「出来損ないと言われて、怒られ慣れてるとも言ってた。きっと、何度も、怒鳴られ、殴られ、蹴られて
それで無理やり覚えさせられたんだと思う。本当に胸糞悪い。」
シオンとサラは居るはずのないあの子の主人に憤りを覚えていた。
あんなか弱い子にそんな非道な行為をする奴にいつか痛い目を見せてやると2人は誓った。
「1度ギルドマスターに、なんとか私たちのチームに彼女を入れていいか聞くしかないわね。」
「ん。そうしよ。でもその前に、もし加入可になった時のために、今しなくちゃいけないことがある。」
「今しなくちゃいけないこと?なにかあるかしら。」
「あの子の名前を決めること。」
「...!そうね!それは大事だわ!勝手に決めていいか分からないけど、一応ね!」
「とびきり可愛のをつけてあげる。あの子に似合うような。」
あの子の名前を決めるってなったら緊張してきた。
一体何が似合うのだろうか。
「翠眼だから、スイっていうのはどうかしら?」
「ピンと来ない。だめ。もっといいのがあるはず。」
「難しいわね。サラはなにか思いついたかしら?」
「エルフだから、エル。どう?。」
「私以上に安直ね、だめよ。」
「むぅ。精霊みたいだった。そんな可愛い子に合う名前思いつかない。」
分かる。精霊みたいだった。精霊・・・。
確か精霊ってシルフだったっけ。
シルフ・・・。
合う気がする。
「精霊みたいだったからそのままで″シルフ″。って名前はどう?」
「ん。良いと思う。シルフ可愛い。」
サラも満足してるようだ。あの子も気に入ってくれたら嬉しいな。
名前は決まったし次やることは、
「ギルドマスターに会いに行くわよ。」
「ん。了解。」
私達は、ギルドマスターに会いに、ギルドへ向かった。
ギルドに到着し、ドアを開けるといつも通りがやがやしていた。
シオンとサラは一直線に受付まで行き、受付嬢であるミサに話しかけた。
「ギルマスは今時間ある?少し相談したいことがあるの。」
「奥の部屋でお待ちください。3分ほどで来られると思います。」
「わかったわ。ありがとう」
感謝を伝えて、サラと共に奥の部屋へと向かった。
数分部屋の中で待機してると、ドアが開いて誰かが入ってきた。
「おー元気にしとったか。お主らからの相談なんて初めてじゃないかの?一体何があったんじゃ。」
陽気に入ってきたこのドワーフは元Sランク冒険者、現ギルドマスターで、名はガロウという。
気さくで皆に慕われている。勿論シオンとサラも。
「お久しぶりです。早速ですが本題へ入らせていただきます。ある幼女をチーム入れたくご相談に参りました。」
シオンが話を切り出した。
「幼女を?何故じゃ。それにBランクを超えておるのか?」
「その子はまだ冒険者ですらない。だけど、天涯孤独の身だから私たちが保護者になりたいの。」
「なるほどのぅ・・・。」
ガロウは自慢の髭を撫でながら考えた。
そして少し経ったあと言葉を続けた
「構わんぞ。ただし、条件がある。Sランクになるのじゃ。」
「かしこまりました。」
「ん。わかった。」
「お、おぉそんな即答でいいのかのぅ。今までは
Sランクには絶対にならないわ!。と、言っておったのに。」
シオンとサラがSランクになるのを拒んでいたのは幾つか理由があった。
1つ目は、メンバーが一人増えること。
2つ目は、有事の際に最前線に行かなければいけないこと。
3つ目は、単純に面倒だからだ。
だが、それ以上にあの幼女の事を気にかけていた。
だから即答したのだ。
「あの子の為ならなんだってやるわ。」
「ん。私も。可愛いは正義。」
ガロウはこの2人を動かすほどのその幼女とやらが気にはなったが、口には出さなかった。
幼女が気になるなんて発言したら誤解を招きかねない
からだ。
「あいわかった。じゃが、近日中にその子を連れてギルドに来るのじゃ。ギルド登録も兼ねて魔力検査もするぞ。」
「ん。わかった。」
「かしこまりました。」
そうして2人は明日会う幼女のことを考えながら帰った。