04.勘違いの始まり~シオンとサラ視点~
私達、シオンとサラは今からあの幼女に会いに行くつもりだ。
幼女は2日起きずに、今日で3日目だ。
心配で心配でたまらない。
「あの子大丈夫かしら・・・」
「きっと大丈夫。」
大丈夫だと言ったサラの声は震えていた。
私を安心させるために言ってくれたのが分かる。
昔からサラは優しいのだ。
2人はあの時の幼女の姿を思い出していた。
「全身傷だらけで裸足。さらにボロボロの布1枚しか着ていなかったわね・・・。もしかしてあの子は奴隷なのかしら・・・」
「ん。私もそう思う。きっと使えないと言われて、魔獣の森に捨てられたんだと思う。本当に酷い。許せない。」
「やっぱりそうよね・・・。酷い。酷すぎるわ。絶対に許せない。それに、あの子に何もしてあげられない無力な自分も・・・。」
サラとシオンは憤慨していた。10歳にも満たないような幼女を使い捨てた飼い主と、何も出来ない自分自身にだ。
実際は、奴隷ではないし、捨てられたわけでもないが、彼女らが知る由もなかった。
そうこうしているうちに、いつの間にかあの幼女の病室の前まで来ていた。
すると、扉の向こうから幼女が咽び泣く声が聞こえてきた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
2人は何も言わず。ただ、その声を聞き己の無力さを痛感し、遣る瀬無い表情している。
なにかしてあげたい。救ってあげたい。そんな気持ちで胸が張り裂けそうだった。
10分程経った後、ノックをし、ドアを開けて入った。
幼女がこちらを見ていて目が合い、シオンとサラは驚いた。
「かわいい・・・」
そう声に出したのはシオンだった。
助けた時、幼女は傷だらけで、私達は急いでいたから顔はあまり見なかったからだ。
翠眼。銀髪ロング。筋の通った小ぶりな鼻。長い耳。
涙を流していても尚、絵になる。
簡単に言うと精霊のようだった。
そんな彼女は私達と目が合った途端逸らして、涙をゴシゴシと拭っていた。それすらも愛らしい。
とことこと歩いていき、彼女のそばに座ると、彼女が震えていた事に気がついた。
恐らく人に対して警戒し、恐怖を抱いているのだろうと考えたシオンとサラは心苦しく感じた。
少しの沈黙の後、シオンが話を切り出した。
「起きたのね。本当に良かったわ...。
私の名前はシオン。横にいる子はサラよ。
貴方がティスティタイガーに襲われて、気絶してるところを救出したの。」
「あ、りがとうございます。おかげでもう少し生きられそうです」
彼女が答えてくれた。嬉しい。
だけど、声が震えているのも気になる。
私達はあなたに危害は加えない、だから安心して欲しい。と抱き締めたい。だけど、警戒されている今の私達にはできない事だ。
「そう...。随分と酷い容態だったから心配だったの。
でも、明日には退院出来ると思うわ。
ところで、貴方のお名前を聞いてもいい?」
たとえ奴隷でも普通は名前がある。名前はすごく大事なものだと私は考えている。
「ごめんなさい。名前ありません。」
私は今、ハンマーで頭を叩かれた気分だ。
名前が・・・ない?どれほど過酷な境遇で生きてきたのかを想像し、声にならない声が出た。
「っ...!そう...。辛いことを聞いてごめんなさい。お母さんやお父さんは今どこにいるの?親しい人でも構わないわ。連絡して迎えにきて頂けるように言ってみるわ。」
せめて誰か親しい人がいて欲しいと切に願った。
だが、逆効果だった。
「お父さんもお母さんも親しい人もこの世にいません。私1人だけです。」
・・・・
家族や友人もおらず、ずっと奴隷として生きてきたなんて・・・
想像以上の答えが返ってきてしまい、私は顔を歪めて黙ってしまった。
こんな可愛い10歳にも満たない女の子になんでそんな酷いことできるのよ・・・
更に、彼女の次の言葉で私は辛さが限界突破した。
「1人には慣れてるから大丈夫ですよ。それに私は出来損ないなので、例え怒られても大丈夫なのです!」
言葉を失った。
あぁ・・・・
この子は・・・
無表情で、震えた声で、それでも私達を気遣ってくれているのがわかる。
なんて健気で良い子なの・・・・
でも、だめよ。1人に慣れてしまっては。
私は堪えられなくなり、ふと横へ視線を移すと、サラは唇を噛み締めて、拳が震えていた。
サラのこんな姿は初めて見た。
(これは凄く堪えるわね・・・)
そう思い、視線を幼女へと移した。
そしたら幼女は無表情で涙を流していた。
私は絶望に近い感情を抱いた。
無表情で涙を流すのは、心が壊れる寸前だと聞いたことがあるからだ。
(これは危険だわ。はやくなんとかしなければこの子は壊れてしまう)
私はスっとハンカチを出し、幼女の目元に当てた。
驚いていたが、恐らくハンカチではなく、何故か自分が泣いていたからだろうなと私は考えた。
実際幼女の精神は壊れかけている。勿論本人は気付いていない。
幼女の涙が止まるのを待ったあと、私は言葉を続けた
「駄目よ。そんな悲しいことに慣れちゃったら駄目。
貴方はもっと色んな人と仲良くなっていいの。だから、そんな悲しいことは言わないで...。」
幼女はキョトン顔で答えた。
「分かりました。こんな私なんかの為にありがとうございます。」
多分何のことか理解してないなと私は思った。
どうしようか考えてる時に横を見たら、サラが泣いていた。
そうよねつらいわよね。私も泣きそうだわ・・・。
少しの沈黙が流れたあと、サラが喋った。
「また明日くる。絶対安静にしてて。動いたら駄目だからね。」
何かを決心した眼でそう言い残し、私の手を引いて病室を出た。