表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本編第二幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/74

70.唯一の家族だから②

 実際の時間にして、数秒の出来事だったのでしょう。

 私たちは立ち尽くし、頭の中に流れ込んできた情報を処理する。まばゆい光はいつの間にか消えていて、私たちはぼーっと石板を見つめる。


 バキバキ、パキッ――


 石板がひび割れていることに、私は気づくのが遅れてしまった。


「セレネ!」

「――!」


 ディルが私の名を叫んだ。と同時に、石板が激しく大きな音を立てて砕け散ってしまう。バラバラに壊れ、地面に残骸が積み上げられる。

 一歩遅れたら壊れた破片の下敷きになっていたかもしれない。ディルが咄嗟に私の腕を引き、抱き寄せてくれたおかげで助かった。


「ふぅ、危なかったな」

「……ありがとう。助かったわ」

「どういたしまして。お前が素直にお礼を言うなんて珍しいな」

「……そろそろ離してもらえる?」

「ん、ああ」


 少し、恥ずかしいと思ってしまった。

 私はディルから離れ、砕けてしまった石板の残骸に視線を向ける。


「さっきの情報は……」

「お前も見たのか?」

「ディルも?」

「ああ。守護者が生まれた時の記録……いや、記憶か」


 どうやら情報が頭に流れ込んできたのは、私一人だけじゃなかったらしい。触れた人が見るのではなくて、あの光に照らされた人が記憶を見るのでしょう。

 そういう理屈なら、彼も見ているはずだ。


「あなたは見たのね」

「……は、はい」

「大丈夫か?」

「はい。突然だったので驚いただけです」


 心配するディルに、ユークリスは笑って返事をする。困惑しているようにも見えた。いきなり脳内に情報を流し込まれたのだから、そういう反応にもなるか。

 私たちは流れ込んだ情報を整理するように話し始める。


「今のは守護者たちが誕生した頃の記憶ね」

「ああ。守護者より先に魔獣が生まれて、それに対抗するために王と異能者たちが生まれた……っていう流れだったみたいだな」

「王の誕生は、人々の願いだったのかしら」

「そう聞こえた。いや、感じられたな」


 流れ込んできた記憶は、誰かが私たちに物語を聞かせているようだった。誰なのかはわからない。もしかすると、始まりの王が残した記憶とか。

 壊れてしまった石板には、独りぼっちの王が描かれていた。この石板を作ったのはかつのて王なのだろうか。


「重要なこともわかったな。守護者は王が生み出した……少なくとも、現代に残る六つの異能は、王から派生したんだ」

「そうみたいね。月と影は……この後に出てくるのかしら」


 記憶は中途半端なところで途切れていた。

 魔獣から人々を救った後、どうなったのかがわからない。平和が訪れたのか、それとも戦いが続いたのか。

 人々を救った……と聞こえたから、戦いそのものは終わったのだろう。

 私は以前にユークリスから聞いた月の守護者の話を思い返す。月の守護者は、王の子供である双子の片割れだったという。

 今見た記憶が事実なら、この後に王と月の守護者は、政権をかけて争うことになる。


「影の守護者の名前が出てこなかったのも気になるな」

「そうね。私たちが同じ日に力を開花させたのだから、月の守護者の誕生と同じ時期じゃないかしら」

「かもしれないな。できれば続きを見たいが……」

「無理そうね」


 私はそっと、壊れた石板に手を触れてみる。当然のように何も起こらない。まばゆい光が放たれることも、力が吸い取られることもない。

 もはや石板から得られる情報は何もなさそうだ。

 ただ、十分な手掛かりを教えてもらっている。守護者誕生のこと以外にもう一つ、私はとある名前に注目した。


「これからどうするか……」

「手掛かりならあったわよ。ディル、貴女にも教えたはずよ? シオリアが名乗ったもう一つの名前を」

「もう一つ……ああ、そうか」


 ディルが遅れて気づき、両目を大きく見開く。

 シオリアは自身を人間であり、魔獣でもあると言っていた。その時に名乗った名前が、ついさっき見せられた記憶にも登場している。

 人類を脅かした原初の魔獣、六体の名前。

 セラフ、ヴィクトル、ハリスト、ラファイ、ルフス、そして――


「アギア。その名前があったはずよ」

「覚えているさ。まさか、初代たちが倒した原初の魔獣と同一なのか?」

「わからないわね。名前が一緒ってだけかもしれない。けど、可能性はあると思っているわ」


 人間が魔獣と化す。そんな事例は報告されていない。魔獣とは何なのか、その疑問に更なる難題を突き付けた。

 研究者にとっては頭を悩ませる種かもしれないけど、私にとっては光明に他ならない。過去にない事例……原初の魔獣と戦った記憶。

 それらが無関係とは、どうしても思えなかった。

 ディルの横顔にも期待が浮かぶ。


「もしも、シオリアと原初の魔獣に繋がりがあるのであれば……」

「ええ、直接聞くことができるわね。当時の様子を、魔獣とは何なのか、私たちが持つ異能とは何なのか、その答えに一番近い存在よ」


 もちろん、知っているとは限らない。

 原初の魔獣は王と六人の守護者に敗れ、倒されてしまっている。その後の記憶が残っていなければ、私たちが見た記憶以上の情報は得られないかもしれない。

 でも、同一の魔獣であるのならば、現代まで生き続けた……もしくは長い年月をかけて復活したということになる。

 その月日は、人間の時間を遥かに凌駕している。

 些細なことだろうと、私たちが知らない何かを知っている可能性は高い。というより、もはやそこにかけるしかなくなっていた。

 石板は砕け散り、読み取れる情報はもうない。得られたのは原初の魔獣の存在と、王と守護者が誕生した日のこと。

 現代に残る守護者たちの異能は、全て一人の王から派生したという事実だけだ。ここから先に進むためには、新しい情報がいる。

 そのためにも……。


「シオリアを捕まえて、聞きだすわよ」

「……いいのか?」

「何? 今さら怖気づいたとか言わないでよ」

「そうじゃなくて、一応彼女は……お前とあの子の母親だろ?」


 ディルが心配した表情で私に問いかけてくる。この人はいつも……本当に甘いわね。

 私は小さく微笑む。


「だからこそよ」

「セレネ……」

「身内の問題は、身内で決着をつけるわ」


 そうしたいと思う。そうじゃなきゃ、私は堂々と前に進めない気がするから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ