表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本編第二幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/74

56.太陽が昇る②

 セレネが去った玄関に残されたソレイユとシオリア。

 ソレイユはセレネが歩き去る背中を無言で見つめ、彼女が見えなくなるまでその場にたたずんでいた。


「お姉様……」


 口にはできずとも、様々な想いが彼女の中で渦巻いている。しかし、本当の想いを伝えることを、彼女は許してくれない。


「ダメよ、ソレイユ」

「お母様」


 シオリア・ヴィクセント。ソレイユは実の母親である彼女の言葉には逆らえない。


「悪いと思ってはダメ。言ったでしょう? 悪いのは全部セレネなの。彼女が貴女から当主の座を奪ったのよ」


 シオリアは顔をソレイユに近づけ、御呪いでもかけるように、そっと耳元で囁く。ソレイユはその言葉に震えていた。


「で、ですがお母様」

「口答えをするの? 私に?」

「――! ご、ごめんなさい、お母様」

「ふふっ、いいのよ。可愛い可愛いソレイユ」


 シオリアはソレイユの頬を撫でる。優しく、少しだけいやらしく……娘をめでる様子には見えず、どこか玩具を撫でているだけの子供のように。


「貴女は何も考えなくていいのよ。ただ私の言う通りにしていれば幸せになれるわ」

「……はい。お母様」


 幸せとは何か。

 ソレイユの頭にはそんな疑問が浮かび、口に出すこともできず静かに胸の奥へとしまい込んだ。


  ◇◇◇


「――本当なのか?」

「私が嘘を言っているように見える?」

「……」


 遅れて屋敷へと戻ってきたディルが、私の顔をじっと見つめる。訝しむような視線が数秒続いて、呆れたようにため息をこぼす。


「見えないな」

「よくわかってるじゃない」

「最初から疑ってたわけじゃない。ただ……急すぎてな」

「私だってそうよ」


 ディルにはすでに説明してある。

 ソレイユが異能を開花させていたこと。その事実と共に、彼女の母親であるシオリアが本宅へ戻ってきて、ソレイユを当主に押し上げようとしていること。


「ユークリスとはゆっくり話せたの?」

「ああ、おかげさまでな。あいつもお前に感謝してるよ」

「そう。ならよかったわ」

「俺たちはな。お前はそれどころじゃないだろ?」

「そうでもないわ。予想していたことでしょう?」


 太陽の異能を覚醒させるならソレイユしかいない。そう予想を立てて、明日には直接尋ねるつもりでいた。

 急展開ではあったけど、当初の予定を前倒しにできたのはいいことだろう。と、前向きに考えることもできるけど、ディルの言いたいことも理解できる。


「どうするつもりだ? まさか当主を譲る気はないと思うが」

「当然よ。今の立場は便利だもの」

「便利ねぇ。まぁ理由はともかく、当主を交代する気がないのはわかった。俺としてもそっちのほうが有難い」

「でしょうね。貴方の存在がバレるといろいろと面倒だもの」


 忘れ去られた元王族で、月の異能を持つ不死身の守護者。大地の守護者との一件もあって、彼の存在は要注意人物として認識されている。

 私が彼と共に行動していたことが露見すれば、当主の座を失う以上に面倒なことが起こることは明らかだった。


「だが、こっちはそのつもりでも、相手は黙っていないんじゃないか?」

「関係ないわ。今の当主は私だもの。私の意志を無視することはできないわ」

「じゃあ無視し続けるのか?」

「……そうね」


 正直、私は少し悩んでいた。

 このまま放置し続けるほうが得策なのか。当主としての立場を守るなら、それでもいい。けれど私たちの目的は、当主の座を守ることより……。


「太陽の異能を、どうやって奪うか……ね」


 奪うだけなら簡単だ。

 異能を開花させたとは言え、ソレイユは甘い。お父様のように、異能を振りかざし私を攻撃することも難しいはずだ。

 強引な方法をとれば、異能を奪うなんて簡単に終わる。

 ただし、私たちには立場がある。私はヴィクセント家の当主として、彼女もまた、当主となる異能を開花させたもう一人の候補として。

 同じ家に、異なる異能を宿した候補者が生まれた事例など初めてのことだ。少なくとも記録された歴史の中には残っていない。

 まず間違いなく、多くの貴族たちが注目するはずだ。

 そんな中、私が強引に彼女から異能を奪おうとすれば、最悪の場合全ての貴族たちが敵になる。けれど力のない貴族がいくら徒党を組んでも関係ない。

 問題は、ヴィクセント家を除く守護者の家系の動向だ。

 一人一人ならともかく、彼らが全て敵に回ってしまえば、今後の行動にも支障をきたす。

 できるだけ目立たず、穏便に済ます方法はないかと考える。すると、一緒に考えてくれていたディルから提案が聞こえる。


「寝ているところで、こっそり拝借するのはどうだ? お前の異能なら簡単だろ?」

「……ディル」

「なんだ?」

「貴方って意外とひどいこと考えるのね」

「なっ!」


 意外だった。まさかディルの口から、女の子の寝込みを襲ってしまえ、みたいな意見が飛んでくるなんて。

 ディルは慌てて言い訳をする。


「別にひどいことをするわけじゃないだろ? というか、するのは俺じゃない」

「そうね。けど意外だわ。私よりも先に思いつくなんて」

「むしろお前は思いついてなかったのか? 真っ先に考えそうだと思ったんだが」

「ふふっ、残念ね。貴方のほうが先だったわよ」


 適度にディルをからかって、私は彼の意見に賛同する。


「いいアイデアね。採用するわ」

「それはよかった」

「今夜実行するわ。貴方も一緒にくる?」

「俺は遠慮しておく」

「あら、残念」


 一緒に来てくれたら、女性の寝室に忍び込んだ酷い人、という煽りでからかえたのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ