1巻発売記念SS
12/9発売!
「――そういうわけだから、何か面白い話をしてくれる?」
「……」
「どうかしたの?」
「無茶ぶりが過ぎるだろ」
ディルは呆れながらため息をこぼす。
「退屈だからって適当に話を振らないでくれ」
「いいじゃない。貴方はいろんな場所に行ったことがあるでしょ?」
「それはそうだが、大体話したぞ」
「他には?」
「いや、だから……はぁ……」
ディルはもう一度盛大にため息をこぼす。
そんな彼の様子を見ながら、私はクスクスと笑う。
「俺で遊んでるだろ」
「バレた?」
「ったく、最近この扱いが増えた気がするんだが」
「気のせいよ」
私たちも出会ってからそれなりに時間が過ぎた。
これだけ一緒にいれば、自然と距離は縮まっていく。
お互いに秘密を知っている間柄だ。
多少、打ち解けてもおかしくない。
「もっとトゲトゲした印象だったんだけどな」
「私のこと? 間違っていないわよ」
「そうか。最近のお前は、なんというか……小悪魔だな」
「悪魔なんてひどいわね。これでも人間よ」
幸福に生きたいと願うだけど、どこにでもいる人間だ。
私がそう言うと、ディルは笑う。
「お前が普通なら、世の中の大半が普通じゃないだろうな」
「おかしな経験が多いことは認めるわよ」
「そこだけじゃないって。ま、俺も普通とは程遠いから、言えた義理じゃないがな」
私は死んでループし、彼は死ねずに彷徨い続ける。
普通とは縁遠いと自覚している。
だからこそ、普通を目指している。
普通に死にたい。
普通に幸せに生きたい。
ただ、それだけ。
「特別なんて……特別なだけで、いいことばかりじゃないわね」
「まったくだ」
平穏が一番だと、私たちは心から思う。
同じ境遇だからこそ、通じ合うものがあるのは事実だ。
少しずつだけど、私たちは目指す場所に違づいている。
そう思いたい。
「この退屈にも慣れないといけないわね」
「それはどうかな? 普通が必ずしも退屈とは限らないだろ」
「そう? だったら貴方が私の退屈を紛らわせてくれる?」
「……善処する」
ディルは苦笑い。
だけど嫌だとは決して言わない。
そんな彼の甘さに思わず笑ってしまう。
こういう時間も、悪くない。
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タイトルは――
『妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢、実は敵国のスパイだったことに誰も気づかない ~婚約破棄に追放は計画通り! さぁ国に帰ってのんびり暮らしましょう~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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