40.不吉な知らせ
影の拘束を解く。
自由になったロレンスは立ち上がり、ぐるぐる腕を回し動きを確認する。
「うぅーん! やっと動けるよ」
「よかったのか? 解放して」
「いいわ。この男に秘密を話す気はないでしょう」
「信じられるのか?」
自分だってロレンスの言葉に嘘がないことくらい感じている癖に。
ディルは心配性ね。
「心配いらないわ。もしバラしたらお仕置きしに行くだけよ」
「逃げられるだろ」
「残念だけどもう逃げられないわ。世界中どこにいても……私の影が届く。この男の影は覚えたわ」
「影を覚えた?」
「ええ」
私が影で移動できるのは、一定領域内と一度でも行ったことのある場所だけ。
一度でも行った場所であれば影が記録し、いつでも繋げることができる。
厳密には場所を記録しているのではなく、そこにあった影を覚えている。
「人の影も同様よ。一度でも出入りした影ならいつでも繋げられるわ」
「そうだったのか。というか、そんなことできるなら他の守護者の影を繋げておけばよかったじゃないか。機会はあっただろう?」
「馬鹿なの? そんなことしたら警戒されるわ。それに何か起こる度に私が疑われるのよ」
「そ、それもそうか」
私は小さくため息をこぼす。
便利な力ではあるけど、使い手が私一人である以上、犯人が私だと一瞬で露見する。
ただし今回は別。
もう正体も何も知られているわけだし、存分に活用できる。
「そういうわけだから、約束は守ってもらうわよ」
「わかってるって! 絶対に言わない。だからついでに目的とかも教えて――」
「絶対に嫌よ」
「うっ、即答……」
信用しているわけじゃない。
全てを知る権利があるのは、同じ目的を持つ者だけ。
この男に知る資格はないわ。
「そっちの人は教えてくれない?」
「無理だな」
「うぅ……二人だけの秘密ってやつ? なんかずるいなぁ」
「そんな軽いものじゃないさ」
ディルの言う通り。
私たちの秘密は、目的は、軽はずみに教えられるような内容じゃない。
決して褒められた行為でもないことを、私たちは自覚している。
「どうしても無理?」
「しつこいな。あんまりうるさいと痛い目を見るぞ」
脅しながらディルは私に視線を向ける。
「そうね。痛いのがお好みなら応えてあげなくもないわよ」
「そ、それは勘弁してください……あ! そういえば忘れてた!」
突然大きな声を出したロレンスに、私とディルは思わずビクッと身体を震わせた。
「なんだ急に」
「大事な用があるんだった! 日が暮れるまでには伝えにいかないと! 二人にも関係あることだし、よかったら一緒に行く?」
「どこに行くつもりなの?」
「王城だよ」
◇◇◇
西の空に夕日が沈む頃。
王城では緊急の会議が開かれることになった。
私とロレンスもそこに参加している。
長いテーブルの奥に座っているのはディルの弟、ユークリス陛下。
後ろには彼を補佐するために姉が立っている。
そしてテーブルの左右には、王を支える六人の守護者たちが座っていた。
重たい空気が漂う。
守護者が一堂に会する機会は珍しい。
しかし仲良くお話を、という雰囲気ではなかった。
「先ほどの話は事実なのか?」
静寂を破ったのはゴルドフだった。
彼は両腕を胸の前で組み、怖い顔をしてロレンスを見る。
対するロレンスは飄々としながら答える。
「本当だよ。この目で確かに見たんだ。そうじゃなかったら、僕がわざわざ王都に戻ってくると思うかい?」
「……」
ロレンスが王都に帰還した理由、それはある知らせを持ってくるためだった。
それは嬉しい知らせではなかった。
むしろ王国にとっては最悪といってもいい。
「災害級の魔獣……か。そんなものが存在することに驚きだね」
「私も言い伝えだとばかり思っていましたわ」
普段から高笑いしていそうなアレクセイも重い表情をしている。
ミストリアの言うように、それは昔話に登場するような幻想だった。
災害級の魔獣。
ただの魔獣ではなく、一体で都市を壊滅させるだけの力を持った存在。
言葉通り、災害そのもの。
ロレンスの話によると、イーストアという街から北へ向かった山奥に魔獣が現れたそうだ。
その大きさは、山をも飲み込むほど巨大だったという。
ゴルドフがエトワールに尋ねる。
「ウエルデン殿、星読みはどうだったのだ?」
「はい。今から七日後、イーストアの街が壊滅する光景が映りました」
「なんと……」
エトワールの星読みは未来の光景を映し出す。
つまり、このまま放置すれば間違いなく街は壊滅するということだ。
その話を聞いた陛下も難しい顔をする。
「皆さん、一刻を争う事態です。どうかお力を貸してください。我々の力で街を、人々を守るのです」
「当然です」
「さすがにこれは無視できないな」
「僕も尽力します。最善の未来のために」
ゴルドフ、アレクセイ、エトワールが陛下の意思に答える。
この状況では私も放置はできない。
雰囲気の話ではなく、魔獣を放置すればいずれ王都に来るかもしれないからだ。
「仕方ないわね」
「えっと、僕はもう伝えたし――」
貴方も参加するのよ?
という視線を向ける。
「……いやー国の一大事に立ち向かってこそ守護者だよね! うん」
「ありがとうございます。皆さん」
この状況で協力しない者はいないだろう。
私でさえそう思っていた。
だけど一人、意外な人物が手を上げる。
「申し訳ありません。この件に私は参加できそうにありません」
ミストリア。フルシュ。
森の守護者だけが、私たちと意見を異にする。
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