4.それでも私は
「や、やめてくださいお父様! どうしてこんなことを……」
四回目。
私は屋敷の地下で軟禁されていた。
異能が私に宿っていると知られてから、お父様が私をここに閉じ込めたのだ。
そしてある時、急に押しかけてきて私を殺そうとしてきた。
「お前のせいだ。お前がいるから、ソレイユの力が覚醒しない。お前さえいなければ、異能はソレイユに宿っているはずなんだ」
「そ、そんな! 私は何も悪いことなんて!」
「黙れ!」
お父様の怒声が地下室に響く。
聞こえているのは私だけ、外に声は届かない。
お父様の声と怒り、殺気を一身に受ける。
「お前が悪いんだ。お前が生まれたから……」
「お父様……」
お父様が苛立っている理由は、私に力が宿ったことだけではない。
すでに他の家は世代交代を始めていて、私たちの家だけが遅れていた。
王族や他の家からもつつかれていたのだろう。
異能を絶やすことがあってはならない。
その苛立ちも相まって、私への当たりはより強くなっていた。
「もういい加減うんざりだ。お前がいるせいで、私の人生はむちゃくちゃだ」
酷い言いがかりだ。
嘆いているお父様を見て、悲しいのは私のほうだと心の中で思う。
「さぁ、もう死んでくれ」
「お父様……私はお父様の何なのですか?」
「ただの汚点だ。お前なんて、生まれて来なければよかったんだ」
◇◇◇
あの時だって、抵抗しようと思えばできたんだ。
私は力に目覚めていたし、お父様の力が弱まっていることも知っていた。
だけど、私は甘かった。
お父様が本気で私を殺そうとするはずない。
怒っているように見えても、その奥には愛情があるはずだと。
「信じた私が馬鹿だったわね」
「や、やめるんだ……セレネ! わ、私はお前の……」
「父親でしょう? 知っているわよそんなこと。嫌というほど知っている……だから何? お父様だからって、止める理由にはならないでしょ」
「な、なんだ……と……ごあ」
苦しそうな声をあげる。
あと少し、もう少し強く締めあげたら殺せてしまう。
今ここで殺しても、私はきっと何も感じない。
むしろ新しい変化が生まれることに期待すると思う。
躊躇する理由は、一つもない。
「ま、待ってお姉さま!」
そんな私の手を、響く綺麗な声が止めた。
「……ソレイユ」
泣きそうな顔をして、彼女はお父様の元へ駆け寄る。
そのまま私とお父様の間に立って、両腕を広げて私に言う。
「やめてくださいお姉さま! お父様に酷いことをしないで!」
「……どうして?」
「どうしてって、お父様ですよ! 私たちのお父様です!」
「知っているわ。貴女よりも前から、嫌になるくらい」
ソレイユ・ヴィクセント。
私の妹で、私と違って正妻の子供である彼女はお父様にも溺愛されてた。
何もかも私とは対照的な扱いだった。
明るく無邪気な性格も相まって、屋敷以外の人たちにも好かれている。
そんな彼女を、何度羨ましいと思っただろうか。
私のお母様は、お父様の愛人だった。
貴族ではなく一般女性だった彼女と、お父様は肉体関係をもっていた。
子供を作ることなんて頭になかったお父様は、私が生まれたことに酷く動揺したそうだ。
お父様は自身の失態を隠すために、私を正妻の子供と偽った。
小さい頃はまだ、私への態度も柔らかかったと思う。
ただそれも、妹のソレイユが誕生して変わってしまった。
ソレイユが生まれたことで、お父様にとって私は邪魔な存在でしかなくなったからだ。
生まれが違う。
たったそれだけのことでここまで違う。
どうして私だけ……。
ソレイユが優遇されていることにも納得はしていない。
ただ……。
「どうしちゃったんですか! いつもの優しいお姉さまに戻ってください!」
「優しい……ねぇ」
どうしても、彼女のことは嫌いになれなかった。
彼女は何も悪いことはしてない。
意図的に私を陥れようとしているわけでも、私のことを嫌っているわけでもない。
ただ思った通りに振る舞っているだけだ。
何より、彼女自身に悪意は一つもない。
純粋に私のことも慕ってくれている。
ループ中も彼女の前では優しい姉として振る舞っていたけど、嫌な気分じゃなかった。
ただ、それでも私は……。