表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/74

39.自由な男

 窓を開け放った部屋で一人、彼は帰りを待っていた。

 日が差す場所に近づくことも出来ない彼は、窓の先に広がる青い空しか目に映らない。

 

「くそっ、夜なら俺も手伝えたんだが……」


 悔しさに唇をかみしめる。

 そこへ影が蠢く。

 気配をいち早く察知したディルは、テーブルの横にできた影に視線を向ける。


「戻ったか」

「ええ、待たせたわね」

「いや無事ならいい。それで相手は?」

「焦らないで。今から出すわ」


 私にせっかちだと言った癖に、彼も人のことは言えないわね。

 焦る理由はよくわかるし、責めるつもりはないのだけど。

 

 私は影から拘束したロレンスを出す。


「ぷっは! 影の中は苦しいな!」

「この通りよ。大気の守護者を捕まえたわ」

「そうか。捕まえられたなら一安……ん? 大気の守護者!?」

「ええ」


 驚いて目を見開いたディルは、私とロレンスの顔を交互に見る。

 部屋の時点では正体がわかっていなかったから、彼が知らないのも当然だった。

 そして驚くことも。


「いやー捕まった~ 完全に油断してたね、うん」

「こいつが……大気の守護者なのか?」

「間違いないわ。宙に浮いたり、飛び回れる人間なんて他にいないでしょ?」

「そ、そうか。いや、別にお前を疑ってるわけじゃないんだが……」


 ディルはロレンスをじとーっと見つめる。

 言いたいことはわかる。

 雰囲気が軽いというか、他の守護者たちに比べて子供っぽい。

 のほほんとしている感じが守護者らしくない、と私も思う。


「そっちの人とは初めましてだね? 僕はロレンス・シロエ! よろしく!」

「あ、ああ、よろしく……」


 気さくに挨拶をされ、ディルも戸惑っている。

 その反応を疑いながら、こそっと私に耳打ちにする。


「おい、こいつ何なんだ?」

「大気の守護者よ」

「そうじゃなくてだな! というか何があった?」

「逃げた彼を捕まえただけよ」


 それ以上のことは何もなかったと説明した。

 一度では信じてもらえなくて、三回同じセリフを口にしてようやく諦めてくれたらしい。

 というより諦めたみたい。

 理解できない状況に頭を悩ますディルに、問題のロレンスが無邪気に尋ねる。


「ねぇねぇあんた! さっきゴルドフのおっさんに勝ったって話してたよね? あれ本当なの?」

「ん? ああ、やっぱり聞こえてたんだな」

「聞こえてたよ。その少し前から聞いてた。二人って他の守護者を狙ってるんでしょ?」


 おそらく何も意図していない問いだったのだろう。

 彼の一言から私たちは察する。

 これから聞き出すつもりだったけど、自分から話してくれたおかげで手間が省けた。

 

「なんで狙ってるの?」

「教えるつもりはないわ」

「えぇ~ 面白そうだし教えてくれても良いんじゃ――!」


 ニコニコ顔のロレンスに向けて、影の刃の切っ先を向ける。


「立場がわかっていないようね。質問できるのは貴方じゃなくて私たちよ」

「ひ、ひぇ~」

 

 緊張感のない反応を見せる。

 煽っているわけではなく、こういう性格なのだろうと今なら思える。

 やっぱりこの男は少々馬鹿なのだろうとも。


「ここで聞いたこと、見たものは忘れなさい。他言すれば、その時は異能を使わなくても空を飛べるようになるわ」

「そ、それって身体なくなってる感じだよね?」

「ええ、よくわかっているわね」

「う……目が本気だ」

「当然でしょう? 私の邪魔をする者には容赦なんてしないわ」


 本気であることを示すために、私は影の刃をさらに近づける。

 いつでも攻撃できるという意思を見せつける。

 

「わ、わかってるよ。誰にも言わない。誓って言わない」

「本当ね?」

「うん。僕はこう見えても口は堅いんだ。それにー、黙っていたほうが面白そうだしね」

「面白そう? なんでそう思うんだ?」


 ディルが私たちの会話に入り込む。

 ちょうど私も同じ疑問を抱いた。

 私たちが他の守護者を狙っていると知って、どうして面白そうなんて思えるのか。

 彼の意図は未だに読み取れない。


「お前も同じ守護者だろう? 俺たちを放置することにどんな利益があるんだ?」

「利益? そんなの知らないな。僕はただ面白そうだなって直感的に思っただけだよ」

「わからないわね。貴方は誰の味方なのかしら?」

「誰って、そんなの決まっているだろ? 僕は僕の味方だよ。それ以外にあるの?」


 彼は堂々とそう答えた。

 表情から伝わるのは、何を当たり前のことを言っているんだという呆れ。

 彼はおそらく、心からそう思っている。


「何か勘違いしてるみたいだけど、僕は別に二人の邪魔をするつもりはないよ? そりゃー同じ守護者だけどさ? 別に命を取ろうってわけじゃないんだろ?」

「どうしてそう思うの?」

「だって、そのつもりならとっくに僕を殺しているだろう? こうして話を聞いてくれている時点で、殺すことが目的じゃないことくらいわかるよ」


 なるほど……。

 どうやらただの馬鹿ではないみたいね。

 気付くところには気付いている。

 だからこんなに落ち着いていられるのかもしれない。


「僕は他人が考えていることなんて、実際あまり興味がないんだ。国とか守護者とか、そういう使命も本当は面倒くさい」


 彼はひとりでに語り出す。


「面白いことだけを探して生きていたい。それ以外はどうでもいい。せっかく一度きりの人生なんだ。楽しまなきゃ損だろう?」

「お前……」

「ん? 何かおかしいこと言ってるかな?」

「……いいや、その通りだな」


 ディルも呆れながらに理解したらしい。

 彼は世の中の大抵のことに興味がないのだろう。

 興味をそそられるものを探す。

 それ以外はどうでもいいと、心底思っているに違いない。

 だから呆れた。

 ある意味では、私たちに近い。

 自分ばかりを優先する生き方が、少しだけ重なる。


「自由……いいえ、無責任な男ね」

「はははっ、よく言われるよ」


 これが大気の守護者。

 確かに吹き抜ける風のように、捉えどころのない人物だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ