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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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33.大地の異能

 魔獣。

 生物ではあっても動物ではなく、昆虫でもなく、もちろん人間でもない。

 一言で表すならば怪物。

 いつどこで誕生したのか不明のまま、世界中で猛威を振るう魔獣を人々は恐れた。


「セレネ・ヴィクセント。この魔獣と怪人の関係はわかるか?」

「わからないわ」


 この場所を選んだのも、誰にも邪魔されず作戦を実行するのに最適だと思ったから。

 魔獣の存在なんて知らなかった。

 私も初めて見る。


「これが……魔獣」


 話には聞いていたけど、目の当たりにすると異様な不気味さを感じる。

 高身長でガタイのいいゴルドフが霞むほどの大きさ。

 四本足の獣という以上の説明が難しい。 

 トラ、ライオン……どれも違う。

 どれも及ばない。

 この恐ろしい怪物の前では、名だたる猛獣たちが霞んで見える。


「下がっていてくれ。魔獣退治も俺の仕事だ」

「ええ。お願いするわ」


 予定外の遭遇だけど、これはちょうどいい機会だ。

 彼の力を実際に見るには。

 今のところ私が戦う予定はないけど、知っておいて損はない。

 世界最強の男の実力、とくと見せてもらいましょう。


 先に動き出したのは魔獣のほうだった。

 地面を抉りながら駆け出し、ゴルドフに向って一直線に迫る。

 巨体のわりに素早い。

 あっという間に距離をつめ、ゴルドフに鋭い爪をもった前足を振り下ろす。


「ふんっ!」


 その攻撃を彼は、なんなく剣で受け止めた。

 決して軽い攻撃ではなかったことは、彼の足元へ伝わった衝撃が物語っている。

 おそらくは鋼鉄の盾も凹ませる威力はあった。


 なんて怪力なの。

 

「おおお!」


 攻撃を受け止めたゴルドフは、そのまま力で押し返す。

 自身の十倍以上ある魔獣が、軽々と宙に浮き吹き飛ばされる。

 さらに追撃。

 今度はゴルドフから接近した。

 先ほどの魔獣よりも早く迫り、体勢が整う前に斬りかかる。


 魔獣は悲鳴をあげた。

 ゴルドフの剣が、魔獣の喉元を斬り裂いた。

 動物ならこれで終わる。

 しかし相手は魔物。

 喉を斬った程度では死なない。

 誰よりもそれを知っているゴルドフは、攻撃の手を緩めない。

 反撃する暇もあたえず、連続で斬撃を浴びせる。

 細かい傷をおった魔獣は足の力が抜けて地面にへたり込んだ。

 その隙をつき、ゴルドフは両手で剣をもち上段に構える。


「終わりだ」


 振り下ろし一閃。

 魔獣の顔面から胴体にかけて、彼の剣が両断する。


「ふぅ、怪我はないか」

「はい。助かりました」

「当然のことをしたまでだ」


 そう言って刃についた血を払い飛ばし、剣を鞘に納める。


「魔獣とは恐ろしいものですね」

「ああ。だからもし遭遇しても無暗に戦わないことをお勧めする」

「ええ、そうします」


 魔獣は恐ろしい。

 だけど、それ以上にこの男のほうがもっと恐ろしい。

 彼はまだ異能を使っていない。

 おそらくは身体能力と剣技だけで魔獣を圧倒してみせた。

 純粋な強さ。

 ハッキリ言って、この男の強さは底が知れない。


 もし私が襲撃を実行していたら、まず間違いなく負けていたでしょうね。

 残念ながら勝てる未来が思い浮かばない。

 私一人ならお手上げだった。

 

「心から感謝するわ」

「騎士が民を守ることは当然のことだ」


 いいえ、貴方に言った訳じゃないの。

 確かに貴方は強い。

 私じゃ叶わないと思えるほどに。

 貴方が世界最強で間違いないでしょう。

 ただ、貴方は知らない。

 世界は知らない。

 殺しても死なない男が、どれほど強く恐ろしいかを。


「――! この殺気は!」


 魔獣の背後に人影が現れる。

 タイミングとしては上々。

 ちょうど夕日が沈み、夜になる頃合い。

 私は心の中で呟く。


 頼んだわよ、月の守護者。


「セレネ・ヴィクセント。この男が話していた怪人か?」

「ええ、間違いないわ」

「そうか……」


 私たちの前に現れたディルは顔を仮面で隠し、全身を黒いローブで覆っている。

 ぱっと見では誰かわからない。

 今の彼は、恐ろしい殺気を放つ怪人だ。


「下がっていてほしい。できれるだけ遠くに。ただし俺の目が届く範囲のギリギリで」

「ええ。申し訳ないけど、お任せします」

「ああ」


 貴方もしっかりやりなさいよ。

 この作戦の要なんだから。


 やれやれ、人使いが荒いなお前は……。


 そんな声が聞こえた気がした。


 ディルは倒れるように前かがみになる。

 次の瞬間、眼前から消える。

 ディルは直線でゴルドフの正面へ迫る。

 魔獣の動きとは比べ物にならないほど素早く、私でも目で追えない。


 ただし――


「ふんっ!」


 ゴルドフは剣でディルの拳を受け止めた。

 あの速度に反応した。


「その動きは知っている。お前とは二度目だ」


 そうか。

 反射で受けたのではなく、予測していた。

 全身を隠していてもゴルドフは気づいている。

 かつて戦った強敵が、再び自分の前に現れたということに。


「今度は逃がさん!」

「――!」


 突如として地震が起こる。

 私もディルもふらついて体勢を崩す。

 対するゴルドフは一切動じず、剣を構えて振り下ろす。


「……やはり、この程度では勝てないか」


 振り下ろした刃は空を切り、地面を割った。

 無傷のディルがゴルドフの背後に立つ。

 ゴルドフはゆっくり振り向く。


 今の地震はゴルドフの異能。

 大地の守護者の異能は、地の力を味方につける。

 魔獣との戦闘では一切使わなかった力を、初手から使っている。

 それだけディルの強さを認めている証拠だろう。

 生身で魔獣を倒す戦闘力に、異能の力。

 彼の強さはけた違い。


 それでも……勝ってもらわないと困るのよ。

 

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