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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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32.素晴らしき騎士

 トントントン――


 ドアのノック音が部屋に響く。

 どうぞと一言返すと、返事のないまま扉が開く。

 この時点で誰かは明白だった。


「よう」

「遅かったわね」


 壁にかかった時計を見る。

 九時には顔を出すように言ってあったはずだけど、今日は十分ほど遅れている。


「悪いな。ちょっと世間話をしてたんだよ」

「下手な嘘ね。ここに貴方と世間話をする人間なんていないでしょう?」


 寝坊でもしたのだろう。

 彼の身体は日の光に弱く、夜の闇を好む。

 そういう性質上、朝に弱くても不思議じゃない。

 別に責めるもなかったけど、こんなわかりやすい嘘をつくから……。


「嘘じゃないぞ。歩いてたら呼び止められたんだ」

「へぇ、そんな変わり者がいたのね」

「ああ、よく似てたよ。お前にな」


 そういうことね。

 今の一言で誰なのかは察した。

 確かに嘘じゃなさそうだ。

 あの子なら、ディルに話しかけるくらいやれそうだと思う。


「お前は元気かって聞かれたから、元気過ぎて困るくらいだって答えておいたぞ」

「……そう」

「素っ気ないな。心配してたぞ? 話くらいしてあげてもいいんじゃないか?」

「余計な気を遣わないで。そんな暇なんてないわ」


 彼は小さく微笑み、やれやれと首をふる。

 まったく素直じゃないな、みたいなことを思っていそうで少しイラっとした。

 ソレイユに何を言われたか知らないけど、私はそんなに優しくない。

 今さらあの子と話すことなんて……ないのよ。


「次の作戦をたてるわ」

「次か。結局、狙うのは誰なんだ?」

「大地の守護者よ」

「そうだよな」


 質問してきた彼も察していたらしい。

 確認のために問いかけてきただけで、彼も理由はわかっている。

 標的は残り四人。

 そのうち三人は複雑な理由もあって面倒だから後回し。

 残る一人、大地の守護者ゴルドフ・ボーテン。

 彼に関する問題は唯一、強さだけだ。


「その問題が大きいんじゃないか。昨日の一戦を見てわかった。あいつも予想より強かったが、やっぱり最強はボーテンだ」

「そう。一度戦った貴方がいうなら間違いないのでしょうね」

 

 強さだけ突破できれば……なんて簡単には言えなさそうね。

 少なくとも昨日の一戦のようにはいかないでしょう。


「第一に、どうやって呼び出すんだ? まさか、正面から決闘を申し込むわけじゃないよな」

「馬鹿にしないで。そんなことするはずないでしょう?」

「昨日はしてたじゃないか」

「あれは向こうにその気があったから利用しただけよ」


 今回はそうはいかない。

 ゴルドフは日々王国の民を守るため戦っている騎士だ。

 正義感が誰よりも強い彼が、ただの決闘に応じるとは思えない。

 襲撃するのも難しい。

 アレクセイより強い相手に手加減はできなさそうだし、下手をすれば私が負ける。

 まず間違いなく正体はバレてしまうでしょう。

 一度失敗すれば難易度は跳ね上がる。

 だから確実に、一度目で決着をつけるしかない。


「安心して。策は考えてあるわ」

「へぇ、どんな作戦か聞いてもいいか?」

「ええ、むしろ貴方にはしっかり聞いてもらわないと困るわ」

「ん? それってどういう……なんだか嫌な予感がするんだが……」


 さすがに察しがいい。

 話が早くて助かるわね。


「適材適所でいきましょう」


  ◇◇◇


 王都郊外にある山の麓。

 木々が生い茂り、広がる大自然の中には動物たちの声が聞こえる。

 人の出入りは基本ない場所に、二人が並んで歩いている。


「要請に応えて頂きありがとうございます。ボーテン卿」

「いや当然のことだ。俺の役目は国と民を守ること。その中にはセレネ・ヴィクセント、貴女も含まれている」

「それでも感謝しています。このことは私個人の要望でしたから。断られても文句は言えません」

「断るはずがない。貴女のいうことが事実なら騎士として、いや守護者として放置はできん」


 力強いセリフと共に、彼は腰の剣に軽く触れる。

 

 先日、私は彼にこういう依頼を出した。

 恐ろしい怪人が現れた。

 怪人の目的は不明だが、狙いは私たち守護者である。

 被害が出るより先に対処したい。

 怪人の居場所は突き止められたものの、私だけでは手に余る。

 ボーテン卿に手を貸してほしい。


 彼は快く引き受けてくれた。

 国民が命の危険にさらされていると知れば、彼は迷うことなく手を貸してくれる。

 依頼主が私であっても。

 まごうことなき本物の騎士だ。

 そんな彼を騙すことに、私なりに少しは後ろめたさがある。


 そう、この依頼は嘘だ。

 怪人というもでっちあげで、存在していない。

 彼をおびき出し、戦いの場を設けるための。


「しかし不覚だ。そのような男がいたことに気付けなかったとは」

「私も襲われたのはごく最近です。おそらく知っているのは、私とボーテン卿だけでしょう」

「そうか。パーティーの後、だったか」

「ええ。恐ろしく強かった。私は運よく退けられましたが、次はないと思えるほどに」


 これは嘘じゃない。

 実は私の知らないところ、会場の裏手で戦闘があったらしいという噂がながれていた。

 ちょうどいいから、その噂に便乗する形をとっている。


「放置すれば間違いなく被害がでます。なんとしてもここで終わらせないと」

「ああ。だがその前に――」


 ゴルドフは腰の剣を抜いた。

 まだ目的の地点ではない。

 ただし抜くべき場面ではあった。

 なぜなら私たちの眼前には、異形のものが唸り声をあげていたから。


「……魔獣」

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