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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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30.諦めない

 結界が砕ける。

 すなわち決着がついたことを意味する。

 真っ暗な空間から解放され、月明かりがいつもより綺麗に見えた。

 勝利したから余計にそう思うのだろうか。


「終わったのか?」

「ええ。終わっ……どうしてずぶ濡れなの?」


 振り返った先には全身濡れているディルがいた。

 不服そうな顔をしている。

 私たちの戦いに巻き込まれたのかと思ったけど、彼は結界の外にいたはずだ。


「私が結界を閉じてる間に雨でも降ったの? 災難だったわね」

「いやお前のせいだよ」

「人のせいにしないでほしいわ。雨に降られたのは貴方の不幸――あ」

「やっと気付いたか」


 そういうことだったのか。

 結界内での戦闘で、私に襲い掛かった高波。

 対して私は影で水を吸収し、外に吐き出すという戦法をとった。

 外というのはもちろん、結界の外だ。

 要するに、その先にディルがいたという……。


「私のせいね」

「まったくだ。わざとやってるのかと思ったぞ」

「それは違うわ。偶然よ」

「本当か? ピンポイントだったぞ? ハックシュン!」


 ディルは盛大にくしゃみをした。

 ずぶぬれで夜なら相当寒いだろうと思う。

 さすがに悪いことをしてしまったと、私でも罪悪感を覚えた。

 のは一瞬で、不死身なんだし風邪にもならないだろうから心配いらない。

 そう思って納得した。


「おいお前、悪いと思ってないだろ」

「そんなことないわ。悪いとは思ったわよ」

「過去形じゃないか。あーもう、この身体でも病気にはかかるんだ。死なないだけで苦しいんだぞ」

「そうなのね」


 じゃあ、悪いことをしたわね。


「ごめんなさい。気を付けるわ」

「……」

「どうしたのよ」

「いや、お前って素直に謝れるんだなって。ちょっと驚いた」


 本気で意外そうな顔をして。

 謝罪を返してほしいわね。


「私をなんだと思ってるのかしら。もういいわ。今後は貴方には絶対謝らないから」

「極端だな……で、結局どうなったんだ? 勝ったのか?」

「見ての通りよ」


 私は戦いの後に視線を向ける。

 そこにはアレクセイが大の字で倒れていた。


「おい……まさか殺したんじゃ」

「殺してないわよ。殺すつもりでちょうどよかったわ」

「本気で戦ったのか」

「仕方ないじゃない。そうしないと決着がつかなかったのよ」


 事実、この男は強かった。

 手加減した私じゃ、もしかすると負けていたかもしれない。

 

「例のものの回収は?」

「問題ないわ」


 さっき縛り上げた時、彼から異能の力を吸収しておいた。

 直接触れ、戦闘によって疲労していたこともあって抵抗する力もなかったみたいだ。

 もっともお父様の時とは違って、吸収できたのは上澄みだけ。

 彼はまだ異能を宿している。


「手当が必要ね。人を呼びましょう」

「――その必要はない」


 私の声に答えた彼は、ゆっくりと起き上がる。

 これには驚いた。

 力を吸収され、影で手足を刺され出血もしていたから、自力で起きることなまず難しいだろうと思っていたのに。


「驚いたかい? 俺の異能は微弱だけど治癒能力もあるんだ。この程度の傷なら心配いらないよ」

「そう」


 本当のようだ。

 彼の手足にあった傷が、すでに一部治癒している。

 大きい傷だけを残し、軽い怪我はもう完治してしまっていた。


「手当の必要はなさそうね。ならもう私たちは帰るわ」

「待ってくれ。もう行ってしまうのかい?」

「当然でしょう? 勝敗はついたわ。この勝負は私の勝ちよ。それとも、まだ続けるつもり?」

「いいや、俺の負けだ。完敗だと言っただろう? 今回は……ね」

「今回?」


 帰るつもりで踏み出した一歩。

 次の歩を進める前に立ち止まり、振り返る。


「次こそは負けない。君に勝利してみせるよ」

「次なんてないわ。チャンスは今の一回きりよ」

「それは困るな! また俺に挑ませてほしい」

「一回と言っているでしょう? どうしてそこまで私に拘るのかしら?」


 私たちは出会って数日しか経っていない。

 顔を会わせたのは二度目だ。

 そんな相手に……傷まで負わされて、拒絶されて、それでも詰め寄ってくる理由に興味が湧いた。

 彼は答える。


「君が魅力的だからさ」

「魅力的……ね」


 在り来たりな言葉……。

 期待していた回答とは違って、少しがっかりしていた。

 すると彼は、続けてこう言った。


「君は魅力的だ。君には揺るがない自己がある。他人に影響されない……決して曲がらない強い自分を持っている。その強さが美しいんだよ」


 揺るがない自己。

 彼のいう私の魅力とは、容姿や力のことじゃなかった。

 彼が見ているのは、私の中にある覚悟、信念といってもいい。

 そういうものを見ていた。


 この時、私はようやく理解した。

 どうしてこの男に苛立っていたのか。

 見透かされている気がしたからだ。

 私の心を、想いを。

 

「君のような女性は他にいない。だから俺は諦めない。必ず君を手に入れてみせる。次こそは、君の全てを受け止めてみせるさ」

「……ふふっ、それは無理ね」


 悪い人じゃないことはもうわかっている。

 それでもやっぱり、私はこの人が好きになれない。

 ただの好みの問題だけど。

 この人の性格は……私とは合わない。

 何より――


「私の相手になりたいなら、殺しても死なないくらいじゃないとダメよ」

 

 今の私しか見ていない人とは、釣り合わない。


「さようなら。アレクセイ」


 私は彼に背を向け歩き出す。

 その隣を影のように、ディルが並んで歩く。


「ひどい女だな。人間に不死身を求めるなんてな」

「ふふっ、不死身の貴方が言うと嫌味に聞こえるわよ」

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