表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/74

3.お父様が相手でも

「セレネ、その力……いつから使えたんだ? 誰が知っている?」

「まだお父様しか知りませんけど?」

「そうか……それは好都合だ。セレネ、お前は金輪際、この屋敷から出さん!」

「嫌です」


 冷たく否定する私に、お父様は両目を見開いて驚く。

 さっきから驚いてばかりいる。

 そんなに私の豹変が信じられないのでしょうか?

 少しも思わなかったのかしら。

 私がどれだけ耐えているのか……いつか爆発する日が来ることすら考えもしなかったのね。


「くっ、お前……意味をわかって言っているのか?」

「こちらのセリフです。お父様にその権利はありません」

「何を言っている? お前は私の娘で、私はこの家の当主だぞ」

「それは、つい先ほどまでの話でしょう?」


 異能を宿した六つの家柄において、当主になるためには条件がある。

 その条件さえ満たしていれば、性別も、年齢も、出自も、人格すら問わない。

 たった一つ、確固たる条件。


 それは――異能を有していること。


「私はこうして異能を有しています。だから私には当主になる資格がある」

「資格があろうと私が認めることはない。現当主は私なのだ」

「いいえ、お父様の意見なんて関係ありません。だってお父様の異能は、私の異能より弱いじゃありませんか?」

「な、なんだと……」


 異能は受け継がれる。

 親から子に……子供の力が強くなれば、対照的に親の力は弱体化する。

 その後、子供の力が成熟した時、親は力を失う。


「さっきの攻撃も弱々しかったですから。これは力が私に移り、お父様の力が弱くなっている証拠です。弱い異能では、当主を名乗る資格はありませんよ」

「……ふ、ふふっ、そうか。どうやら理解していないようだな!」


 叫んだお父様の身体から、眩い光が放たれる。

 全身から溢れる太陽の力によって、周囲の気温が上昇する。

 

「先ほどの攻撃が全力だとでも思ったのか? 手加減してやったのだ! 娘が相手だからな」

「ふふふっ、面白いことを言いますね? 私のことを娘だと思っていない癖に」

「セレネ! お前は……もういい。お前が異能を開花させた以上手段は選べん! 動けないようにして地下深くに幽閉する」

「残念ですけど、お父様の思い描く未来は訪れませんよ」


 神々しい輝き。

 私も昔は、この輝きを綺麗だと思っていた。

 だけど、今はそう思えない。

 私にとってお父様が放つ光は、目障りでしかなくなっていた。

 

 眩しいだけの光なんていらない。

 消えてしまえばいい。


「光に呑まれろ! セレネ!」

「……いいえ、呑まれるのはお父様です」


 光が強ければ強いほど、私の影は濃くなり強くなる。

 あらゆる光を吸収する漆黒に。

 太陽の輝きだろうと、完全な闇と化した影の前では無力だ。


「光を閉ざせ――影の檻」


 お父様の太陽の力は周囲を熱で溶かす。

 光を高圧縮したエネルギーはすさまじく、強大な力をもつ魔獣ですら一撃で葬る威力がある。

 異能の中でもっとも強く、もっとも他に影響を与える力。

 だけど、その力すら呑み込んでしまう。


 私の足元から伸びる影。

 影は膨れ上がり、光を吸収しながら拡大していく。

 瞬く間に屋敷を包み込んだ影が、お父様の放つ光ごと食らいつくす。


「ば、馬鹿な! 太陽が影に呑まれるなど!」

「だから言ったじゃないですか。お父様の力より、私の力のほうが上です。今の私の前では……お父様の光は淡すぎます」


 影がお父様の身体まで到達し、光ごと覆い隠す。


「く、くそっ!」

「知っていますか、お父様。影の異能には、他の異能を吸収してしまう力があるんですよ」

「や、やめるんだ!」

「お父様の中に残った力も、私がもらってあげますね」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおお」


 お父様の叫び声も、影に吸収されて消えてしまう。

 辛そうな顔をしている。

 だけどね?

 お父様だって、私に同じことをしたんですよ?

 嫌がる私を、貴方は無理やり殺したことがあるんですから。


「力……私の力が……」


 私に力を奪われ脱力して、お父様は膝から崩れ落ちた。


「情けない声ね。いいじゃないですか力くらいなくなっても……殺されるよりマシでしょう?」

「き、貴様……正気か? こんなことをして許されるとでも」

「ええ、もちろん。だってこれで当主は私でしょう? お父様の許しを請う必要なんてないわ。今日からはお父様が、私に許しを請う番よ」


 お父様の元に歩み寄り、彼を上から見下ろす。

 慈悲はない。

 親子であることすら、今の私にとってはどうでもいい。

 きっと今日のことを知れば、みんなが私を酷い奴だと罵るだろう。

 別にそれでも構わない。

 理解できるはずはないんだ。

 ただ冷静に考えて、誰も自分を殺した相手と仲良くなんてできるはずないでしょ?

 全ての死因がこの人だったわけじゃない。

 それでも、実の娘を殺した男にかける慈悲なんてない。


「セレネ……」

「なんですか? 元当主のお父様」

「貴様!」


 お父様は咄嗟に腰の剣を抜いた。

 その表情は殺意で溢れている。

 本気で殺そうという気持ちが剣に宿っていた。

 私はそれをあざ笑うように、影を纏わせた右手で払いのける。


「無駄よ。今のお父様には私を傷つけることなんてできないわ」

「く、くそっ!」

「まだ諦めないのね? じゃあ仕方がないわ」


 私の邪魔をするなら、誰であろうと容赦はしない。

 どうせ殺されたらループするんだ。

 だったら、殺されないために殺すのだって普通のことでしょう?


 私は影を操り、お父様の身体を縛り上げる。

 力を失ったお父様なんて簡単に捕らえられる。


「ぐ、あ……」

「弱いわね。お父様」


 ここまで圧倒的だと、いっそ哀れだ。

 ループの記憶が頭に流れる。

 お父様に殺されたのは四回目のループだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ