27.利用してあげるわ
星の守護者エトワール・ウエルデン。
彼のもつ異能がもっとも厄介だ。
星読みは未来を見る力。
彼はその身に起こる悲劇や不運を予知し、事が起こる前に対処できる。
不意打ちや襲撃は、彼には通じない。
唯一の弱点は私に関することだけ見られないという点だけど、襲撃そのものが起こることは予知することができる。
襲撃犯だけがわからず、襲撃が起こるという事実を知る。
この時点で犯人は、星読みの対象外である私だけだ。
彼の異能は王国にとっても極めて重要なもので、それ故に信頼も厚い。
星読みで私が襲撃する未来が見えたと言えば、その時点で私は罪人になるだろう。
「星の守護者とだけは、争い以外で力を奪う機会がほしいわね」
「一応、元婚約者なんだろ? 頼んだら貸してくれる……とかないか?」
「ありえないわね」
「即答だな」
事実そうなのだから思考する必要もなかった。
彼が私に協力することはない。
そして、私が彼に協力をお願いすることもない。
「今の婚約者は私じゃなくて妹のソレイユよ。あの子のお願いならともかく、私からなんて聞くはずがないわ」
「じゃあ妹に協力してもらうってのは?」
「ないわね。あの子はただの人間よ。巻き込むつもりはないわ」
「……へぇ」
物珍しそうな顔をするディルに気付く。
少しニヤついているし、なんだか気持ち悪いわね。
「なに?」
「いや、意外だなと思ってさ。妹のことは心配するんだな」
「別に心配はしていないわ」
「してるだろ?」
「違うわ。勘違いしないで」
心配なんてしていない。
ただお父様やエトワールとは違って、彼女に怒りを感じていないだけ。
ソレイユは何も悪くないから。
それ以上の感情もない。
「話を戻すわ。残る二人、大地の守護者と水の守護者、貴方はどちらが楽だと思うの?」
「うーん、まぁ戦闘って部分に限定するなら水の守護者かな。大地のほうは相当な手練れだった」
「だった? もう戦ったの?」
「ああ。お前に挑んだのと同じ理由で……な。結果は見ての通りだ」
彼は死ぬために大地の守護者に挑んだ。
そして無事に生還して、やれやれと首を振る。
「あいつと戦って思い知ったよ。ただ強いだけじゃ俺は殺せないんだなって」
「強者のセリフね……じゃあ水の守護者のほうが弱いのね。戦ったことはあるの?」
「そっちはない。大地の守護者と先に戦ったからな。強いなんて噂も聞かないし、わざわざ戦う必要もないと思ったんだよ」
「そう。だったら彼が最初でよさそうね」
私たちの会話の中で、大気の守護者の名前は最初から出していない。
お互いに省いて話していた。
大気の守護者はパーティーにも参加しておらず、守護者でありながら世界中を放浪しているらしい。
今もどこにいるかわからない。
森の守護者とは別の意味でめんどうだから後回し。
「水の守護者から行くのはいいけど、具体的にどうするんだ? まさか本気で襲撃するつもりじゃないよな?」
「それも一つね。けど心配いらないわ。襲撃なんてしなくても、彼なら戦いの場に連れ出せるわ」
「へぇ、何か策ありってことか」
「ええ」
他の守護者には使えないとっておきの作戦を思いついた。
彼ならきっと誘いを受けるはずだ。
なぜなら彼は、私に求婚してきたのだから。
◇◇◇
翌々日。
私とディルは屋敷を離れ、王都のとある大豪邸に来ていた。
屋敷の規模も土地の広さも、この国でトップクラス。
それもそのはずだ。
ここは水の守護者が住まう屋敷なのだから。
屋敷の庭には大きな噴水がある。
水の守護者らしく、敷地内には水を用いたオブジェや川などが設けられていた。
「いかにもって感じだな」
「そうね。じめじめして好きじゃないわ」
「酷い感想だな……」
「素直なだけよ」
案内してくれている使用人には聞こえていたと思う。
そんなことは気にせず、私たちは屋敷の中へと進んだ。
玄関の扉を開ける。
「ようこそ! 僕の屋敷へ!」
入った途端に目的の人物が現れた。
アレクセイ・ワーテル……水の守護者。
彼は爽やかな笑顔で私たちを出迎えた。
「待っていたよ。俺のフィアンセ」
「……貴方の婚約者になった覚えはないわね」
「何を言っているんだい? こうして俺に会いにきてくれた……これが答えだろう?」
そう言いながら彼は私に近づき、手を取り優しく握る。
私にはそれが気持ち悪く感じる。
手を握る。
行為だけならディルとも同じことをしているのに、なぜだか無性にイライラする。
「気安く触らないで」
「おっと、照れ屋だね」
「違うわ」
ニヤニヤした顔も気持ち悪い。
私はこの人のことは心から嫌いらしい。
改めて実感して、それでも帰ることができない状況に呆れてしまう。
話があるからお会いしたい。
そう言ってこの場を取り付けたのは私だ。
彼の勘違いも私のせい……とは思いたくないけど、一因はある。
「場所を移しましょう」
「そうだね。もっとじっくり話したいな。君と二人きりで……」
「二人きりじゃないわ。彼も同席するもの」
「彼?」
アレクセイは睨むように視線を向ける。
「見ない顔だね」
「彼は私の護衛よ」
「ディルといいます。どうぞお見知りおきを」
「……そうか。ならばいい。案内するよ」
そう言いながらも敵対心むき出しだった。
男という部分に苛立っているのだろうけど、ニヤついている顔よりマシね。
ディルを連れてきてよかったわ。






