25.隠されたもの
縦に長い石板の上部、さらに左下。
太陽と月が描かれていた部分と、地面らしき部分が変色している。
灰色だった石板が黒く変化していた。
私たちは石板を見上げる。
「石板の表面が剥がれたのか? どういう仕組みなんだ?」
「わからないわ。私たちの異能に反応したことは確かみたいね」
「ああ。お前も感じたか?」
「ええ。触れた箇所から異能の力が吸い取られる感覚があったわ」
咄嗟に手を離したのは失敗だったかもしれない。
そう思って、私は再び石板に触れる。
そのままじっと待つ。
「何をしているの? 貴方もやって」
「……ああ」
彼は少しだけ躊躇いを見せつつも、同じように石板を触れる。
数秒待って、何も起こらなかった。
一度目のように力が吸われる感覚はない。
ひんやりとした石の冷たさだけが手に伝わってくる。
「何も起こらなくなったな」
「……そうみたいね」
本当に失敗だった。
あのまま手を触れていれば、最後まで石板が変化したいたかもしれないのに……。
変化しているのは一部分だけだった。
六人にちょうどかかる部分まで変化し、そこから先は変わっていない。
「これじゃ……わからないままだな」
「ええ」
一番みたい箇所がそのままでは、これ以上の情報は得られない。
私は大きくため息をこぼす。
「……そろそろ戻りましょう。ここにいても」
「待て。まだ可能性があるかもしれない」
「え?」
諦めかけた私に、ディルは石板を見ながら語る。
「この石板には秘密がある。まず間違いなく、俺たちが知らない真実が隠されていると思う。お前も気づいてるだろ? この石板には、月と影の守護者は描かれていないんだ」
「そうね。だけど、それは当たり前のことでしょう? この石板が王国誕生の前後に作られたものだとすれば」
「だったらどうして、月と影は描かれているんだ?」
「影? そんなものどこにも……」
今さらになって気付く。
変色した左下の部分には、元々何が描かれていたのか。
最初に見た時はわからなかった。
抽象的過ぎて……あれは影だったのか。
「この石板は異能をもった最初の人たちが描かれているんだと思う。周囲に描かれているのも、異能に関係する現象やものだけだ。太陽、大地、大気、水、森、星……その中に月と影がある。そして変色した箇所は」
「月と影が描かれていた場所、ね」
「ああ。二度目に触れた時は何も起こらなかった。あれって俺たちの分は終わったからじゃないのか? この石板を全て変化させるためには――」
この時点ですでに、彼が言おうとしていることに気付いていた。
それはまさに可能性。
希望と言い換えてもいい。
振り出しに戻ったのではなくて、着実に前へ進んだ証明……。
「他の守護者の力を、石板に与えるのね」
「そういうことなんじゃないかな? 秘密を知りたければ、この場に全員連れてこいっていう」
「秘密……ねぇ」
この石板に隠されている何か。
それを知れば私はループから抜け出せるのだろうか。
わからない。
今感じているのは、形容しがたい不安だった。
知るべきではないことがここに描かれているような気がする。
根拠はない。
私が……私たちにとっての最悪が迫っているような……。
「――ふふっ、今さらよね」
そんなことに怯える?
馬鹿みたいね。
死も怖がらない今の私が、他の何かに怯えるなんて滑稽だわ。
「どうした?」
「ううん。他の守護者の力があれば、真実がわかるのね」
「おそらくだがな。難題だぞ。彼らの協力をどうやって得るか」
「協力させる必要なんてないわ」
鋭い癖に、あれには気付いていないのね。
私は石板の上部を指さす。
「あそこ、月の部分だけじゃなくて太陽の部分も変色しているでしょう?」
「ああ。それは同種の力だからじゃないのか? 同じ一族の力だろう?」
「そうだけど、そうじゃないわ。その理屈通りなら、貴方の力に反応して王の部分も変化しないとおかしいでしょう?」
「――そうか。確かに……」
もちろん彼の言っていることにも一理ある。
ただ私には、一つ考えられる可能性があった。
私は以前、お父様から太陽の力を吸収している。
「影の異能には、他の異能を取り込む力があるの。私はすでに、太陽の力を取り込んでいるわ」
「そんなことできたのか」
「ええ。取り込めるといっても上澄みだけよ」
お父様の場合は、力の根源が私に移ったことで弱体化していた。
だから力の全てを奪うまでに至った。
他の守護者に同じことをしても、完全に奪うことはできない。
あくまで一部を吸収するだけになる。
「太陽の異能も一部でしかなかったわ。それに反応したのなら、他の守護者の異能も吸収できれば同じことが起こるはずよ」
「なるほどな……って、おいおい。本気か?」
「さすがにわかったわよね。もちろん本気よ」
「おっかない奴だな。事と次第によっては、今回の件が霞むくらいの重罪だぞ?」
そんなことわかっている。
私が思いついたこと、やろうとしていることの意味を……。
でも、そんな程度で私は止まるつもりはない。
私はとっくに決めている。
このループは、私だけのために生きることを。
「私は何があってもループを抜ける。そのために彼らの異能が必要なら、躊躇わないわ。たとえこの手を血で汚すことになっても……ね」
彼らの異能を奪う。
この瞬間、私の運命は大きく動き出す……そんな予感がした。
本日ラストの更新です!
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください。
よろしくお願いします!!






