24.秘密の部屋
私の中の異能が反応している。
これは共鳴だ。
ディルと対峙した時もかすかに感じていた。
異能と異能がぶつかり合った時の感覚に似ている。
私は扉に手を伸ばす。
「待て。俺が開ける」
「どうして?」
「お前も感じてるだろ? この扉からすでに異能の力が漏れてる。触れた瞬間に何か起こるかもしれない。ここは俺が適任だ」
「私は気にしないわよ? 何かあった時は……また繰り返すだけだもの」
死んでもどうせやり直しになる。
終わりは訪れない。
強いていうなら、またあの場所から始まるのが面倒というくらいで。
あとは……。
「そうは言っても、ここはお前の力で感知できなかったんだろ? 何が起こるかわからない。もしかすると内部では異能が使えないかもしれないし、警戒はしたほうがいい」
「……そうね。けど、それは貴方にとっては望むべきことじゃないのかしら?」
「ん? ああ……それもそうだな」
彼は不死身の呪いから解放されたいと思っている。
異能が使えない場所があるのなら、彼の願いはそこで叶えられる。
喜ばしいこと……のはずだ。
「嬉しそうじゃないわね」
「いいや、単に期待していないだけだ」
そう言って彼は扉に手をかける。
心配したように触れただけで何かが起こる、とはならなかった。
「お、重いな。びくともしないぞ」
「みたいね」
彼は足にも力を入れ、全身を使って扉を押す。
だけど扉は動かない。
両開きの扉は、右も左もまったく動く気配がない。
引くほうも試したけど無駄だった。
「もしかしてこの扉、王の異能をもっていないと開けられない……とかじゃないだろうな」
「可能性はありそうね。だから国王だけが入れる部屋なのかもしれないわ」
異能の力が関係しているのなら、ありえない話でもない。
私たちは半ばあきらめかけていた。
特に理由はなく、なんとなく……。
私は徐に扉の左側に手を、彼は右側に手を当てた。
その瞬間、扉から音が鳴る。
鍵が開くような音が。
「今のは?」
「おい、これは――」
びくともしなかった扉が軽く押すだけで動く。
さっきの音は本当に鍵が開いたことを意味していたのだろうか。
理由はわからない。
わからないまま、私たちは扉を開けた。
「ここが……国王しか入れない部屋か」
「ええ」
広くはなかった。
部屋の中に照明らしきものもない。
それなのに、眩しいと感じるくらいに明るい。
壁が、天井が、床までも純白。
その白さが部屋を明るくしている。
最近、これと似た光景を見たことがあった。
「あの時と似ているわね……」
「あの時?」
「貴方の弟に招待された夢の中よ」
真っ白な空間は、まさに彼と話した夢の中に似ていた。
ただし一点、あの時とは違うことがある。
何もない空間ではない。
私たちの正面には、見上げるほど大きな石板が聳え立っていた。
「これもあいつの夢の中にあったのか?」
「いいえ、なかったわ。これは私も初めて見る」
「そうか。俺もだ」
石板には絵が描かれていた。
パッと見ただけでは、何を表しているのかわからない。
抽象的というか、幻想的ともいえる。
真ん中に描かれているのは人間?
人の心臓辺りに円が描かれていて、そこに四方から別の人間が手を伸ばしている。
手を伸ばしている人間にはそれぞれ特徴があった。
例えば一人は、燃えるような炎を纏っている。
中には水に濡れた女性のような人物も。
「この六人は守護者か?」
「貴方もそう思う?」
「ああ。真ん中の一人は王だろうな」
「そうね」
王の心臓に六人が手を伸ばしている……ように見える。
その周囲は自然が描かれていた。
私たちの興味は王と六人に向けられている。
「どういう意味だと思う?」
「この絵の表してることか?」
私は小さく頷く。
するとすぐに彼は答える。
「王を守ろうとする守護者たち……には見えないな。王の力に手を伸ばそうとしているように見える」
「やっぱりそう思うわよね」
「お前は?」
「……同じよ。とても守っているようには見えないわ」
どういう角度から見ても、王の心臓を狙っている六人の図にしか見えない。
守護者たちは王を守り、ともに国を作り上げたという。
その話と、この石板の絵はどうにも一致しない。
私たちは首を傾げる。
「これだけじゃ不十分ね。他に何かない?」
「この石板以外見当たらないぞ。そういえば、中でも普通に力は使えるんだな」
「そうね」
それには私も気づいていた。
部屋の中でも影を展開できる。
これなら帰りは一瞬で外まで出られそうね。
「帰りの心配はなくなったわ。その分の時間はあるのだから、もう少し調べたいわね」
「調べるっていってもなぁ。これ以上何もない」
「まだわからないわよ」
開かない扉が開いた時のことを思い返す。
あの時、私たちが扉に触れることで鍵が開いた。
厳密には鍵じゃなかったのかもしれないけど、何かの条件を突破したのだと思う。
同じように石板に触れれば……。
「なにしてるんだ?」
「貴方も石板に触れてみて」
「ん? ああ、そういうことか」
彼も意図を察して石板に触れた。
直後、私たちの中にある異能が反応する。
稲妻が走るような痛みと同時に、触れている箇所から力が吸収される。
「っ!」
「な、なんだこれ――」
咄嗟に離したのも同時だった。
思わず石板から距離をとる。
おかげで変化にはすぐ気づくことができた。
「おいあれ!」
「……石板の一部が変わっている?」






