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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
本章第一幕

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23.適材適所で行こう

 書庫を調べること二時間半。

 静かな部屋で二人。

 黙々と本を読み時間が過ぎていった。


 パタンと本を閉じる音が響く。


「ダメだな。目ぼしい情報は見つからない。そっちは?」

「同じよ。知ってることしか書いてないわね」


 この国の英知が詰まった場所というから期待していたんだけど……。

 どうやら期待外れだったみたいね。

 月の守護者や王国の歴史についての真実は、すでにディルから聞いている。

 もし彼と出会っていなければ、新しい情報としては十分だった。

 今となっては復習にしかならない。


「まだ読んでない本もあるけど、どうする? 続けるか?」

「そうね……」


 本の数は多い。

 同じ題材の本でも、書き手によって内容は異なる。

 違う解釈の意見を知るには目を通したほうがいいのだけど、それだけに時間を使いたくない。

 私も開いていた本を閉じる。

 

「ここまでね。残りは屋敷に戻って読みましょう」

「持ち帰るのか?」

「ええ。これだけあるのよ? 数冊なくなった程度じゃ誰も気づかないわ」

「それは俺も同感だけど……無断侵入に窃盗……バレたら間違いなく牢屋行きだな」


 暗い部屋の中でも目が慣れて、彼の苦笑いが見えた。

 酷い境遇になっても甘いことを考えるのね。

 彼は根から善人なのでしょう。


「盗むわけじゃないわ。ちゃんと後で返すつもりよ」

「だったらいいか、とはならないだろ」

「うるさいわね。何を言われても意見は変えないわよ?」

「だろうな」


 何を笑っているのかしら?

 この状況で楽しそうに……。


「変な人ね」

「ん? なんだって?」

「なんでもないわ。それより、次の場所へ行きましょう」

「おう! って、策はあるんだろうな? あそこは王城で一番警備が厳しいんだ。なんせ国王だけが入ることの許された部屋だからな」


 ディルが言う気になる場所。

 この王城の地下には、世間には公表されていない秘密の部屋があるという。

 私も知らなかった。

 知っているのは王族と、そこを警備する一部の人間だけ。

 部屋の中に何があるのかもわからない。

 そこまで知っているのは、現代だと国王だけだろう。


「影の移動は使えないのか?」

「無理ね。さっき書庫を調べる時、一緒に地下のほうも見てみたわ。だけど貴方のいう部屋は見つけられなかったの」

「深すぎて範囲外だったんじゃないのか?」

「違うわね。範囲には入っていたはずよ」


 私の話を聞いたディルは首を傾げる。

 疑問を口に出される前に、私は続けて説明する。 


「地下に空間があるのはわかったわ。廊下みたいな場所があって、そこに警備の人間が何人も立っている。廊下は続いていて……その先におそらく部屋がある」

「なんだ。見つけてるじゃないか」

「おそらく、と言ったでしょう? 私にわかったのは廊下まで、その先の構造はわからない。探ることができなかったわ。影がないとかじゃなくて、力が拒絶された感じだったわね」

「それって!」


 今の話だけで彼も気づいたらしい。

 力が拒絶される。

 すなわち、私たちとは異なる異能が働いているという証拠でもある。

 異能に対抗できるのは異能しかない。

 そして現状、異能を無効化できるのは王族が受け継いだ力だけ。


「間違いなく何かあるな」

「ええ」

「だがどうする? 影での移動が使えないなら、正面から行くしかないぞ。そんなことすれば確実に騒ぎになる。俺はともかく、お前が困るだろ」

「そうね。その点に関して、私はとても感謝しているのよ」

「ん? どういう意味だ?」


 私は彼を見て笑う。


  ◇◇◇


 秘密の部屋に続く廊下。

 一本しかない道には、一定間隔で騎士が待機している。

 王国の騎士たちの中でも選りすぐりの剣士である彼らたちを前に、並みの人間では突破も困難だろう。

 ただし、私たちの場合は別だ。


「ん? おい何か言ったか?」

「は? 何も言ってないぞ? どうかしたか?」

「いや……今誰かに話しかけられたような気がして」

「誰かって、俺たち以外に誰も――」


 一人の影から手が伸びる。

 姿を見せた彼は一瞬にして騎士の意識を刈りとる。


「なっ、誰だき――がっ!」


 二人目も戦闘態勢に入る前に顎をうち、脳を揺らして意識を闇に沈めた。

 

「ふぅ、終わったぞ」

「――ご苦労様」


 静かになったところで私も影の中から出る。

 倒れている二人は意識を失っているだけで死んではいなかった。


「殺さなかったのね」

「当たり前だろ」

「そう? 顔を見られたら面倒じゃない」

「見られる前に倒した。ったく、こんなことさせられるとは思わなかったぞ」


 やれやれと呆れ顔で首をふるディルは、本気で不服そうだ。

 

「適材適所って言ったじゃない」

「別に俺じゃなくてもできたんじゃないのか? お前だってこれくらいやれるだろ」

「私は顔を見られるわけにはいかないの。貴方も心配してくれたじゃない」

「お前……精神図太すぎるだろ」

「女性に太いとかいうなんて失礼だわ。デリカシーがないわよ」

「この状況でよく言うな」


 ディルは今日までで一番大きなため息をこぼす。

 

「さぁ、急ぎましょう。この人たちもいつ目を覚ますかわらからないわ」

「そうだな。行こうか」


 私たちの目の前には、すでに扉がある。

 眼前の扉を前にした私たちは、おそらく同じ感覚を得ただろう。

 

 扉からすでに、異能を感じる。

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