20.共犯者
思いもしなかった。
何度も驚かされてきたけど、今が一番驚いている。
信じられない。
疑いの気持ち以上に高揚している。
知っているの?
この人は。
「何度目……ですって?」
「ああ。お前は何度も似たような時間を経験している……そうだろう?」
「――!」
間違いない。
この人は気づいている。
知っているんだ。
私が同じ時間をループしていることに。
「どうして……知っているの? まさか貴方も?」
「いいや、俺は違う。というか、やっぱりそうなんだな。ほぼ間違いないとは思ってたけど、今ようやく確信できたよ」
「……え?」
どういうこと?
気づいていたわけじゃ……ないの?
気分が高ぶった分だけ混乱も大きい。
私は戸惑いながら尋ねる。
「貴方は何を知っているの? いいえ、どこまで知っているの?」
「うーん、どこまでって聞かれると難しいな。俺は記憶力には自信があるんだよ」
「……何の話?」
「記憶のことさ。特にここ最近の記憶はどうにもおかしい。思い出せないとかじゃないんだ。むしろその逆、思い出せるんだよ。いくつも……同じ日の、別の記憶を」
同じ日の異なる記憶?
それって……。
彼は続けて語る。
「最初は夢でも見てる気分だった。いや、夢の中の出来事を重ねているだけかと思った。一日が終わって眠りについて、目が覚める。昨日のことを思い出そうとすると、いくつもの記憶が混ざり合っているんだ。中には知らないはずの記憶もあった」
彼曰く、他人の記憶を見ている感覚ではなく、あくまで自分視点の記憶らしい。
体験した覚えはないのに、思い出せてしまう。
不自然さに困惑しながらも、特に身体への影響はなかった。
その中であることに気付いたという。
「大抵は同じ一日、みんな同じことを繰り返してる。だけど一人だけ、そうじゃない奴がいた。それがお前だ」
彼は力強い目で私を見つめる。
「お前だけは、どの記憶でも異なる行動をしていた。そんなお前を中心に記憶は分岐していった。お前はまるで、別の道を探っているような動きをみせる」
「……それで気付いたのね」
「まぁ違和感はあったよ。記憶をもとに予想も立てた。戦っている最中も材料はあったよ。お前は、俺以上に死を恐れていない。最後のはさすがに驚いた」
「ああ、あの時ね」
私は自分の死を受け入れた。
覚悟ではなく、ただの事実として受け入れていた。
そのことも彼の予想を確信に至らせる理由になったらしい。
あの戦いは彼にとって、答え合わせのような意味合いもあったのだと知る。
ここまで気づいているのなら、隠したところで無駄ね。
「よく気付いたわね。貴方の予想通り、私は何度も繰り返しているわ。同じ時間を……死んでもまた戻って続けているの」
「そう……か。いつからだ?」
「それはループの始まり? それとも回数?」
「両方かな。俺の記憶通りなら……十回目で始まりは最近だろう?」
いうまでもなく合っている。
私は小さくため息をこぼし、頷く。
「そうよ。本当に知っているのね」
「なんだ? まだ信じてなかったのか?」
「信じることなんてないわ。私が信じているのは……私だけだもの」
「お前……」
ループの記憶をもち、私を見ていたなら知っているはずだ。
私がこれまでのループでどういう扱いを受けてきたのか。
初めて自分のために生きると決めた……その決意と意味に、彼だけは気づける。
もちろん、期待はしていない。
理解してもらえるとも思っていない。
ただ……知っている人がいる。
その事実は、私の心を少しだけ軽くしてくれた。
「なぁ、お前はこれからどうするんだ?」
「……どうする? そんなの自分の記憶に聞けばいいじゃない」
「俺にわかるのは昨日までのことだけだ。明日のお前が何をするかなんて知らない。だから聞いたんだ。お前はどこを目指している? 何を求めている?」
真剣な眼差しを向けてくる。
安直な質問に聞こえるけれど、彼の場合は重みが違う。
彼が知りたいのはきっと……。
「断っておくけど、私は別に死にたいわけじゃないわ。私はこのループを抜け出すために生きる。そう決めたの」
「そう……か」
残念そうな顔でもすると思ったのに……。
彼は安堵したように笑った。
一瞬だけ。
「で、そのために何か策はあるのか?」
「ないわ。今はまだ……これから探っていくのよ。まずは異能についてかしら」
「なるほどな。確かに、超常な現象は異能が関わっている可能性が高い。俺もそこは怪しいと思ってるんだ」
「へぇ、そうなの」
なんとなく、彼が次にいう言葉がわかった。
「提案があるんだが、協力しないか?」
「お断りよ」
「即答かよ! さすがにショックだな……」
「ふふっ」
落ち込む彼を見て、思わず笑ってしまった。
戦いの後で気が抜けていたから。
それだけじゃなくて、彼が私の秘密を知っている人だからというのもあって。
「足並みを揃えるつもりなんてないわよ。貴方の死にたい願望にも興味はないわ。ただ……お互いに利用し合うなら勝手だと思うの」
「――ああ、それもそうだな。確かにそっちのほうがしっくりくる」
私たちの目的は対極にある。
死を望む彼と、生きたいと願う私。
だけど、進むべき道は同じ方向を向いている。
「俺は俺の願いを叶えるために、お前に手を貸すつもりだ」
「私は私のために生きる。そのために利用できるものはなんだって利用する」
目的は違えど、利害は一致していた。
「決まりだな。協力者……っていうより、共犯者だな」
「そうね」
握手をするような場面だけど、私たちはしない。
私たちは共犯者だから。
私は気づいている。
彼が協力しようと言ってくれた時……。
嬉しいと感じた自分の心に。
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タイトルは――
『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』
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