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19.双子と兄弟の物語

 今から数百年前。

 この国は誕生した。

 異能を封じる力をもった王と、彼を支える六人の守護者によって。

 魔獣や天変地異。

 当時、生活を脅かす脅威にさらされた人々にとって、力による支配は望むべきものだった。

 力なき王に価値はない。

 そう思うほどに、人々は王と守護者たちを支持した。


 王国は平和を迎えた。

 強大な力を持っていることが、人々に安心を与えたからだ。


 ただ、平和は長く続かなかった。

 安心と平穏。

 どちらも望んで手に入れたもので、そのために力の存在を肯定していた。

 だが、穏やかな日常を手に入れたことで、人々は気づく。

 自分たちとは異なる存在、異能という力の恐ろしさを。

 望んだくせに、力による支配に恐怖を感じ始めた。


 そして、世代が代わる。


 国王の元に、子が生まれた。

 生まれた子供は双子で、どちらも男の子だった。

 異能は親から子へ受け継がれる。

 双子といえど、両方に分かれることはない。

 受け継ぐのはどちらか。

 異能を受け継いだ者が次の王になる。


 異能を受け継いだのは弟のほうだった。

 この瞬間、弟が王になることが確定した。

 

 はずだった。


 予期せぬことが起こったのだ。

 異能の継承は一世代に一人だけという縛りがある。

 他の守護者たちも同様に、一人から一人へ受け継がれる。

 にもかかわらず、そうでない者が生まれた。


 兄にも異能が宿ったのだ。

 しかもその力は、現存するどの異能とも異なる力であり、圧倒的なほど強力なものだった。

 名を月の守護者。

 得られる異能は、不死身の肉体と血液操作。

 代償として日の下では行動できなくなるが、その欠点を補うほど強力な力だった。


 この時、守護者や貴族たちの間で意見が割れた。

 弟が王になるべきだという者もいれば、兄のほうが優れた力を持っていると主張するものもいた。

 さらに噂が一瞬で広まり、論争は王国全体で繰り広げられてしまう。

 その後は早かった。

 王国は二人の派閥に分かれ争いが勃発する。


 力による統治、支配は力によって再び崩壊した。

 そうして国中を巻き込んだ戦いの末、勝利したのは弟のほうだった。

 守護者の大半が協力したことが勝因とされている。

 結局、力こそが運命を勝ち取る。

 と同時に知ってしまった。

 力は争いを生むことを。


 月の守護者が誕生したのは、その時が最初で最後だった。


  ◇◇◇


「そして現代に至るまで、一度も月の守護者は誕生していない……というのは嘘だ」

「貴方がそうだからと言いたいんでしょう? けど、私も含めて誰も貴方のことなんて知らないわ」

「それは……この力が呪われているからだよ」


 呪いという言葉に反応する。

 夢の中で、ユークリスと似たような話をしたばかりだったから。


「呪い、ね」

「ああ。比喩じゃないぞ? 事実、この力は呪われている……俺がこの力に目覚めた途端、周囲から俺の存在が消えてしまった。これを呪い以外になんて表現するんだ?」

「存在が消えた? 忘れられたというの?」

「そうだよ。記憶からだけじゃない。俺がいたという証明……物や出来事まで綺麗さっぱりなくなった。まるで最初からいなかったみたいに」


 彼は拳を握りしめ、悔しそうに見つめる。

 嘘をついているようには見えない。

 もし事実なら、確かに呪い以外のなにものでもない。

 そして彼の話を信じるなら、私たちが知らなかったことの辻褄は合う。

 ただ……。


「わからないわね。その話が事実だとして、どうして私に戦いをしかけてきたの?」

「死にたかったからだよ。そう言ってるだろ?」

「死んでどうするつもりだったのかしら?」


 と尋ねながら、自分自身に呆れてしまう。

 聞くまでもない。

 自死を望む気持ちは……私にもわかる。


「別に、ただ死にたかっただけだ。終わりがない今を、無意味に生き続けるのはうんざりだ……それから、俺が生きてるうちはあいつを苦しめる。あいつは優しすぎるんだよ」

「国王……彼は忘れていないのね」

「ああ。どういう理屈か知らないけどな。あいつだけは俺を忘れていない。俺は嬉しかったけど、あいつにとっては酷なことだ。他の誰もが忘れているのに自分だけ覚えている。仲もよかったからな。あいつは自分のせいだと思っているんだ」

「……そういうこと」


 理解した。

 彼がどうして、私に殺してほしいと頼んだのか。

 自分が死ぬことで、彼を助けられる可能性を信じた。

 もしくは私の知らない王の異能で、そうすることが彼を助けることだと知ったのか。

 

「はぁ、呆れるわ。兄弟ってここまで似ているものなのね。自分を犠牲にして助けようなんて……」


 お人好しにもほどがある。

 私には理解できない。

 少なくとも、ループを越えた今の私には……。


「貴方たちの話はわかったわ。けどやっぱりわからないままね。二人が私に頼った理由が見えてこないわ」

「ん? ああ、簡単だよ。それはお前が影の守護者だからだ。さっきの話、ほとんどの守護者は弟のほうに味方したけど、一人だけ兄に味方したやつがいたんだよ」

「――それが影の」

「そういうことだ。あの時代、もう一つの例外。太陽ではなく影の守護者の誕生があった」


 そういうことだったのね……。

 影の守護者の存在は災いを呼ぶ。

 伝えられていたのは半分だけで、世界はもう一人の存在を隠した。

 知っているのは、隠された当人だけという。

 

 この話が事実だとしたら、不思議という一言では片付かない。

 誰かの意思を感じる。

 そうとしか思えない。

 私のループも……これに関係している?


「っていうのが一つだな。たぶん俺とあいつの共通の理由はこれだ」

 

 考え込む手前の私に、彼は続きを語り出す。

 てっきり話は終わりだと思っていた。


「他にもあるの?」

「ああ。この理由は俺だけだ。なんせ気づきようがない。俺以外の誰も……」


 語りながら、彼は私に指をさす。

 そして――


「俺とお前が同じだからだよ」

「同じ?」

「性格とかの話じゃないぜ? 境遇だ。俺たちは似た境遇にある。お前……何度目だ?」


 彼の問いが、私の心を刺激する。

 

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