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【WEB版】ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました【コミカライズ連載中】  作者: 日之影ソラ
序章

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18/74

18.月の守護者

 漆のような黒い髪。

 ルビーよりも濃くて暗い赤い瞳。

 月明かりは弱すぎてよく見えないけど、肌が焼けていないことはわかる。

 野盗の類かと思ったら、顔立ちは整っていてそうは見えなかった。

 何より驚いたのは、彼が唐突に戦意を消失したことだ。

 今はもう、殺気も敵意も感じない。


「はぁ、疲れた。久しぶりにこんな動いたな」


 そう言って膝の力を抜き、倒れるように尻もちをつく。

 戦いは完全に放棄した姿勢と態度。

 死を受け入れた私にとって、この態度には困惑を隠せない。


「なんなの……貴方は」

「ああ、悪いな。見ての通り、俺はもう戦う気なんてないよ。逃げたきゃ逃げればいいし、憂さ晴らしに攻撃したいならどうぞご自由に。どうせ殺せないからな」

「すごい自信ね」

「自信じゃなくて確信だよ。誰にも俺は殺せない……からな」


 口から洩れた言葉は切なく、彼は悲し気に夜空を見上げる。

 比喩や脅しで言っているわけじゃないのは明白だった。

 と同時に、彼の思いを理解する。


「本気で、私に殺してほしいと思っていたのね」

「ああ、本気だったよ。誰も俺は殺せない。けど、君ならもしかしたら……って思ったんだ。結果はこの通りだ。また死ねなかった」


 彼は大きなため息をこぼす。

 心から残念がっている。

 

「ため息をつきたいのはこっちよ。思いもしなかったわ。殺してほしいなんて、初めて会ったばかりの他人にお願いされるとか」

「ははははっ、そうだよな。悪い。変なことに巻き込んで」


 彼は無邪気な笑顔を見せる。

 こうして会話をしているだけなら、とても恐ろしい怪物には見えない。

 ただの人間、普通の男の人。

 言葉の端々から諦めを感じること以外は……。


「そうよ。そういうお願いは一人で十分だわ」

「え? どういう意味だ? 俺以外に殺してほしいなんて言った奴がいるのか?」

「ええ、いたわ」

「へぇ……それ、誰か聞いてもいいか?」


 一瞬だけ考えた。

 その人物が立場ある相手だから。

 ただ、口止めされているわけじゃない。


「この国の王よ」


 夢の中に誘われ、王となった少年との邂逅。

 そこで彼は私に言った。


 ボクを殺してくれませんか?


 とても十二歳の子供がする願いではなかった。

 意図も語らない。

 だから断った。


 言ったところでどうせ信じないだろう。

 そう思って軽く答えた。

 彼は驚いたように両目を見開き、数秒呼吸を忘れて固まっていた。


「そう……か。あいつ、まだそんなこと考えてるのか」

「え?」


 彼は懐かしむように目を瞑る。

 ただの驚きとは違う。

 わずかに納得しているようにも見えて、とにかく不自然な反応だった。

 その反応はまるで……。


「知り合い、みたいに聞こえるわね」

「知り合い以上だよ」

「どういう意味かしら?」

「ふっ、あいつは俺の弟なんだよ」


 軽く微笑んだ。

 悲しい笑顔だった。

 私はこの笑顔を知っている。

 見覚えがある。

 ついさっき見せられたばかりの笑顔……。

 少年国王と不思議な怪物の顔が、重なったように見えた。


「貴方は……一体誰なの?」

「まだ名乗ってなかったな」


 彼は立ち上がり、私と向かい合う。


「俺の名はディル・ヴェルト。ヴェルクシュト王国の元第一王子だ」

「第一王子……?」

「信じられないよな? 俺が王子だったなんて」

「……当たり前でしょう? この国に王子は……一人しかいなかったはずよ」

 

 現国王であるユークリス。

 王族として生まれた男子は彼だけだ。

 記憶違いはしていない。

 私はこれでもループの中で記憶と知識を蓄積している。

 王子は一人、彼だけだ。

 記憶を信じるなら、彼の言葉は間違いなく嘘。

 なのに……私の直感が真逆の意見を告げている。


「信じられないだろうけど事実だ。俺は第一王子だった。あいつが……王の異能に目覚めるまではな」

「異能……貴方のその力も、異能なの?」

「ああ。俺に目覚めた異能は【月】。月の守護者」

「また聞いたことのない名前ね」


 月の守護者……。

 名前だけなら、太陽の守護者である私の家と関係がありそうね。


「知らないのも無理はない。月の守護者の存在は、王族しか知らない極秘だ。お前の影と同じ理由でな」

「なんですって?」

「太陽の守護者の家系に、稀に生まれる影の異能。その存在はかつて災厄を呼んだ。だが、もう一人いたんだ。影が生まれた時代に、王に叛逆した者が」

「それが、月の守護者だっていうの?」


 彼は小さく頷く。

 にわかに信じられない。

 彼の話には根拠が欠けている。

 唯一の根拠は、彼が持つ異能の力だけだ。

 それでは不十分、普通に考えて彼の話は信じるに値しない。

 だけど、聞けば聞くほど信じたくなる。

 納得なんてできるはずもないのに、妙にしっくりくるような……。


 この感覚はなんなの?


「少しだけ昔話をしようか? お前が知らない。王族だけが知る昔話……興味あるか?」

「……ええ。聞かせて」

「長くなるぞ?」

「構わないわ。どうせ今日はゆっくり眠れそうにないもの」


 そもそも、帰りが遅くなって心配するような人はいない。

 誰に迷惑をかけるわけでもない。

 私がいつ帰るかは、私が自由に決めることだ。

 それに……屋敷よりも月夜の下のほうが、なんとなく落ち着くの。


「わかった。じゃあ聞いてくれ。俺が生まれた意味を」

 

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