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殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。  作者: 秋津冴
エピローグ

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第50話 成功の兆し(そして、報復の狼煙はあがります)


 総数二万と数百。

 獣人たちを含む、聖女一行の大移動は、さながら歴史上にある民族大移動にも酷似していた。


 いや、例えるなら、どこかの大陸の伝説に残る、大帝国の軍勢が戦場を駆けまわるときのそれに似ていたかもしれない。

 一度に移動できる人員は何名、と限られたわけではなく。

 彼らは結界に覆われた土地ごと、そのまま、隣国との国境沿いに移動してしまったのだから。


 これまで存在する、しないと陰口をたたかれてきた女神の聖女としての、面目躍如の活躍を見せていた。


「成功‥‥‥した?」


 小さく疑問形にして、カトリーナは呟いた。

 振り返ると後ろにはさっきまで存在した古い壁が一面、その向こうの光景を遮っている。


 左前には巨大な湖があり、右手には大森林の輪郭が星の灯りに照らし出されて、幻想的な雰囲気を醸し出している。

 空気が違う。

 うっそうと生い茂るむせかえる緑の香りが、昼ほどでないにせよ、そこかしこから漂ってきた。


 聖女の隣に立ち、共に歩き出した――。

 歩く?


 そんな必要があったのだろうか。

 転送ならともかく、転移なら。

 その移動する結界の中にいたのなら。

 移動する必要なんてなかったんじゃない?


「……お父様?」

「ま、良かったんじゃないか。聖女様の号令が無ければ、誰も怖くてあの場で右往左往することもできなかっただろう。立ち尽くしたままだ」

「でも‥‥‥」

「見るがいい、カトリーナ」


 普段はヤクザな父親が珍しくまともな声でそう言った。


「彼らはみな、お前に救われた。女神様に救われた形だが、この世の代理人はお前だ。見事に大役を果たしたな。自慢の娘だ」

「お父様」


 なぜだろう。

 褒められているはずなのに。これまでよくやったと言葉をくれたことのない、そんな父親が心の底から、娘を称賛している場面なのに。

 どうしてか、感動が生まれてこない。


 それどころか、彼の持つ杖の先に視線が定まってしまう。

 やはり、あれで殴打するくらいしなければ、この父親は反省どころか、過去を垣間見て後悔すらしない気がするのだ。

 褒められているはずなのに。


 どうしてこうも、あの杖を奪い取って彼を散々、気が済むまで殴打してやりたいという、そんな欲望というか‥‥‥。


「おい、なんだ。なにを物騒な顔をしている?」

「いえ、なぜでしょう。これから先もまたあのような寝たきりの生活に戻るのだと思ったら、無性にっ」

「無性に、なんだっ?」

「えーと‥‥‥」


 単語を忘れてしまった。何だったか。

 殺人衝動ではない。そんな観念的な物でなく‥‥‥、ああ思い出した。

 と、カトリーナは自分が手にしている、聖女の杖でもいいではないかと思い立つ。


「そうそう、思い出しました。撲殺。そう、撲殺してもいいかなって。私をそんな過酷な環境に逆戻りさせる気なら、もう我慢しなくてもいいのかなあ、って。あれ、私、疲れています? こんな恐ろしいことを言うなんて、聖女失格だなあ……」

「ちょっと! 姫様? 誰か、姫様を止めて!」

「あなたたち、その男‥‥‥大神官様を逃がしたらただじゃおきませんからね?」


 聖女の剣幕に青ざめて大神官をとめようとする神殿騎士たちがいて、こちら側は侍女たちがさすがに剣呑な雰囲気をまずいと思ったのか、必死になって、聖女を止めようとする。

 しかし、どこにそんな力を隠していたのか、一月前まで数年間も病床に臥せっていた少女は、この恨みを果たせるなら世界が滅んでもいいかな、なんて破滅の笑顔を絶やさずに一歩、また一歩と大神官にねじり寄っていく。


「待っ、待て! 大丈夫だ! ある、きちんとそうならない方法を見つけてある!」

「あら、嘘が下手になりましたわね、お父様? 大丈夫ですよ、転移結界のやり方からいろいろと魔法の使い方、覚えましたから。痛くないように、圧殺でもなんでもしてさしあげますから」


 カトリーナはゆっくりと杖を振り上げる。


「発言がおかしいぞ、お前! きちんと開発してあると言っているだろうが。だいたいなんだ圧殺とは!」


 にこりとしたまま、カトリーナの表情は変化しない。

 ゆるりと歩を進めつつ、神殿騎士たちにそこをどきなさい、と片手でそんな素振りをする。


「圧殺、は。圧殺」


 です、という語尾とともに、大神官の隣の地面がゴグンんっと凹んで弾けた。

 その下にあったより硬い地層にぶつかって、押し出され、四散したのだ。


「そうなりたくなければ、よろしいですね?」

「……わっ、分かった‥‥‥」


 娘に本物の殺意を向けられて、ジョセフはそれ以上、何も言えなかった。

 圧倒されたのだ。その気迫に、戦神のような怒気に、炎の女神のようなすべてを焼き尽くす狂気に。


「姫様!」


 会話が終わったのを確認して、エミリーが悲壮な顔でカトリーナを抱き締めていた。


「そんな能力は、この先、民をいたずらに蹂躙するような輩が現れたときに取っておいてくださいませ!」


 エミリーは真摯な目で諭すように叫んでいた。こんな真剣なまなざしで自分を諫めてくれる人がいることをカトリーナは感謝しつつ、「はいはい」とポンポンとその背中を軽く叩いて、侍女を引き離す。


「待ってね? まだ終わってないから」

「まだって‥‥‥」


 きょとんとするエミリーを背に、カトリーナはジョセフに声をかけた。


「お父様」

「なんだ‥‥‥私はこれから忙しい」

「忙しいのも分かりますけれど、先に済ませないといけないこと、あるんじゃないですか?」

「う‥‥‥っ。お前もそう思うのか」


 さっきの続きが展開されないよう、大神官は細心の注意を払いながら会話を進める。


 カトリーナはもちろん、と大きくうなずいた。


「しかし、行くとなれば二人だけでは無理だろう」

「そうね。でも、大人数で行っても逆効果でしょうし。どうします?」


 立場ある者だけでいくべきだろう、とそれからしばらく相談して話は決まった。

 立場あるというよりは、咄嗟のときに対処できる者が必要だった。

 例えば、王国が誇る宮廷魔導師たちの猛攻に晒されても、対処できるような、そんな実力者が。


 そうなると、天空から降り、合流して間もない聖騎士に視線がいくのは、無理からぬことだった。


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