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殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。  作者: 秋津冴
第三章 会議と選択と

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第26話 大神官の活躍(それは要りません)

「女っ女神さま?」

「その通りだ」

「嘘っうっ‥‥‥」


 思わずげふんげふんとむせてしまう聖女の背中をエミリーが慌ててさすりながら、「本当らしいですよ」とそっと耳元でささやく。


 父親の言うことは眉唾物だが、エミリーの言うことはまあ、信用できる。

 へえ……わたしにはまったく音沙汰ないのに、とカトリーナは女神の塔をにらみつけた。


「これ、そんな目をするものでない」


 と、大神官にたしなめられる。

 ふん、と聖女は肩をすくめた。


「つまるところ、お父様が出世の糸口をつかんだのは実力でも才能でも能力でもなく、ただ女神様があれを持ち帰れ、と命じたからだ、と?」

「いや、それは誤解があるな。盗賊どもの飛行船に潜入し、あちらのアジトの宝物庫に潜入する手引きも、そこからの抜け出し方も教えて下さったのはすべて、女神様だ。‥‥‥と、いうよりはその御使いの白い鳩だったが」


 信徒たちに配る教本の最初に載せられている、女神様を地上へと降臨させた宝珠を盗んだ盗賊とそれを退治した神殿騎士の物語があるが、あれはこの事実を誇張してつくられたものか、と理解する。


 しかし、あの神殿騎士には確か数人の仲間がいたはずだし、あの頃の女神教なんてこのラクーナではまだまだ小さな宗教法人だったはず。

 塔に登ったり、宝珠を敵のなかに潜入して無事に取り戻せるほど、大神官は器用な人間ではないことを、娘は知っていた。


「お仲間は?」

「……いまの聖騎士や教皇、先の大神官‥‥‥とか、な」

「女神様はお父様だけにそれを命じられたの?」

「いや、それぞれ騎士としての役割や、教皇としての‥‥‥」

「つまり、一番はしっこの雑兵が、たまたま運よく命からがら宝珠を回収した、と? それ以降の昇進は女神様のお声が聞こえているのが、お父様だけだから?」

「……娘よ、時として素晴らしい推察は命を縮めるぞ‥‥‥」

「何よ、大神官にのぼりつめた偉大な神殿騎士だったんだぞ、くらいの偉大な父親であってほしいものです! どうせ、今の地位に登り詰めるまでの間にはいろいろと神がかったこともあって、お母様にも惚れられていたけれど、大神官になってからはまったく鳴かず飛ばず。地位を保つことに執着して、こんな人じゃなかったのに、なんて泣かせてたんでしょ!」

「おい、それは言い過ぎだろ!」

「だってそうだったもの!」


 亡き妻が悲しんでいたと娘に言われ、大神官はたじろんだ。

 何かを言い返そうとして口を開こうとする。

 言われっぱなしで収めることのできる内容ではなかった。


 しかし、先に冷静になったのはカトリーナの方だった。


 思わず、一瞬だが……ジョセフが誰も座らせないその左側の席に、見知らぬ誰かの影が見えたからだ。

 真紅の髪を結い上げた、黒い瞳の女性。

 いや、人間ではないような紅のオーラを纏っていた。


「……ごめんなさい。場をわきまえなかったことは謝ります」

「いや、いいんだ‥‥‥」

 重い沈黙が流れた。


 馬車は一の郭を通り抜け、ようやく女神教の分神殿へと到着する。

 そこには神殿騎士たちがずらりと正装で道の端に立ち並び、聖女と大神官を迎え入れる用意が整えられていた。


 人の身の丈の数倍はある巨大な円錐形の門。


 分厚くも高級な木材で作られたその前には、先日、顔をあわせたルーファス・エディウス卿とこの分神殿の経営に携わる司祭や女神官たち、十数名が待っていた。

 階段を登り切ると、聖騎士が聖女に手を差し伸べる。


 エスコートしようというらしい。

 まだ男性と触れ合うことは正直言って怖いが、ここは彼に任せるしかない。


 カトリーナの纏う朱色の法衣と、ルーファスの纏う青の法衣が、世界を二通りに彩るように見えた。



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