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数ヶ月後に死ぬ嫁〜カウントダウン〜

作者: 麦酒

誤字報告感謝です(。ノω\。)予断を余談と書いてた……余談を許されないって、友達との会話とかでちょっと使いたくなりましたw

 俺は日本のとある都市で働く日本人男性、二十代半ばのサラリーマンを想像してもらえたら、多分俺の容姿になる

そんな何処にでも居そうな俺は、お見合い結婚をした


 相手は某有名企業の美人な同年代のお嬢様、はっきり言って俺では役者不足だが

上司の長話に生返事をしていたら、いつの間にかお見合いする事になっていて……気が付いたら結婚していた


 いやマジで気が付いたら結婚していたんだ!

こんなお嬢様と結婚出来る訳がないと思って、見え見えな社交辞令しか言わなかったのに、翌日には『日にちと会場はこちらで決めますけど、宜しいですか?』と電話があり、よく分からないままオーケーを出したら、それが結婚式の日取りだったんだ!


 結婚式当日に会場へ連れて行かれて、『え?俺結婚するの?』と言った時の、家族と友人の呆れ顔は今でも忘れない


 そんな感じで結婚した俺は、はっきり言って嫁へは不信感しかない

なかば詐欺同然の手口で結婚させられたのだ、好きになれるはずがないだろ

これで性格ブスだったなら嫌いにもなれたのだけど、この女、計算高いくせに憎めない性格をしている


その上、俺を惚れさせると宣言までして来た


 新婚旅行も終わり新居……一軒家に引っ越した夜、嫁は自信満々な顔で宣戦布告したのだ


「まだ混乱してるみたいだけど、結婚したからには私を好きになってもらうから、覚悟しといてね(ハート)」


 余りにもあまりな物言いに、開いた口が塞がらなかったのだが、嫁は苦笑しながら言葉を続けた


「無理矢理結婚しといて何言ってるんだ?って顔をしてるけど、結婚したからには愛し合う義務があるのよ……あ、一応言っておくけど、私はもうゾッコンラブラブだから」


「ゾッコンラブラブは置いといて……その義務、ゆ○ぽ○みたいに馬鹿にしながら拒否してもいいか?」


 呆れ返って思わず出た言葉に、嫁は意地悪な顔で応える


「あら、義務を拒否するのは犯罪よ、私だって納税の義務は誤魔化したいけど、それをやったら脱税っていう犯罪になっちゃうじゃない」


「三大義務に結婚は入ってないだろ」


 どうせ口では勝てないだろうと思いながらも言い返してしまった

案の定、その言葉を待ってたかのように、嫁は極上の笑みで最低な事を言った


「残念、私と幸せな結婚生活を送るのは義務よ……じゃないと、せっかく私の会社から受けた大口の契約が御破算になっちゃうから」


「そ……」


 それは義務ではなく、脅迫って言うんだよ!

叫びそうになった言葉を無理矢理飲み込み睨み返す

というのもこいつと結婚したご祝儀に、彼女の親が経営している会社から大量の受注が入ったのだ

俺が勤めている会社は、現在そのキャパオーバーな契約の対応で大忙しらしい


 上司や社長からお礼のメールまで来たからな……もし離婚すると言ったら、会社では針の筵(はりのむしろ)状態になるだろう

それ以前にキャパオーバーな受注を捌く為に新規開拓とかに金を掛けてるだろうから、取引停止になったら下手すれば倒産しかねない、最低でも減給とボーナスカットは確定だろうな


 いっそ転職するか?と悩んでいると、嫁は「くふっ」と笑った


「冗談よ、例え離婚したとしても、会社には迷惑をかけないようにと言ってあるから……なんと言っても愛するアナタが勤める会社だからね」


「そうか愛してるのか、なら離婚しても許してくれるよな?」


 真顔で離婚を迫るけど、俺は悪くないだろう

だって、大企業の娘と無理矢理結婚させられたから簡単に離婚出来ないと思っていたのに、離婚してもいいと言われたらするよな


 だいたい俺は、こんな初対面の女と結婚する気はなかったのだから!


こんな事なら、結婚式の時に権力を怖がらずに逃げとけば良かった……等と少し安心しながら思ったのだけど、やっぱり現実はそう甘くないみたいだ


 俺の離婚宣言に、嫁はニヤニヤしながら承諾したのだから


「いいわよ、でも手続きは全部自分でやってね」


「そのくらい…」

「もちろん慰謝料もよ、あなたが離婚したいと言ったんだから、最低でも一千万は貰わないと」


「なっ」


 にこやかに言ってやがるけど、やっぱり離婚させる気は無いじゃねーか!そんな金を普通のサラリーマンは持ってねーよ!

俺なんか前世で悪い事した?こんなジェットコースターみたいな人生を送りたくないんだけど……


 ——ふざけんなよ運命、俺が何をやったって言うんだよー!


―――

――



 ・・・数日後

色々と悩んだり友人に相談してたんだけど、解決策は見つからずに「ドンマイ」と言われて奢られる日々が続いて……なんかもう面倒くさくなって来た


 だって、悩んだり怖がったり怒ったり憎しみ続けるのは、カロリー使うんだぞ!

自分の家に帰ってまで負の感情でストレス受けたくないわ!俺は自宅では脳みそカラッポにしながら、ゲームしたり動画見たりしてマッタリと過ごしたいんだ!


だいたい離婚出来ないから、俺は彼女とは一緒に暮らし続けなければならない

なのに同居人と嫌悪な関係とか、ストレスでハゲるわ!


 そう結論付けた俺は、彼女と仲良くする事にした

と言っても、恋愛感情を育てたり、ちゃんとした夫婦になるという意味ではない

一人の友人として、良好な関係を築こうと思ったのだ


 なので作戦その1を決行する……夕食を振る舞って一緒にご飯を食べるのだ!

他人と仲良くなるには、やっぱり飯を一緒に食うのが一番だからな


 ……と言ったけど、料理は得意じゃなかったりするんだよな

どうやら俺には料理の才能がないみたいで、たまに作っても、パッとしない味にしかならないのだ

だから今日は豚カツ屋さんで買ってきた、あとは揚げるだけの冷凍豚カツを揚げる

味音痴ではないので、味付けさえしてあったらレシピ通りには作れるからな!


 説明書を見ながら鍋に油を入れて温める間に、キャベツをスライサーで千切りにする

料理下手な俺でも、キャベツの葉っぱを二枚丸めてスライスすれば、千切りに出来るスライサーは神発明だ

そしてこのIHは初めて使ったけど、温度管理してくれるみたいだな


 流石は大企業のお嬢様、金持ってるねー、これは益々仲良くなるに越したことはないな、色々とご相伴に預けるかも知れない

料理は苦手だけど嫌いじゃないから、こういう便利グッズは心惹かれるんだ


「ただいまー……」(って、返事はしてくれないわよね)


 最新機器に浮かれて鼻歌混じりに料理をしていたら、嫁が帰って来たようだ

今朝まではスルーしていたから、小声で言ってる言葉が耳に痛い……という心境は少しもない

だって無理矢理結婚するとか、これ男女逆転してたら犯罪だからな……いや、男女逆転してなくても犯罪だけど


 だから結婚してから、俺は嫁とまともに会話すらしていない

嫁は会う度に、俺の事を愛しているとか大好きと言っているけど、完全無視だ


 性格悪いと思うかも知れないけど……俺からしてみれば、無理矢理結婚させた大企業の娘(権力者)なんだ、対話なんかする気にならねーよ!


 最も、俺にはどうにも出来ないと結論付けたんだから、仲良くなる努力はする

だから手を拭きながら玄関へと歩き笑顔で出迎えてやったのだが……弁当屋の大袋を持った嫁が俺を見るなり驚いて止まった


「おかえり、飯食ったか?まだなら一緒に食おうぜ」


「え……う、うん……えっ!」


 なんか二度見した上に更に驚いてるんだけど、そんなに衝撃的だったのか


「何だよ、食わないのか?」


「えーと……分かったわ!きっと食事に毒を仕込んでるのね!それか幻覚!」


 オーバーリアクションして馬鹿な事を喚いているけど、これでも大企業のお嬢様なんだぜ、世界は広いよな……まぁ、いきなり態度が急変したら信用出来ないか

俺はダイニングへと嫁を案内してから、説明する事にした


「家でストレス貯めるのもアレだから和解しようと思っただけだ、俺の料理が食いたくなければその弁当でもいいから、一緒に食事をしよーぜ」


「和解ねー、それは私にとっては願ったり叶ったりだけど……いいの?」


 食卓の椅子に座って、頬杖をつきながら聞いて来た

弁当を脇に退かしたという事は、俺の料理食うんだよな


「良いも悪いも、離婚出来ないなら仲良くするしかないだろ?俺は同居人と険悪な関係を続けたくないぞ」


「それって、夫婦として仲良くしようって話……じゃないわよね」


 中々に察しが良いみたいだ、少し寂しげな顔になった


「残念ながら友人として仲良くしようと思っている、流石に初対面の相手に恋愛感情は生まれないからな」


 というか怖い、新婚旅行が終わって帰って来たら、全ての手続きが済んでいて一軒家に引っ越していた時の俺の恐怖が分かるか?

住んでた部屋の荷物を、俺の許可なく運び出してんじゃねーよ!住所変更まで俺抜きでやってたからな、怖いなんてもんじゃなかったわ!


 そんな俺の心境が分かったのか、嫁は苦笑いしながら手をヒラヒラと振った


「ずっと無視されてたからそれでも(・・・・)ありがたいわ……いや、本当にありがたいんだけど、色仕掛にも乗って来ないから、どうしようかと悩んでた私が馬鹿みたいじゃない、そんなに私魅力ないかな?これでもプロポーションと顔には自信あったんだけど」


 不満気に言うけどさ、普通は無理矢理結婚させるような相手の色仕掛なんて、怖くて乗れねーよ

だから俺は結婚しても、嫁には指一本触れていない


「とりあえず飯喰おうぜ、色々聞きたい事もあるしな……ほら、これ駅前の美味しい豚カツ屋のやつ、熱い内に食えよ」


 ヒョイヒョイヒョイと大皿にキャベツの山盛りと豚カツを七枚載せて差し出す


「多いわよ!私どれだけ大食いだと思われてるのよ!」


「えっ違うのか!毎晩弁当を大量に食べてたから、このくらい必要だと思ったんだが!」


 毎朝ゴミ箱に洗った弁当箱が最低・・でも四つは捨ててあるのだ、今も食卓の端に置いてある嫁が買って来た弁当は、どう少なく見積もっても四つ以上ある


 俺が弁当を見て驚く様に、嫁は目を泳がせながらも言い訳をした


「全て秘書がやった事です、私は存じ上げません」


「あー、うん……なら今度から秘書さんの分も作るよ」


 今まで金持ちとは縁がなかったけど、自分の胃袋を秘書呼ばわりするのがお嬢様なのだろうか?

呆れながらも、麦ご飯をラーメン(どんぶり)に山盛りについで嫁の前に置いてやる、この麦ご飯も豚カツ屋で買った物だ

説明書通りに米と混ぜて炊くだけだから俺でも出来た、人気店なのも頷ける良い気配りだ


 自分の分のご飯を茶碗についで食おうと手を合わせたんだけど、嫁は同情して下さいと言わんばかりの絶望した顔で、丼飯を見詰めている


「ふ、ふふっ……初めての手料理がラーメン丼なんて、私はどこで間違えたのかしら」


「秘書を胃袋で飼い始めた頃からじゃないか?……そんな事より、何で俺と結婚したんだ、言っておくけど俺は正真正銘一般人パンピーだぞ」


 話の腰を折るけど、最優先で聞きたいのは、結婚した理由だ

正直自分ではいくら考えても思い至れなかった、可能性としては金か権力絡みだけど……我が家は遺伝子が強いので、俺は親父と婆ちゃんにそっくりなのだ、そんな俺が金持ちの隠し子なんて可能性はゼロに等しい

土地を持ってる訳でもないし、親戚に権力者や有名人が居る訳でもない


 ならば他の理由は何だ?漫画とかでよくある、子供の頃に結婚の約束をした幼馴染みの線か?だけどそれもない、俺の幼馴染みは男だけだったし、女子と遊んだ記憶もないのだから


 そんな俺の素朴な質問に、彼女は豚カツを食べつつ失望したような顔で応えた


「薄々気付いてたけど、やっぱり覚えてないんだ」


「覚えてないって……もしかして会ったことがあるのか?」


 記憶にないだけで、幼馴染みフラグを立ててたか?

そう思った矢先、彼女は麦ご飯を掻き込みつつ、呆れた声で答えを教えてくれた


「一年前にバスの転落事故で助けてくれたでしょ?……その時に私は、あなたに一目惚れしたの」


 照れ隠しにラーメン丼で顔を隠してるけど、一目惚れって、絶対に有りえないと思って最初に除外してたパターンだ!

そして事故ってアレか、旅館の送迎バスに岩が落ちて来て崖から落ちたやつ

そういえばバスが転げ落ちてる最中に抱き締めて庇った女が居たけど、大雨で暗かったから顔もよく見えなかったんだよな

だいたいそんな事を気にする余裕はなかったんだよ、落ちた先で携帯で連絡取りながら怪我人の介護をやったり運び出すのに手一杯で、救助来るまで休む暇すらなかったんだから


 ……って、ちょっと待て、一目惚れしたのはいいとしても、何故強制的に結婚した?


「あのさ、普通にその時の事を話をして付き合うって選択肢は無かったのか?命の恩人を詐欺紛いの手口で結婚させるとか、酷くね?」


 ジト目で言うと、彼女はバツが悪そうな顔をしながら、ラーメン丼に麦ご飯をおかわりすると、キャベツと豚カツを乗せてソースカツ丼を作った


「それは謝るわ……でも、私には時間が無かったのよ」


「時間?」


 なんだ?意味深に言われると気になるじゃないか

豚カツが冷めるのも気にせずに、俺は「はよ話せ」と見つめるが、彼女はご飯を食べ続けて無視をする

ようやく渋々と口を開いたのは、食後のお茶を飲み終わった後だった


「私ね……あと数ヶ月後に、死ぬの」


 自虐的に語る彼女の言葉を聞いて、俺は思わず固まった


 いや、それ嘘だろ!

豚カツ七枚とラーメン丼のご飯をペロリと食べる程に元気な人間が、あと数ヶ月で死ぬとか有り得ないだろ!


「フードファイターは早死にするとか、そんな話か?」


「うん、ご飯は関係ないからね」



―――

――


 それから一ヶ月経った

その間に彼女から聞き出した話を要約すると――彼女は自分の寿命が見えるらしい……中二病乙!と思ったのは秘密だ


 正確には残り時間が見えると言っていた

本来なら一年前のバス事故で死ぬはずだったのに、俺が助けた事によって寿命が伸びたらしい


 それまでは減っていくカウントが、何を表しているのか分からなかったらしいのだが……死んでもおかしくない事故でカウントがゼロになり、新たなカウントが始まった事で、自分の寿命だと確信したみたいだ


 残り少ない時間を、せめて幸福に生きたいと考えた彼女は

最期は好きな人と一緒に暮らしたいと我儘を言って、俺の捜索と結婚を父親に懇願して色々とやってもらったそうだ


 その結果が、俺の意思を無視した結婚である

うん、親子共々一言相談してからやれよ!それ以前に、もっと簡単な解決策があるだろ!


 俺は焼いたステーキ(舅からの貰い物)を盛り付けながら、帰って来た嫁を呆れ顔で眺める

 

「なぁ、残り時間が分かっているなら、ゼロになる頃に護衛してもらえば良くないか?」


 俺みたいな素人でも救えたんだ、護衛の専門家なら確率は跳ね上がるだろう

そう思って聞いたのだが、嫁の顔は優れない


「今度は他人に庇われても助からないくらい大きな事故かも知れない、毒や病気で突然死するかも知れない」


「……それは」


 言われて軽はずみで無責任な発言をした自分に罪悪感が湧いた

確かにその通りだ、一回助かったからどうにかなると思ってたけど、次も助けられるような事故の保証はない


「それにさ、こういう自分の寿命が見える話って、一度目を回避しても、二度目はもっと大きな事故に巻き込まれて無関係な人を巻き込むのが定番だよね……そんな事になったら、例え自分だけ助かっても耐え切れないわよ」


「すまない、そんなつもりで言ったんじゃ…………待て、俺はその無関係な人間なんだが、無理矢理巻き込まれているぞ」


 重い空気に耐えきれず、冗談でジト目になりながら嫁を睨んでやると

彼女は自分の頭をコツンと叩いて舌を出し、テヘペロをした

……思わず真顔になって忠告してやる


「成人女性のテヘペロって、本気でイラつくもんなんだな」


「うん、私もやってみて、これは無いわーと思ったわ」


 同じく真顔で謝罪する嫁を、ほんの少しだけど可愛いと思ったのは秘密だ



―――

――


 カウントダウンは進んでいるみたいだが、その正確な日時は知らない

何度聞いても「あと数ヶ月後」としか教えてくれないのだ


 一緒に暮らして二ヶ月くらいだけど、だいたいこいつの性格も把握出来た

食事でストレスを解消させるタイプだ……日々増える食事量で、どれだけストレスを溜め込んでいるのか分かる


 俺には想像しか出来ないけど、自分の寿命が分かるのはとんでもなく苦痛なんだろう


 だからではないが、今日も俺は食事の準備をして帰りを待っている

嫁は会社帰りにジムでカロリーを消費してから帰るので、必然的に夕飯は俺の担当になった……同居人が苦しんでるのに何もしないなんて、それが出来る程俺は薄情でもないから


 最近ではレパートリーが増えた料理を山盛りにしながら、ジムで疲れ果てた嫁に質問する


「そういや仕事は辞めないんだな、俺なら貯金を使い切るまで好きな事をするけど」


 こいつの寿命が後どれだけあるのか知らないけれど、未だに仕事を続けている

残りの時間を好きな事に使うと言っていたのに、そこにモヤっとしてたんだ

そんな俺の疑問に、嫁は嬉しそうに反論した


「恵まれた話しだけど、私は今の仕事が好きなのよ……それに、死なない可能性もあるから辞めれないしね」


 そんな笑顔に羨ましいと思いながらも、それなら止めるべきではないと諦めて、代わりの提案をする


「そうか……でも次の土日は休みなんだよな?なら遊びに行こうぜ」


「それってデートのお誘い?いいわよ、何処に連れて行ってくれるの?」


 ウキウキしながら聞いて来る嫁に、つい頬が緩む

実は一緒に遊びに行くのは、これが初めてなんだ

今まではご祝儀の仕事を処理するのに手一杯で、たまの休みも寝て過ごしていたからな


 ――だって仕方がないだろ!

自分の寿命が見えるなんて話、普通は信じられないんだろ!それを言っているのが赤の他人なら尚更だ

でも……この前、嫁の両親に土下座されたんだよ

娘は子供の頃からずっとカウントが見えると言っていて、その時に何かが起こると言われていたと……


 本来ならそんな謎のカウント間近に旅館になど行かせるつもりはなかったのに、あり得ないような不運や偶然が続いて、娘だけがあのバスに乗り込む羽目になったそうだ

そしてカウントがゼロになった時、娘は死にかけた


 そんな話を「娘を助けられるのはあなただけなんです!」と泣きながら言われたら信じるしかないだろ!


 だからさ、嫁の残り時間が迫ってるのに、このまま放置するのは流石に寝覚めが悪いんだよ

せめてストレス発散くらいは協力してやりたいと思ったんだ


 俺は携帯でテーマパークのホームページを開いて、嫁に見せてやる


「彼岸花遊園地に行くぞ、丸太で吸血鬼人形をぶち壊すアトラクションがあるから、スカッとするぜ」


「何その猟奇的なアトラクション!」


「写真のデータ持って行ったら、人形の顔に貼ってくれるサービスもあるらしい」


「だ、誰の顔を貼るつもり!わ、私じゃないわよね!」


 慌てる嫁に苦笑いで応える


「安心しろ、最近無茶振りして来る上司の顔を貼る」クックックッ


 ちゃちゃっと携帯を操作して、上司の画像を見せてやると、嫁は一瞬安心してから、ぶんぶんと顔を横に振った


「行かないからね!初めてのデートで丸太を振り回すって、どんな罰ゲームよ!」


「ええーマジかよー……なら瓦割り屋にでも行くか?」


「何そのパワーワード!」


「瓦をカラテチョップで割れる店だ、一枚いくらで出来るらしいぞ……上司の写真を乗せて割りたい」


 暗い笑みをたたえて言うと、嫁は携帯をカカカッと操作して、無難な提案をして来た


「す、ストレス解消ならボーリングやカラオケがいいんじゃないかな?ほら、こことか複合施設で色々あるわよ」


 必死で提案する嫁に、少し残念な顔をしながら聞き返す


「そこってさー、本当にストレス発散出来るのか?」


「出来る出来る!私なら一生分のストレスが発散出来るわ」


 ほらテニスも出来るわよー!と、必死で説得する嫁の言葉を聞いて安心するけど、あえて不貞腐れた顔で了承してやった


「そこまで言うならそこでいいけど……もしストレス発散出来なかったら、来週は丸太な」


「絶対に出来るから安心して!私精一杯頑張るから!」


 内心苦笑しながらも、嫁の頑張りに期待する

これなら確実に、心が軽くなりそうだからな



 ――この頃から俺は、毎週嫁をデートに誘うようになった

少しでも不安な未来を忘れて欲しくて、少しでも楽しい時間を続けて欲しくて



 ――でもそれは、一時しのぎにしかならなかったんだ



―――

――



 最近嫁は、ふとした瞬間にボーッとする事が多い

今日も気を紛らわす為に映画に誘ったのだが、上映中に彼女を見ても、虚しい瞳でスクリーンを眺めているだけだった

心配になってクレジットが流れる館内から手を引いて連れ出したのだが、心此処にあらずといった風体で、引かれるまま歩いている

余りの儚さに近くの中華料理の店に入ると、堪らず問い掛けた


「大丈夫か?」


「え?あ……うん……うん、うん!よしっ!……ごめんなさいね、ちょっとボーッとしてたみたい!」


 空元気としか言いようがない態度で、無理矢理自分を鼓舞して顔を上げる

痛々しくて見てられない


 だから意を決っして口を開いた、今まで聞きたかったけど言えなかった言葉を


「……なあ、もうカウント少ないんだろ?」

 

「それ言っちゃう?普通は気付かない振りして元気付けるもんじゃない?」


 半ば呆れたように言われたけど、その目は泣きそうなのを我慢している

 

「ただの知人ならそうするかもな……でも、お前は俺の嫁なんだ、苦しんでるのに知らない振りなんか出来るかよ」


「…………ふ、ふふ、手すら握ってくれないのに嫁だと言ってくれるんだ」


 寂しそうに笑う彼女に、不安は大きくなった

ここまで連れて来る時に手を繋いでいたのに、彼女はそれすら気付いていなかったのだから


「分かった、なら今日からは新婚っぽくイチャイチャしてやる、一緒に歩く時は恋人繋ぎな」


「えっと……無理してもらうのは…」

「無理なんかしてねーよ!俺がしたいからするだけだ!」


 言いながら彼女の手を取ると、両手で握り締めた

冷たいその手を、少しでも温めるように、強く、強く握り締めた




―――

――



 迫り来るカウントダウンに、日に日に嫁の空元気は虚しく空回りする

止まらない時間に、少しずつ心は疲弊していっているみたいだ


 出社前の朝、無理矢理起きた彼女に俺は声をかける


「なあ……有給取って温泉にでも行かねーか」


 それは気遣いだった

目の下に隈を作った痛々しい彼女に、手を伸ばさずにはいられなかった


「ごめんなさい、ちょっと仕事が忙しくて……休めないし、休みたくないの」


でも、その手を掴んでくれない


「そうか……あんまり無理すんなよ」


 笑顔を作っているつもりの彼女に、俺も作り笑顔で応える

大量に作った朝食は、少しだけ減って、俺たち二人は家を出た……もう、ストレスを食欲で誤魔化す事すら出来ないみたいだ


 もう限界だな……そう悟った俺は、嫁の父親へと連絡して



 ――着ていたスーツを投げ捨てた!!



―――

――



 着替えを詰め込んだ俺は、会社へ乗り込んで仕事中の嫁を拉致ると熊本行きの飛行機に乗せた

流石は大企業の社長だ、いきなりの話だったのに飛行機まで用意してくれたのだから


 困惑する嫁を「まーまーいいから」だけで、阿蘇山のホテルまで連行する

道中怒涛の勢いで追求されたけど、同じ言葉で乗り切った


 部屋にチェックインをして浴衣に着替えると、なんか嫁が疲れ果てた顔で睨んでる

そして、今日何回目かも忘れた言葉を浴びせられた


「ねえ、これは何のつもりなの?私は仕事が…」

「まーまーいいから、とりあえず温泉入りなよ、マッサージも頼んであるからさ」


「せめて携帯を返してくれないかな?会社に連絡したいから」


「お前阿蘇山を舐めてるのか?携帯の電波が届くはずがないだろ!」


「ここどんな秘境よ!」


 頭を抱える嫁には悪いけど、返すつもりは無いぞ

せっかく仕事を忘れて欲しくて連れ出したんだ、携帯なんか渡したら本末転倒だっつーの

……一応言っておくけど電波うんぬんは嘘だからな、ホテルや民家の周囲(・・・・・・・・・)は携帯が使える


「それより早く風呂入ろうぜ、ここ温泉があるから楽しみにしてたんだ」


「……明日には帰るからね」


 ジト目で言う嫁に、俺は朗らかな笑顔で応えてやった


「残念それは無理だ、三日後に迎えが来るまで帰れないってお前の親父さんが言ってたからな、無理矢理帰ろうとしても護衛に連れ戻されるだけだぞ」


「パパの差し金だったの!もう口聞いてあげない!」


「いや俺の差し金だ……」


 言うなり、怒る振りをしていた嫁の顔に手を添える

ビクっとされたけど、構わずそのまま顔を肩に抱き寄せ優しく抱き締めた

自分でも似合わない思いながら、カッコつけて語り掛ける


「最近眠れてないんだろ、今は休め、あんまり心配かけんなよな」


「ハハッ……休めないよ……私ね、もうすぐ死ぬんだよ」


「死なせねーよ」


 淡々と紡がれた言葉に、俺も淡々と応えてやる


「このカウントダウンを生き延びても、きっと次のカウントダウンが始まるだけなんだよ」


「なら、そのその時も助けてやるさ……一回助けられたんだ、二回も百回も同じだろ」


 助けられる保証なんかどこにも無いけれど、今こいつに必要なのは楽観的な気休めだ

自分の死ぬ時間が分かるからといって、それが何だと言うんだ!一回助ける事が出来たんだ、なら何度だって助けてやるさ!


 だけどそんな俺の言葉に、嫁は苦笑いで応えた


「あはっ、凄い自信だね……でもね、去年のカウントダウンがゼロになる時、本当は安全な場所で過ごすはずだったのに、笑えるくらい理不尽な偶然が重なってね……気が付いたらあのバスに乗るしか選択肢がなくなっていたの」


「……」


「このカウントから私を逃げられないんだって、バスの中で思ったわ」


 世界が自分を殺そうとしている、まるでそう言うかのような彼女を……


 ――俺は鼻で笑ってやる!


「ハッ、ならそれは俺に助けられる為に、お前が運命を捻じ曲げたんだろ」


「え?……」


「え?じゃねーよ!カウントがゼロになった時に死ぬのなら、なんでお前は生きているんだよ!そんな理不尽な偶然を起こせるくらいの強制力なら、絶対に死んでなきゃおかしいだろ!」


「……そ、それは、偶然あなたが助けてくれて」


「違うね!俺に助けてもらえるように、お前が運命を変えたんだ!」


「私が……運命を変えた?」


「ああ、お前は自分を助けてくれる人の元に、自分から来たんだ……なら俺は、その期待に応えてやるまでだ」

 

「……応えて……くれるの?」


 まるで泣き出しそうな不安な声で、俺の背中をギュッと握る


「当たり前だろ、俺はお前が惚れた男なんだぞ……だから何が起ころうと絶対に何度だって助けてやる、だからさ……心配すんな」


「…………うぐっ……ううぅ……うっ……」


 精一杯の気持ちを込めた言葉に、嫁は声を押し殺して泣き出してしまったが、俺はそれを静かに受け止める事しかできない

今まで一人で迫りくるカウントダウンと向き合って、計り知れないストレスを溜め込んでいたんだ

なのに俺には何もできなかった、精々泣きたい時に抱き締めてやれるくらいだ


 ……ごめんな、これでも俺はお前の夫なのに



―――

――



「すまないが、もう一度言ってくれないか」


 五日後、嫁の実家で義父と義母に説明をしたら、案の定再度の説明を求められた

だからといって怒る気にはなれない、自分が同じ立場だったとしても聞き返すだろうからだ……実際に体験してなかったなら、にわかには信じ難い話しなのだから


「分かりました、お手元の資料にも書きました通り、この四日間でカウントがゼロになったのが五回ありましたが、その全てが恋愛イベントでした」


「……あれ程翻弄されたカウントが、恋愛イベントだったと言うのか?」


 義父のやるせない顔に同情しながらも、俺は頷き肯定する


「はい、先ず四日前の明朝に俺は初めて愛の告白をしたのですが、その時にカウントはゼロになったのです、そしてその時に他の事故や体調不良はありませんでした」


「次のカウントは、その日の昼前か……確かにその時間に結婚届は受理されたが……」


「問い合わせた所、受理された時間とカウントがゼロになった時間は一致しました、その時間に異変も一切ありませんでした」


 その他の事象も全てレポートに書いてある、嫁の周囲で起こった事はもちろん、関連しそうな周辺の事故や、果ては他国で同時刻に起こった大きな事件すら、徹夜で調べて書き上げた


 義父と義母はペラペラとレポートに目を通すと、大きな安堵のため息を吐き出した


「これは此方でも検証するが……信じても、いいんだな?」


「はい!娘さんの見ていたカウントは、寿命ではありません!」


 自信を持って言った言葉に、義父は大きく鼻で息を吸うと……目に涙を溜めて、俺の手を両手で掴み握った


「ま、まだ、確証を得るまで礼を言うわけにはいかない……いかないが……私達がハクメイを君に預けたのは正解だった……このレポートだけでも、私達がどれ程救われたか……」


「顔を上げてください、俺は当然の事をやったまでです」


 泣き崩れそうな義父と涙を拭う義母、そして横にはいたたまれない顔で座る嫁

今まで散々「カウントダウンがゼロになったら死ぬ」と言っていたのに、蓋を開けてみたら恋愛イベントだったので、羞恥でプルプルと震えている

恥ずかしさの余り涙目だけど、フォローをしてはやらない……俺は墓まで持って行くと、そう決めたのだから


 何故こんな状況になっているのか説明すると、四日前に遡る


 阿蘇山旅行二日目、明け方前に部屋を抜け出そうとした嫁に気付いた俺は、引っ捕らえて問い質したのだが

あろうことか嫁は、もうすぐカウントがゼロになるから、誰も巻き沿いにならないように一人で外に行こうとしていたのだ


 激怒した俺は嫁と一緒にホテルの外にある展望台へと行き、誰も居ないその場所でカウントがゼロになるのを待った

少しでも彼女に生きる望みを得て欲しくて、告白しようとしたのだが……何処から来たのか、小鳥が彼女の肩に止まり……そしてそれを狙う大きな鳥が、空から猛スピードで迫るのにも気が付いた


 咄嗟に嫁の肩を掴み引き寄せ、小鳥を追い払うと同時に、俺はプロポーズした


 抱き寄せた嫁の背後を大きな鳥が通過したが、どうやら彼女は気付かなかったみたいだ

俺は死にかけた事を言って不安にさせない為に、「何も起こらないが、もしかしてそのカウントは寿命ではないんじゃないか?」とうそぶいた


 その時は安心させる為の咄嗟に出た嘘だったのに――それが奇跡を生んだのだ!


 それを言った瞬間、「次のカウントは二日後だったのに今日の十一時になった!」と嫁が慌てだした

俺は「朝日で見間違えたんだろ?」と誤魔化しながらも、心の中では驚愕していた

俺の言葉でカウントが変動したのだ……それは、俺の気休めで言った言葉が当たっていた可能性を秘めている


 ――運命を捻じ曲げた可能性!


 俺は嫁に昨晩、「俺に助けてもらえるように、お前が運命を変えた」と言った

もしそれが真実だったとしたら、このカウントがしめす先は、嫁の意思で変更出来るのではないのか?


 例えば、本来は死ぬはずの事故だったのに、自分の身を挺してでも救ってくれる、運命の人との出合いとか……自分で例えたのに、寒イボが立った

俺はそんな大層な存在ではないが、物は試しだ、やれる事はやってみよう


 未だに混乱している嫁に、俺は戸惑う演技をしながら口を開いた


「なあ……何も起こらないんだが、これって本当に死へのカウントダウンだったのか?」


「し、知らないわよ!だけど一回目は確かに私は死にかけたし…………タンコブ出来たくらいだったけど」


「ああ、あの時は俺が庇ったからな……って待て!そういえば、一回目では俺に一目惚れしたって言ってたよな」


「うっ……そうよ、そして二回目にはプロポーズされたわ」


「……」


「……」


 実際には二回目にも死にかけていたのだけど、そんな事は無かったかのように、俺はジト目で問い掛ける


「なあ……これって、俺との恋愛イベント…」

「ち、違うわよ!これは何かの間違いよ!私が今まで苦しめられたカウントダウンが恋愛イベントへのカウントダウンだったなんて、信じたくない!」


 駄々をこねる嫁を呆れる演技で見ながらも、俺の心臓はバクバクだ

だって、これが恋愛イベントのカウントダウンではないと知っているのだから

嫁はまだ気が付いていないけど、結婚式や同居やデートをしたんだ、もしも本当に恋愛イベントのカウントダウンだったなら、もっと早くにカウントはゼロになっていなければならない


 だからそれに気が付かれる前に、俺は先手を打った


「無理矢理結婚させたり、無理矢理新居に住まわせたのは恋愛イベントには入らなかったんだろうな……当たり前だよな、そこに恋愛感情はなかったんだから……なあ、もしかしたら普通に知り合ったとしても、俺は今日プロポーズしたのかな」


「うっ!」


 嫁は罪悪感に顔を伏せるけど、これも嘘だ

俺はとっくの昔に惚れていた、ただ死ぬのを怖がっていた嫁に手を出すのは、なんか卑怯だと思って出来なかっただけだ


 なんとか言い含める事が出来たけど、問題は次だ


「……次のカウントは十一時だっけ」


「う、うん……」


 その時にも絶対に守ってやって、寿命のカウントダウンでは無かったと信じ込ませてやる!

可能性は低い、二日後だったカウントダウンが今日の昼前になったのも、本当は違う理由なのかも知れない


 ――でも知った事か!憔悴していくハクメイをこれ以上見てられるか!俺は彼女を助けると誓ったんだ、どんな小さな可能性だって掴み取ってやる!



 その後周囲を警戒しながらも、十一時にキスをしようとしたのだが、突然の電話に遮られた

嫁の父親からで、ハクメイが死んだら渡すように言われていた、未提出の結婚届を今役所に提出したと連絡があったのだ


「パパ何してるのよ!私が死んだらバツイチになるから、それはしないでって言ったじゃない!」


『今回の件で、彼がハクメイを本気で愛しているのを感じた、ならば私もその期待に応えてやりたくてな』


「くっ……迷惑料に私の貯金と新居を渡すって決めてたじゃない」


『彼は覚悟を決めたんだぞ、ハクメイも彼を信じてやりなさい』


「そんな事を言われたって……あ、カウントがゼロになってる……次は今夜?えっ!えっ!うえっ!」


 言い合っている内にカウントはゼロになっていたみたいだ

そして今回は何も起こらなかった……警戒していたのに、今度こそ本当に何も起こらなかった!


 早なる鼓動と溢れそうな激情を、悟られないように胸に秘め、俺は最高の笑顔で嫁に言い放った


「カウントダウンは恋愛イベントで確定だな、恋愛脳全開な能力で笑える」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「そういえば昨晩、中二病な乙女が言ってたな……私ね、もうすぐ死ぬんだよって……ぷっ」クスクスクス


「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ねぇどんな気持ち?悲劇のヒロインから一晩でピエロになるのって、どんな気持ち?」


「いっそ殺してぇぇぇぇぇぇ!」


 畳み掛けるように、嫁の認識を「カウントダウン=恋愛イベント」にする為に弄り倒す

内心は安堵のため息で一杯だ、だけどそれを悟られる訳にはいかない、この秘密は誰にも知られる訳にはいかないからだ!


 まだ予断は許されないけれど、光明は見えた

今朝のような希望を込めた可能性なんかじゃない、確信にも似た可能性を感じている


 一度考察した事がある、もしも自分にも幼少の頃からカウントダウンが見えたとしたら、何を思うだろうかと?

きっと俺は自分の寿命だと考えるだろう、いくら否定しても、そう辿り着くだろう


 だけど違った、このカウントダウンは、嫁が望む未来を教えてくれていたのだ

だけどこれには説明書が無い、だからきっと子供の頃から減り続けるカウントに不安を覚えた嫁は、自分が死ぬ程の事故を引き寄せたんだ

そして死にたくなかったから、俺の元へとやって来た


 そこまで分かれば後は簡単だ!

このカウントダウンに幸せな意味を込めてやればいい、恋愛イベントなんていう、他人に言うのが恥ずかしい意味を込めてやればいい


 俺は人騒がせなカウントダウンに追い討ちをかけるべく、嫁へと語り掛けた


「それにしても今夜が楽しみだ、どんな恋愛イベントが起きるんだろうな?」


「うっ!」(赤面)


「恥ずかしがるなよ、耳掃除や膝枕程度かも知れないだろ」


「そ、それはそうだけど」


「それにどんなイベントだって関係ない、俺のやる事は変わらないんだからな」


「?……それって、どういう意味?」


「どういう意味って、昨日言ったろ?俺はお前が惚れた男なんだ、だから何が起ころうと、絶対に何度でも助けてやるってな……だからやる事に変わりはない、ただお前を守るだけだ」


「〜〜っ!」


 嬉しそうに見詰める嫁に、優しく微笑み返す


「だからさ、ハクメイは何も心配せずに俺に守られていればいいんだよ……それとも何か?無理矢理結婚しといて、今更無かった事にするつもりか?」


 抱き締めながらそう尋ねると、ハクメイは小さく首を振って否定した


「やだ、私は離れたくない、こんなカウントダウンなんかに振り回されたくない、離婚するなんて言ったら弁護士軍団を雇って身動き出来なくしてやる」


 やっと言ってくれた本音に、俺は安堵の息を吐く


「ははは、相変わらず無茶苦茶だな」


「なによ、不満でもあるの?」


「最初はあったな、無理矢理結婚させられたんだから」


「今も……あるの?」


 不安げに睨むハクメイに、照れながら明後日の方向を向いてモゴモゴと言う


「あ、朝にプロポーズしたろ……察しろよ」


「やだ、もう一度聞きたい」


 聞き分けのない女の肩を握り、その顔を見詰めてやる

もう俺もハクメイも耳まで真っ赤だけど、意を決して言葉を紡ぐ


「……あ、愛してるよハクメイ、俺は運命なんかに負けたくない、カウントなんかにお前を奪われたくない」


「うん、私も愛してる……貴方と出会えた事だけは、このカウントダウンに感謝するわ」


「恋愛イベントだったけどな」


「それは言わないでよ!」


「ハハッ悪い悪い、でも心配すんな、どんなイベントだったとしても、俺はハクメイと一緒にいるからさ」


「……うん、もう心配なんかしてないわ、だって、貴方がいるのだから」


 胸にハクメイを抱き締めながら、俺は決意を新たにする

そう心配なんかさせない、まだまだ油断はできないけど、このままカウントダウンを恋愛イベントにおとしめてやるんだ


そして遠くない未来で言ってやるんだ


 ――見たか運命ざまーみろ!ってな


   

 


  


  





「ねぇねぇお父さんお父さん、お母さんがニコニコしてるけど、何かあるの?」

「恋愛イベントが近いみたいだ……俺、この戦いが終わったら死ぬんだ」

「死にそうにない死亡フラグは止めて!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見たか運命ざまーみろ! 格好いい俺(≧∇≦)b お父さんだったんかい!!!! [一言] ちょっと違うのかも知れませんが ジュール・ヴェルヌの 「人が想像できることは、必ず人が実現できる…
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