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6話 婚約者と出会ってしまった地獄2

「レオさん、美味しいね。今度作ってみようかしら」

「いいと思います」

「そしたらレオさん、食べてくれる?」

「時間が空いていれば可能です」


 越えた先にはまたイチャラブアイランドですね! 分かります!!

 私もブラックコーヒー飲みたい。特段に苦いブラックコーヒー飲みたい。

 でもブラッドリーさんもハマーさんも、子供の時からカフェインを沢山摂るのはよくない、とか言ってあまり飲ませてくれない。彼らは私をどうしたいのか。

 とりあえずチョコパフェを食べないといけない。これも試練だ。


 ツラァ。私の好物がこんなに食べたくないと思ったことは無かったのにぃ。ツラァ。


 仕方なくスプーンでちょびちょびと食べていく私に、ハマーさんは哀れんだ視線を送ってくれた。そして時々私のチョコパフェを手伝ってくれる。


 優しすぎるよ、この人……。

 もし私が大人に戻ったら、ハマーさんを目一杯休ませよう。情報部隊から除籍されていたら、協力者になろう。

 元情報部隊が協力者とか心強いでしょ?

 気配を希釈に希釈を重ねた私は、パフェとのチキンレースに突入していた。私が根をあげるか、パフェが崩壊を起こすか、どっちが先か見ものですねぇ!!

 なお、私しか損はしない。 


 そして何故か気を抜くと、私の目線はブラッドリーさんへと向いていた。自動フォーカスでもついてるんじゃないかってくらい、そちらに向く自分の目線。

 僅かに笑みを浮かべながら優しい相槌で彼女の話を聴く彼。

 彼女の方が少し活発な子で、それを優しい笑顔で対応する。


 私とは大違いだ。

 私、といっても社畜よろしくのクマとはベストフレンドの時だけど。

 お互いにクマ作りながら、生産性のない会話していたなぁ。ご飯なんて立ち食いとか、券売機で買ったものが高速で出てくるところ。

 こんなレディーが好きそうなファンシーみたいなところ、彼も好きだったのか。いやまぁ、彼の雰囲気からそれもアリなんじゃないかな、って思うよ。ギャップ萌え、というもので周りの女性の母性にダイレクトアタックを決めそうだし。


 レオ・ブラッドリーとしてのこの顔に、まさかこんな表情があるなんて思わなかったんだ。


 ブラッドリーさんに私の目線は奪われっぱなしだった。

 何度目かの自動フォーカスの時だ。

 ばちり、とブラッドリーさんと目が合った。この時の内心の慌てようといったら。

 いったい私は何に慌てているんだ?

 彼がその辺の道端で迷惑考えずにイチャラブするカップルでも、別に楽しそうなら応援するべきでは? 嘘。やっぱりそれは応援出来ない。

 別に目が合ったら何か悪いのか?


「パフェ、食べないのか」

「、え、あ、ちょっと多くて……」


 正確には目の前の雰囲気が甘々すぎて、だけど。

 しどろもどろに理由を話す私に、ブラッドリーさんはぱちくりと目を瞬かせた後にふっ、と優しく笑った。さっきから浮かべている表情とは比べ物にならないほどに優しく。

 それが甘いとは違った何かがあって、どうしてか私は目が離せなかった。


「では協力しよう」

「え、協力……」


 おいまさか。

 目の前に座るブラッドリーさんは、ぱかっと口を開けて私の方を優しげに見つめてくる。

 わぁ。まるで女性雑誌に出てくるモデルみたいな決まりようだぁ。


 じゃなくて!!


 的中してほしくないことが的中したよ!!


 おまけにスプーンは持つ気はないらしい。

 だから私がブラッドリーさんに、あーん、をすることになるのだが……マジで?

 だってさっき、婚約者の子にもやらせなかったじゃん。外だから恥ずかぴ、みたいな雰囲気だったじゃん。


 それを私にならいいのか?

 子供だから? 子供だから許されるの?

 え、もしかしてブラッドリーさんはロリコ……?


「マリーは真ん中のチョコケーキが好きなんだろう? そこまで手伝う。俺もちょうど甘いものが食べたかったんだ」

「あ、うん……」


 さっきまであんな口から砂糖を吐き出すような、甘々なことやってたのにか。さすがレオ・ブラッドリー……恐ろしい男だ。幾つもの死線を乗り越えてきただけある。

 ハマーさんも婚約者さんもこっちにすごい熱視線を送ってるのに、それを全てスルーする男。気付いているのに知らん振りとは……。メンタル超合金では?

 ドロドロに溶けているアイスとフレークをスプーンに乗せられるだけ乗せて、恐る恐るブラッドリーさんの口元に持って行けば、機嫌良さげにパクリと食べた。


 三十路が婚約者と部下の前で子供(他人)にあーんをされる。


 字面だけでもヤバイだろう。

 ほら見て、ハマーさんの表情が心なしか悪いよ。絶対にブラッドリーさん、何か勘違いされている兆しあるよ? 気付こう? 気付いて?


「美味しいね」

「……アッウン」


 言うこともっとあるだろ。


 なんとかパフェも食べ終わって、お店を出ることになった。

 ブラッドリーさん、ホントに一回もスプーンを持とうとしなかった。テーブルの上で腕組みして、一切手をこちらに寄越してこなかった。なんなんだ、あの執念は。

 おかげで私は永遠と熱視線を浴びていたんだけど。

 子供に良かれと思ってやってたんだよね? そうなんだよね? じゃなきゃ、婚約者の前であんな事してなんなの?

 将来こういうことしたいなぁ、というメッセージなの?

 だからさ、その前にブラッドリーさんは式場決めだろ。育児勉強とか色々飛ばし過ぎィ!

 もう私とハマーさんは帰ろうかな、と思っていたら婚約者の方がブラッドリーさんの名前を呼んで腕に抱きついた。

 おお……豊満な胸が……。


「レオさん、二人っきりになりたいな?」

「では、車でお話を――」

「ううん、そうじゃなくてね」


 へにゃんと眉毛を下げて、ウルウルとした瞳で覗き込むようにブラッドリーさん顔を見つめる婚約者。


 あ。


 あ、あ〜〜(察し)


 そういうことですか。そうですか。

 いやさ? 分かるよ? うん、婚約者だし、やる事やってるのは分かるけど、子供の前でそれはどうかな〜〜??

 ほらぁ、私の教育係長のハマーさんの表情見て?

 婚約者に対しての剥き出しの嫌悪感。

 いや、仮にも上司の婚約者なんだからもう少しポーカーフェイスでいきましょうよ。

 ブラッドリーさんは婚約者をどうするんだろ。そもそもこんな人がタイプだったのか。いつも難しいこと考えてそうだから、プライベートは頭すっからかんでいたいやつ? おっと失礼。

 私がそんなこと言ったら「仮眠室に連れて行け」とか部下に言い放ちそうだ。お姫様抱っこなんてものはない。あっても魔法で仮眠室にぶっ飛ばされるだけ。

 というか私達、そんな関係なかったですしおすしー。

 健全過ぎだって?

 違う違う。睡眠欲求はどの欲求よりも勝っただけ、はい以上。


「まったく貴女と言ったら」


 あ、そうなんだ。

 そっか。

 そういう返しするんだ。


 ……そっかー。


 私の中の何かがざわり、と胸騒ぎにも似たものが過った。

 ブラッドリーさんの表情は、仕方ないなぁ、困ったようなみたいなもの。なのに優しい眼差しが込められている。


 今の私にも、前の私にも見せたことのないもの。


 あ、れ。

 胸辺りが痛くて、見たくないと思うのに、さっきよりもブラッドリーさんから目が離せない。


 いたい。

 とても苦しくて痛い。

 心臓の音が早い。


 いやだ。


「マリーちゃん?」


 ハマーさんに呼ばれて、ハッとして顔を上げた時にはブラッドリーさんと婚約者はもう居なかった。

 つまりは二人で今頃――。


「私には何が足りなかったのかな」


 ポツリとこぼれた言葉は自然と出たもの。咄嗟に口を塞いで、自分で言った言葉に困惑した。

 私は何を言った?

 足りない? なんでそんな事を思った?

 ブラッドリーさんと私ってそんな、イチャラブの関係じゃなかったし。


 なんで今、そんな事を思った?


「君に足りないもの?」


 どうやらハマーさんは呟いた言葉を拾っていたらしい。さすがは現情報部隊隊長。耳の良さはズバ抜けている。

 どう解釈したのか、ハマーさんは少し悩んだ後に表情を緩めて私の頭を撫でてきた。


「ブラッドリーさんにもう少し甘えて、子供らしくすればいいんじゃないか?」


 いやそうじゃなくて。


 喉まで出かかった言葉は、言葉になる前に口を閉じる。

 言いたいことを言っても、きっとハマーさんは分かってくれない。

 私はマリー・ブラッドリーであっても、フィオナ・ハインズではない。

 だからこの悩みなんて誰も分かってくれない。

 どうして私がこんなに心が荒んでいるのかなんて分からないし、言ったところで誰も相手にしてくれない。

 私でなく、他の女性とブラッドリーさんが一緒に居る。

 それが何故かたまらなく苛ついた。


「……っ!」


 そう思った時には走り出していた。

 どこに向かうなんか分からない。

 ただ私は歩いてる人を上手く掻い潜りながら、あの背中を探す。

 キラキラと綺麗な金色の髪に、大きな背中。私と目が合えば優しく名前を呼んでくれる。マリー、って。


 違う、私じゃない。


 それはマリーに向けられたもの。フィオナじゃないマリーに対してだ。

 だけど、それは今はどうでもいい。深く考えることは動きを鈍らせる。ブラッドリーさんの教えだ。

 今は彼の背中を見つけなくては。

 探しても探して見つからない背中は焦りを失い、諦めが生まれる。


「ブラッドリーさん……」


 ポツリと呟いた言葉は頼りなく、まるで迷子の子供のように思えた。いや、どう見ても周りから見れば迷子なのだろう。

 ハマーさんには悪いことをしちゃった。いきなり走り出した私を、今頃探しているのだろうか。

 子供にしては足が速いのもすばしっこいのも、敵国に居たから。それが生きる一つの手段だったから。


「レオさん」


 一度も直接呼んだことのない下の名前。

 あの婚約者は普通に呼んでいた。何度も何度も。

 それがどうしたって言うんだ。

 なんとも言えない感情が込み上げてきて、口の中に苦いものを含んでいるような気持ちだ。


 追ってどうするの。

 呼んでどうするの。

 だって私はもう彼の何でもないじゃないか。


 力強く握っていた手から力が抜ける。


「おい、お前」


 誰かの手が肩に乗って、驚きながらも離れて後ろを振り向く。

 迷子だと思って話しかけたなら別にいい。だけど私だと分かっていて話しかけられたなら、かなり面倒だ。

 私の存在なんて、あまり知られてないけれど、敵国の残党とかもあり得る。

 振り向いた先には身構える私を見てなのか、驚く人。その人物を見て、私も驚く。


 青色の髪の毛。鋭い金色の眼光は輝きを失わない。目元のタトゥーは彼のシンボルだ。

 ルトブルクの懐刀、ダニー・ホーエン。

 ブラッドリーさんと一緒にザントピアに潜入していた、大将を務める凄腕の――。


「いや、なんで子供になってるんですか」


 おい。

 おい、嘘だろ。


 固まる私をよそにホーエンさんは「ああ、やっぱり君か」と嬉しそうだ。

 いかつくて全く笑わなさそうに見えるが、結構表情がコロコロ変わるとかでサンテール軍の女性もきゃあきゃあしていた。

 だが今はショタだ。

 私とそんな身長が変わらないショタ。

 そう、子供。


「すまないが、ちょっと聞きたいことがある」

「……なんですか」


 さっきまでセンチメンタルな女心だった私は、今は見る影もない。

 当たり前だ。嫌な予感しかしない。


「どうやったら大人に戻れるんだ」


 お前もかよ!!!!!!

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