4話 私はお空の星のようです2
なんで私はブラッドリーさんと一緒に動物園来てるの。
動物園好きだけどさ。
なーんで私と来てるの。
「えーと、グリフォンの雛見てみたい」
「分かった。じゃあその後にお昼を食べよう」
それにこれは今始まった事じゃない。
この間はアスレチック。その前はサーカス。更に前は植物園。
おい、どういう事だ。
あなた隣に置く人チョイスミスしてません?
My Destiny宣言された翌日に私と動物園に行く。
まっっったく分からん。この男。分かったこと一度もないけどさ。
七年前に付き合っていた時は約一年間は一緒に居たはず。
その間も、ブラッドリーさんという男はよく分からなかったけど、ちょっと行動が常人離れし過ぎて、思考回路まで常人卒業している感じはあった。
私には見えない未来を見てんだな。そんな能力あんの? チートですか? と何度も思った。
そして今、行動もサッパリ分からない。
普通、フィアンセと行くものでは? 大丈夫、喜ぶよ。時折眉間についた皺がなくなるくらい優しい笑み見せてるんだから、それでフィアンセを押せばイチコロだよ。私が保証する。女はそういうの弱い。
もしや将来を見据えたパパの予行練習?
助産師さんも驚きの速さだよ。まだ式場下見くらいでしょ?
もしそうなら、そのうんちくは控えた方がいいよ。将来はパパうるさい、って言われるよ。
「グリフォンは一日に百キロくらい飛べる。速度は慣れていないものだと振り落とされてしまうくらいに。しかも一度決めた主人を絶対に裏切らない。忠実な獣だ」
「……まるでブラッドリーさんみたいだね」
「俺は魔法をフルで使えばもう少し早く飛べる」
いや、そうじゃねんだわ。
僅かに勝ち誇った笑顔で言われて困るわ。
頼むよ? お付き合いする人にもそんな変化球投げないでくれよ? 下手するとデッドボールで退場させられるよ?
大丈夫かな、この人。
こんな喋る人だと思ってなかったんだけどな。それになんか話ズレてるし。不安だ。
そんな私の優しい心配なんて気にせずに、ブラッドリーさんはとても楽しそうだ。
動物園、好きなのかなぁ。私も動物園好きだからなぁ。
こうやってデート、したかったなぁ。
私とブラッドリーさんはデートというデートをした事がない。
まあお互い忙しかったからね。それに私とブラッドリーさんは、利害が一致したことで付き合っていたし。
大半仕事場で顔を合わせる事が多かったから、その延長線上で、って感じ。
だからこんな楽しそうな彼を見れるとは思わなかった。
こんな表情をするんだ、なんて今更になって知るとは思わなかったんだ。
ブラッドリーさんは「次にどこへ行きたい?」と柔らかく笑って私に聞いてくれる。これ、マリーだから優しいんだろうか。
敵国が居なくなって、心が晴れやかになったことで本来のブラッドリーさんがこういう人だったのか。
寡黙で真面目なブラッドリーさんも好きだ。色々気にしたりしなくて済むし。
でもこうやって自分と好きなものを楽しめる人だって知ってたら、フィオナとしての私はもっと楽しめただろう。
色んな場所を回って、私とブラッドリーさんは近くのベンチに座る。ポカポカ日和でとても気持ちいい。
平和ってこういう事を言うんだろうなぁ。
時間もちょうどいいという事から、ここでランチになった。
私は異空間魔法より朝から作った弁当を取り出して、ブラッドリーさんに渡す。
「俺に?」
「私一人で食べるわけないじゃん」
「……そうか」
目を和らげて嬉しそうに弁当箱を撫でるブラッドリーさんに、私はむず痒くなって「早く食べて!」と伝える。
何故かブラッドリーさんは嬉しそうに笑った。
どこにほっこりポイントがあったんだ。ブラッドリーさん分からない。
「マリーが作ってくれたサンドイッチ、美味しいよ」
「歪だよ、ブラッドリーさんのに比べて」
「そうか? 俺は頑張ってマリーが作ってくれた方がいい」
歪なサンドイッチを食べるブラッドリーさんは幸せそうな表情だ。おかげで周りの女性は目がハート。だけど私を見ると残念そうな表情をする。子連れにナンパは出来ないだろう。
あ、なるほど。
「ブラッドリーさん、もしかしてデートの予行?」
これだ。これしかない。
きっとブラッドリーのことだから、どんなところでもスマートに決めたいのだろう。だから事前に下調べをしたかったんだ。きっと彼の頭の中では、綿密な計画が組み立てられているんだろう。
さすがはブラッドリーさん。恐ろしい男だ! スピード出世するだけある!
一人、謎が解けたと嬉々とする私にブラッドリーさんは驚いた表情をした後に、小さく笑った。
「違うな」
「え、そうなの?」
あれ。どうやら違ったらしい。
ブラッドリーさんは少し笑った後に、私の頭を撫でた。
ブラッドリーさんは私の頭を撫でるのが好きらしい。最初は気恥ずかしさの方が勝ったけど、今は慣れたものだ。
「マリーとだから行きたかったんだ」
「……私とだから?」
「きっとマリーが行きたいだろう、と思って。間違っていたか?」
「行きたかったけど……」
何故それを知っている。
それに私が、この仕事終わったら一人でもなんでも行ってやるんだ〜、と思っていたところばかりだ。
…………もしかして〜?
もしかして、もしかして〜〜??
これ、ブラッドリーさん、私の存在に気付いているやつ〜〜??
私がフィオナだって知ってるやつ〜〜??
だから同棲とか許したやつ〜〜??
おっと、これは〜〜??
「君にソックリな女性が居てね」
あれ?
「その人との過去の清算なんだ」
あれれ??
「そして君にも見せたかったんだ。彼女が愛した世界を。彼女が見せたかったんだろう景色を」
あっれーー!?!?
えっ!! そうなるの!?
そういう解釈!?
解釈違いですか! そうですか! ああ、はい。
少し遠くを苦しそうに見つめていたブラッドリーさんは、私に目を合わせて優しく目尻を緩ませる。エメラルドのような緑色の瞳は今日も綺麗だ。
「俺も進まないといけないな」
アーーーーーッ!!
こ、これは……!!
「……そっかぁ」
ソフィア・ハインズの鳩尾にボディブローが入ったァ!
ソフィア戦士のメンタルはグッズグズです! 変に期待しただけ、ダメージが大きいです!
どうする!? どうするソフィア戦士!?
いや、普通に諦めルートですわ。
はーー。マジかい。
ブラッドリーさんの中で私はお空の星になったようだ。
わずかに残っていた私の恋心もグズグズですね。
確かにさ? 今ここで私が元の身体に戻ったとしよう。
修羅場待った無しだよね。
むしろ良かったんじゃない?
私は元の身体に戻る事を焦る事なく、そしてブラッドリーさん幸せな未来へと進める!!
めでたしめでたし!!
だーれも傷付かない!!
「ブラッドリーさんが幸せになれるなら、私も嬉しいな」
「ありがとう、マリー」
僅かに目がゆらりと揺れるブラッドリーさん。泣きそうなのかな。でも幸せそうな笑顔だ。
そんな事思っているなら諦めるしかないと思うだろ!! チクショー!