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キーンコーンカーンコーン……
本日最後の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。
「それでは、本日はここまでですね」
ぱたん、と国語の教師がゆっくりと教科書を閉じ、静まりかえっていた教室内もざわめきを取り戻したその瞬間。
「ちょっと」
がしっと後ろから右肩を掴まれた。
この方向から俺の肩を掴めるお人は一人しかいない…
「桐生さん…ちょっと付き合ってくれる?」
ぎこちなく後ろを振り返ると、やはり想像通りの人物がいた。
あああ……なるべく関わりたくないのに……
俺はこの最も苦手とする人種に反抗できるはずもなく、言われるがまま教室を連れ出されたのであった。
「ここなら誰もこないわね」
連れてこられたのは、屋上入り口の踊り場だった。屋上は立ち入り禁止で鍵がかかっているから、よっぽどでない限り生徒は来ないのだろう。
「な、なんでしょう……」
俺このギャルになにか気に障った事した?男だってバレた?汗臭かった?知らないうちにキモい事してた?
またギャルに虐げられる学園生活を送るのか?それが嫌で男子校に入学したんだけどなあ……
くそっ中学3年間、散々虐げられてきたじゃないか!今更こんなギャル一人に暴言吐かれたって大したことない……っはず……
日野さんは俺の両肩をガッと勢いよく掴み、思わず俺は目をギュッと瞑った。
「アンタ、めぃぷるちゃんなの!?」
彼女から発せられた言葉は、俺の想像しているもののどれとも違っていた。
めぃぷるちゃん。それは俺の溺愛するプリチェンのキャラクターの名前だ。何故彼女が俺のキャラクターの名前を……?
「えっ、はい、そうですけども…」
「ウッソーーーーー!!信じらんない!!ほんとに!?!?!?キャーーーーどうしよう!」
予想外の彼女のテンションの上がりっぷりに、俺の目は点になった。
「えっ!ホントどうしよう!めぃぷるちゃんが同じ学校の生徒だとか!嬉しすぎるんですけどっ!!あってかサインとか貰える!?やばいマジアガる〜〜〜〜〜っ」
「ちょ、ちょっとまって、なんでお……私のキャラクターの名前知ってるんですか?」
「は?だってめぃぷるちゃんチョーー有名じゃん、コンテストが開かれればいつも入賞してるし、キャラメイクもめっちゃ可愛いし服のセンスもめっちゃいいし!めぃぷるちゃん知らない女子高生とかいないって!あっ前回の冬のコンテストもチョーー良かったよ!アタシめぃぷるちゃんのコーデに投票したもんっ」
え〜…そ、そうなの?確かにさっきも授業中に新しいコンテストの情報を見ようとするくらいにはプリチェンは大好きだし、毎回コンテストに参加してたけど、それは入賞商品の限定アイテムの服で俺の可愛いめぃぷるちゃんをもっと可愛くしたかったからっていう完全自己満足な理由だったから、俺のキャラがこんなに女子高生に人気だったなんて想像もしていなかった…
俺は初めこそポカンとしていたものの、少しずつ日野さんの言ってる事が飲み込めると、だんだんむず痒くなってきた。
「そ、それほどでも……」
「いやいや、それほどでもあるって!前にやったメイド服コンテストもさ、ミニスカメイドじゃなくて会えてロンスカのシックなメイドってめっちゃカッコよかったし!」
「あ〜、あれ、実は私も気に入ってるんだ。今の時代メイドはミニスカってなっちゃってるけどやっぱりクラシックなのが一番だと思って」
「うんうん!アタシも目から鱗だったよ〜!メイド服ってこんなに上品でカワイイんだって気づいたもん!」
「それでヘッドドレスもよくあるヒラヒラのカチューシャみたいなのじゃなくて、三つ編みをお団子にしてキャップ被せてるんだ、あれも結構試行錯誤して……」
「わかる〜!やっぱめぃぷるちゃんしかいないわ〜!」
わかってくれるか~!やっぱ、俺のめぃぷるちゃんが一番可愛いよな~!
「えへへ、ありがとう!で、何が私しかいないの?」
俺は褒められてつい調子に乗り、つい警戒心ゼロのニコニコ顔で日野さんに質問をする。
「アタシのオーディションのコーデしてよ!」
「コーデ?そういえばまたコンテストやるんだよね、日野さん、さっき更新されてた今度のコンテストのお知らせ、みてみようか」
そういって俺はスマホをポケットから取り出したが、日野さんの予想だにしない言葉で危うくスマホを落とすところだった。
「ちがうちがう、アタシのモデルのオーディション用のコーデだよ!」