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太陽学園に通いはじめ、はや2日が過ぎて、今日から学校は通常授業にはいる。
2日ではまだ新生活になんて到底慣れておらず、覚えた事といえば自分の教室の場所と、教室内の窓際後ろから2番目に位置する自分の席と、あと……
「おはよう、今日もいい天気だね」
窓際の特権である学校の外の景色を眺めて、春の陽気を感じながら朝のホームルームまで時間を潰していると、隣から可愛い声で挨拶を投げかけられた。
俺は反射的に振り返ると、そこにはちょうど今登校してきた生徒がいた。
「毎日こんな天気ならいいのにねっ」
隣の席に座りながらこちらに笑顔を向ける美少女は、さらさらと流れる長い黒髪が視界の邪魔にならないよう、耳にかける仕草をする。
「お、おはよう、瀬戸さん」
「桐生さん、どうかな、学校には慣れてきた?」
「来るのがやっとだよ、今日も降りる駅間違えちゃったし」
「あはは、わからない事があったらなんでも聞いてね!」
太陽学園は月光学園と同様、幼稚園から大学までエスカレーター式の学校で、瀬戸さんは幼稚園からこの学校に通う生粋のお嬢様だ。だから、高校から入学してきた数少ない生徒の俺の事を気にかけてくれているようだった。
「移動教室が始まったら、案内はまかせてねっ。中学と高校は同じ校舎だから、私はもうこの道のベテランだよ〜!」
えっへん、と胸を張ってにこやかに会話をしてくれるこの子の笑顔が眩しい。あぁ……このキラキラとした笑顔だけで俺の女子校生活は救われている気すらしてくる。この子は俺のオアシスか……?そうだ!今日から俺はこの子のことを心の中でオアシス瀬戸と呼ぼう!
そんな幸せな気分に浸っていると、別のクラスメイトが登校してきた。
「おはよ〜っあ〜〜ねむっ」
登校してきたその生徒は気だるそうな挨拶をしながら、窓際の一番後ろという特等席、つまり俺の後ろの席に着席した。
「おはよう日野さん、また夜更かし?」
「お〜瀬戸っち。昨日深夜マジでヤバイ映画やっててさ〜。ゾンビvs老人で皆足超おっせーの。録画でも良かったんだけど斬新すぎて見入っちゃって寝るの遅くなっちった。」
「うふふ、なあにそれ面白そう」
「そのせいで朝ぼーっとしてて、スマホ忘れてきちゃったよー。マジしくった。あ、桐生さんも、オハヨ!」
俺に気づいたその日野さんと呼ばれた生徒はチィース、と俺に手の甲をこちらにむけた逆ピースと呼ばれるものを投げかける。
「お、おはよう……ございます」
俺は反射的に目を逸らしてしまった。そう、なぜならこの女子高生の属性は、俺の最も苦手とする……いわゆる『ギャル』なのだ。ギャルという生き物は、裏表なし、建前なし、歯に衣着せぬ物言い、俺は中学の頃クラスのギャルたちから、キモいだのオタク全滅しろだの散々言われてきた。だから、こういう人種を見るとどうしても身構えてしまう。こんな子が俺の席のすぐ後ろだなんて……
瀬戸さんと話していた時のさっきのホカホカ気分はどこへやら、俺の気分はジェットコースター並みにだだ下がっていった。この人とは出来るだけ関わらないようにしよう。そう心に誓ったのであった。