なのかめに 恋した蝉は かなしくて
なのかめに 恋した蝉は
かなしくて
彼岸に一瞬、立ち止まり
その目の玉に
深い緑を浮かべます
そうして、あらぁ、しみじみだなぁと
人間風情を語るのです
恋した時に、私は死ぬのか
これぞまさしく失恋だなと
せみ、しみじみを感じます
しかれども
こんなしみったれたことなどを
このからっきしの
夏の日に
抱え込むなど憂鬱だ、と
朝露一滴、
これっきりで
見事身支度整えて
そうして、軽いあの殻は
庭に焚かれた送り火の
気流に乗って、逝くのです。
あぁ、蝉よ、蝉よ
きっと
なのかめに 恋した蝉は かなしくて
わたしの家で 果てるのです
送り火を炊く、私の家で
素直に死ぬため 支度を整え
最期一声 じ と泣くのです
悔まじしかし 忘れじの
夏至の時候
恋の終止の
恥じらいを
最期一声 じ と泣くのです
いやはや、
空に上がった彼らの無数は
秋にはいわし雲になるやも知れません
さぁ、ひとつ、ここは埋めて差し上げないでください
次のなのかめのために
こんにちは、コーノです。2作品連投です。真冬に真夏の詩です。




