初めてのクリスマスプレゼント
『サンタクロースとは、なんて不平等な存在なのだろう』
今までクリスマスプレゼントをもらったことのない少女イユは、サンタクロースの話を聞いてそんな思いを抱いていた。そのイユの元にも、今年はプレゼントが届いたようで……?
どこか切なくて優しいクリスマスを、あなたに。
「サンタクロース?」
ミンドールと倉庫の片付けをしていると、そんな話が持ち上がった。
「そう。聖夜、世界中の子供たちにプレゼントを届ける存在だよ」
イユは、木箱に入っていたロープの状態を確認すると、その中へと戻す。
「……私には無縁の話ね」
「信じない、ではなくて無縁なんだね」
「そうよ。会ったことなんてないんだもの」
施設にいた頃は、一度もプレゼントを貰ったことがなかった。それはイユに限ったことではない。あの灰色の世界には、イユの知る限り数人の子供たちがいた。その誰もが痩せ細っていくなかで、サンタクロースとやらにプレゼントを貰えたものはいなかった。
理不尽だとイユは思う。ミンドールの話では、サンタクロースは良い子にプレゼントを配る存在だということだ。それならば、あの施設の子供たちは皆悪い子だったということになる。或いは、『異能者』はそもそも人の子として見られてはいないのだろう。それなのに、街にいる裕福な子供たちには等しくプレゼントが配られる。サンタクロースとは、なんて不平等な存在なのだろう。
「サンタクロースは君たちの居場所を知らないだけかもしれないよ」
イユの思いについて、ミンドールはそう答えた。
ミンドールはいつも優しい。見ず知らずの存在に対してもそうやって庇うことができる。
それを指摘するイユに、ミンドールは
「それを素直に言えるところがイユの良いところだ」
とむしろ誉めてみせる。
「そんなイユの元になら、今夜サンタクロースは来るかもしれないよ」
次の日の朝、目を覚ましたイユは、視界の端に見慣れない袋があることに気づいた。それは黄色くて大きな袋だった。赤いリボンでまとめられている。
期待など全くしていなかった。それだけに、胸にじわじわとこみ上げるものを止めることができなかった。
早速袋を開ければ、中から茶色の耳が姿を現す。そのまま袋から出しきると、そこにあったのはコグマのぬいぐるみだった。つぶらな瞳がイユを見上げている。
胸の高鳴りがイユの頬を朱に染めた。これがサンタクロースからのプレゼントなのだと、すぐにわかった。
「ミンドール、見て!」
部屋を出ると、イユは真っ先に彼の元へと走っていった。
「ねぇ、ミンドール」
プレゼントを貰った報告は終わり、甲板での仕事も一段落した後の話だ。二人は粉雪がかかるのもお構いなしに甲板のてすりに体を預けていた。
イユはそこで宣言する。
「私、来年はサンタクロースに手紙を書こうと思うの」
サンタクロースは『異能者』のイユにもプレゼントをくれた。だから、そこに差をつける存在ではないと知ったのだ。
「サンタクロースはミンドールの言う通り、施設のことを知らないんだわ。だから、施設の地図を書いて、あそこの子供たちにもプレゼントをあげてってお願いするわ」
それから。と、イユは心のなかで告げる。ミンドールがいまだに探している娘。彼女にも、クリスマスプレゼントを届けてと書きたい。できることならば、そのプレゼントがミンドールとの再会であると尚のことよいと。
イユの心の内を知ってか知らずか、ミンドールは目を細めてイユを見つめた。その笑みは慈愛に満ちていた。
「君のその優しさがあれば、サンタクロースはきっと来年も来てくれると思うよ」
その言葉に答えるように、粉雪がイユの髪を乱してふわっと舞い上がっていった。