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百合

女友達と姉が自分に内緒で仲良くなっていた話

作者: イウよね。

 七月のうだるような暑さも、テストが返却されれば後は休みだということで許せる気がした。

 ただ夏休みになると人の集まる場所は自然と混むようになる。夏休みになる前、テストの返却されたその日に私は街の方へと向かった。

 目的は、地元じゃ買えない特典つきの本やゲーム。ポストカードやリーフレットみたいな限定特典は、その特定の店舗じゃないと買えないことがしばしばある。そのたびに買いに行くのは手間だが、数量限定だったりするので急がないといけないこともある。

 最悪の場合は、一番好きな漫画とかだと複数種類の特典がある場合で、強いオタクは同じ本を違う店で何冊も買ったりする人もいる。私はお小遣いのせいでそこまでできないから、特典の中から選ぶけど。

 でもこの日、結局リーフレットか強いイラストのポストカードかを選びあぐねてお店の前で立ち尽くしていた。ストーリー漫画のあるリーフレットを基本的に選ぶんだけど、ポストカードのイラストがとてもつよいから捨てがたい……。

 なんて風に、時間を無駄にしている時だった。

(……あれは我が友、神楽(かぐら)氏ではないか?)

 なんて、テストでやったばかりの文章を真似て一人ごちってみる。

 見れば珍しくオシャレしてるけど、間違いなく中学からの腐れ縁、しょっちゅう制服のままうちに来てごろごろ何をするでもなくぼんやり過ごしている氷川(ひかわ)神楽だった。

 渡りに船とはこのこと、いちいち誘ったりなんだりするのは迷惑だと思ってこういう買い物には一人で来るけど、店舗特典を選んでもらうくらいはしてもらおう。

 と近づいたところで、神楽が誰かと一緒にいることに気付いた。手を振る視線の先にいるのは、まさか彼氏とか。

 が危惧以上に予想だにしない人物がそこにいた。向かいのコンビニから出てきたのは紛う方なき私の姉で、つまり姉ちゃんと呼び慕う高倉梨子で。

 姉ちゃんと神楽は合流すると、そのまま人も少なな平日の街並みへと消えていきましたとさ。


 

「ということが、あったわけ」

「…………」

 夏休みも間近に迫る一学期の残りかすみたいな日、いつものように家に来た神楽本人にそれを話した。

 普段は顔も合わせず私はパソコンしてて、神楽はなんかだらだらしてるけど、今は私のベッドで寝転がってる神楽の方を見て問い質してる。

 神楽もなんか困った風にしてるけど、ようやく口を開こうとしていた。

「……いや、なんか気まずいと思って秘密にしてたけど」

「うん、なに」

「仲良くなってました」

「……姉ちゃんと、仲良く。ほぉ。前の姉ちゃんに言いたいけど遠慮してたことって、それ関係?」

「ま、だいたいそう」

「なんか腹立つんだけど」

「いや梨音なんか腹立てそうだから私もなんとなく黙ってたんだよね」

 そう言われると、慧眼だと褒めざるを得ない。確かに無性に腹が立つ。

 私は梨音と姉ちゃんに隠し事をされていたわけだ。というかだって二人で遊ぶのなら私が混ざるべきじゃないだろうか? 梨音と姉ちゃんの接点と言えば私、私を介さずに二人が会うということはもはや私への裏切りであるかのような。

 言いすぎだけど、気にしすぎだけど、そんな気持ち。

「でも、さ、よくない? 私と梨子さんが一緒にいるくらい」

 嫌だけど。

「……まあ、いいけどさぁ」

 高校生と大学生の女子が仲良くなるなんて、まあある話かもしれない。接点とかそんなの気にしすぎだし、過ぎてしまえばどうでもいい話だとも思った。

 それになんか、私が神楽や姉ちゃんに執着しているようで、友達が少ないとか姉離れできていないとかで情けない気がして。

 そんなことばかり考えると二人が仲良くなるのを認めるのが大人である気がして、不承不承のうちに二人の関係を認めることにした。

「……てか、じゃあ姉ちゃんに言いたいことってそういうことだったの? 仲良くなりたいみたいな」

「いやそれは……胸が大きいなぁって」

「……え! じゃもしかして姉ちゃんのことそういう目で見てるの!?」

「いやいや、普通に。だってほら、なんか見たことないっていうか」

「この助平!」

 きゃあきゃあと抵抗する神楽に馬乗りになってぐいぐいと頬を掴む。抵抗する神楽と押し合い圧し合いになってくるけど、私が言いたいことはそれほど多くない。

「それ姉ちゃんに言った!?」

「言ったけど」

「で、どう」

「どうって……触らしてもらった」

「は!?」

 さわ……。

 ほんのり、流れで私も神楽の胸にそっと手を置いた。

「……仕返しの方法が原始的すぎる」

「……姉ちゃんなんて?」

「……いや、このままでいいのって聞かれたから、一枚脱いでもらった」

「いや脱がなくていいし!」

「脱がんわ!」

 またわーぎゃーと引っ張り合いが始まったけど、私が言うことはやっぱり多くない。

「姉ちゃんを誘惑してんじゃねえー!」



「っていう話をしたんですよぉお姉様」

「……」

 全部まとめて梨子姉ちゃんに言ってみたけど、気まずそうに目を反らしていた。

 二人で仲良くするのみならず、誘惑するように(いや脱がせたのは神楽だけど)胸を揉ませたなんて未婚の婦女子にあるまじき行為! みたいな。

「でも、年下の女の子にだったら、ねぇ」

「私の友達なんですけど」

「それは、そうだけど」

「絶対下心あって近づいたんですけど!」

「下心って、梨音の友達だし」

 神楽のやつはかなり信用されてるらしく、どうもそれなりに説得しても姉ちゃんの気持ちはゆるがなそうだ。

「あーもう! じゃいいよ! ばいばいさよなら! このやろっ!」

「きゃっ!」

 腹癒せに姉ちゃんの胸を正面から引っ掴んだ。特に腹は癒えなかったけど。



 結局のところ、寂しかっただけだった。

 自分が一人にさせられたような、自分がいなくても二人が楽しくやっていけるような状況。

 私よりも神楽を信用するような姉ちゃんも、私と出かけるよりも二人で出かける機会が増えたことも。

 私は、だって二人とは趣味が違うし、二人とは家で過ごすことしかしないし。

 神楽と出かけたことなんて学校帰りくらいでしかない。

 姉ちゃんと遊んだ記憶も古いし、胸なんて触らないし、接触なんて日常生活ですることない。

 それがなぜか無性に寂しく感じた。自分だけが取り残されたような、自分が一人でいることが強調されたような気がした。

 いつも私は一人だから。

 一人にしないで欲しい、なんて改めて言うこともできなかった。だって私はもう二人の関係を認めてしまったから。

 


「神楽! 本買いに行くぞ!」

「ええ……なんで。私今日は梨子さんと服を見に行こうと……」

「どうせ街だし、じゃ三人で行くか」

 私の選択は一人にならないことだった。

 二人の仲は認めよう、仲良し、そりゃあいい。

 けれど私がそれでじっと一人寂しさを味わうような軟弱な性格ではない。私が二人ともっと仲良くなって、私が満足するように行動を起こすのだ。

 二人とも露骨に居心地悪そうな顔をしているけれど、私はそういうのも気にしない。

 高倉梨音、無敵の人生観である。

百合か百合じゃないか悩んでタグはつけなかった

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