1歳と25歳
それから姉の体調がよくなるまでは日本にいたが、1年後3人は旦那さんの国へ帰っていった。
母親は残念そうにしていたが、私はとても気が楽になり出発前日にはウキウキしすぎて眠れなかった。
ノアと名付けられた姉夫婦の子はよく私になついていた。
生まれて間もないのに、私から片時も離れようとはしなかった。おっぱいを飲むときぐらいだった。いつでもどこでも一緒にいたがるその子はひどく不気味だった、寝るまでは私が手を握らなければいけないほどに。
ゾッとした。やはりこの子はいけない、そう思った。おかげで夜はあの子が生まれた日を夢に見ては
眠れない日々を過ごした。
姉は自分の子供の様子に悲しげだったが、旦那はどこか嬉しそうでよく姉とイチャイチャしていた。
「お盆と正月は帰って来るから」
「気を付けるんだよ、どうぞうちの娘をよろしくお願いします」
「こちらこそ。そろそろ飛行機の時間なので失礼します」
「雪、じゃあね」
「うん、バイバイ」
その時だった、眠っていたはずのあの子が目を覚ましたのは。
"オギャー""オギャー""オギャー""オギャー"
耳の鼓膜にひっかかるような泣き声だった。
"逃がさない"
そう言われているようで悪寒が走った。
「よっぽど雪さんと離れたくないんだね」
「そ、そんな訳ないですよ。
飛行機で緊張してるんじゃないですかね」
早くいなくなれ、早くいなくなれ
「ごめんね、お母さん、雪」
「風邪に気を付けるんだよ」
疲れた。ただ横になりたい。そう思った。
「雪、顔が真っ青じゃないか」
「お客様、大丈夫ですか?」
なんか係の人がきちゃった。
「……大丈夫です。お母さん早く行こう」
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、良かったら奥にスペースがあるので休まれてはいかがですか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
大丈夫、明日からは何もないんだから。
そう、小さい頃の記憶なんてすぐに忘れるんだから。