その3 道中くらい穏やかでありたい(願望)
時間が経つのは早く、待ちに待った週末である。待ちに待ったというのは俺ではなく、サキがの話だ。サキからしてみれば昨晩は遠足の前日のような気分だっただろうが、俺にしてみれば胸の上に漬物石が乗っている感覚だ。夜がこんなに短いなんて今までに思ったことがあっただろうか。
ため息をついている間に新幹線がやってくる。これに乗るだけで買えるはずのあれやこれが買えなくなる。なんと悲しいことだろう。
俺の悲しい気持ちを知ってか知らずか、当のサキは新幹線の中に入って一番乗りだとはしゃいでいる。
自由席エリアに行くと小学生のようにキョロキョロと辺りを見回す。空いている席を見つけたのか、目にも止まらぬ速さで窓際を占領すると他に人がいる中で俺の名を呼ぶ。
……頼む、俺は勇者選別会に来た勇者様じゃないんだ。勘弁してくれ。
多大なヒットポイントを削られつつ席に着くと学校では収まっていた箱根の宗教軍団の話に一人花咲かせる。俺が生返事なのに気を悪くすると窓に向き直って頭の中で宗教軍団の話を練り始めたようだ。
あまりのつまらなさにノートを取り出して今までの構想を纏めるように筆を走らせた。原稿として綴ればあまりの突飛さと面白さに出版を考えてくれる会社もあるかもしれない。
出版の話もサキにしてみれば不愉快なものなのだろう。サキとしては、形に残る物語ではなく過ぎ去っていくおかしな現実の方が人生に価値を抱いているだろうからだ。
つくづく思うが、価値とかそういうものよりも引きずり回される人間のことを考えて欲しい。神様がいるのなら何故俺がこんな目に遭うのかをお答えいただきたいものだ。ここまで大変な目に遭っているのだから偶にはサイコロの6を連続で出させていただきたい。
昨晩の寝苦しさもあってか睡魔がどんどんとやってきた。サキに到着までの間を任せていいものか。しかし俺の体力はここが限界のようだ。車両の揺れるリズムに合わせて心地よい眠りへと落ちていった……。
「ちょっと、ねぇ、ちょっと」
体を揺さぶられて目を覚ます。もう目的地なのだろうか。
期待半分で外を見てみると流れていく風景が見える。時計を見ても眠りに落ちてから1分経ったか経たないかだろう。
一体何事なのかとサキを見ると疑惑のような目でこちらを見ている。
喧嘩を売っているわけではないと思うのだが。
「……なんだよ」
心地よい眠りを妨げられた怒りに身を任せて何の用かを訊ねると、身を任せすぎたのか人が変わったのだろう。サキが多少たじろいだように見えた。
「別に。何勝手に寝てるのかって思っただけよ。何も言わずに寝てると死んだみたいじゃない」
言うと共にそっぽを向いた。謝罪やらそういうのは無いのか。
文句は色々つけたいところだがどうにもこうにも、眠い。
「そうか。それじゃあ俺は寝るから、小田原に着いたら起こしてくれ」
それだけ言うとがっくりと首を垂れさせて二度目の眠りへと赴くことにした。