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お題短編シリーズ

夢のような

作者: 宮居 萊梛

とても暑い日だった。

蝉の声が聞こえていて、すごく綺麗な空だった。

ぼくらはアイスを食べながら歩いていた。

ぼくはソーダ味。彼女はぶどうだったかなぁ?

「美味しいね」

彼女は笑っていう。ぶどう味のアイスが好きな子だったかな。いつも同じのを買っていた気がする。

それはぼくもか。いつもソーダ味。時々、ぱちぱちするラムネが入ってるちょっと高いアイスを買うんだ。彼女はそんなことしなかったけど、飽きなかったのかなぁ?

「そうだね。美味しい」

お日様がてっぺんに登る、1日のうちで1番暑い時間。学校もないからのんびりと、散歩を楽しむ。

彼女も散歩、好きだったな。アイスやなんかを食べながら、一緒に歩くのが好きだった。

「今日は一段と暑いね。森の中歩いてみる?涼しいかも」

あれは彼女の提案だったかな。家まで帰るのに近道になる森の中。普段は通らないように言われてるから、学校帰りなんかは遠回りだけど森道を避けて帰ってるんだ。

だけどあの日は、今日くらいいいかなって思っちゃったんだ。

「いいね。通ってみよう」

ちょっとワクワクしてたのも事実だ。

いつも通れない道だから。何があるのかわくわくしてた。

「涼しいねー」

アイスを食べ終わって、棒を振りながら、整えられた道を歩く。

森の中なのに、凄く綺麗で歩きやすい道だ。なんでだろ?


暫くすると、なにか建物が見えてきた。

小さな小屋みたいだ。扉が付いてる。だけど人が入れそうにはなくて。

こんな建物見たことないや。

「なんだろうね、これ」

「祠みたいだね」

彼女は目を輝かせながら言った。

「ほこら?」

「そう。神様が祀られてるの」

「へぇ。かみさま」

どんなかみさまかわからないけど、手を合わせておこうかな。

祠の扉の前にしゃがんで、手を合わせてみる。何を願う訳でもないけど、挨拶をしてみる。

彼女も同じことしてたかな?

「なにかお願いした?」

ぼくは首を横に振る。

「何を願ったらいいかわからないから、挨拶だけ」

「そっか。残念」

そう言ったあと、また彼女の口が動いた気がしたけど、なんて言ってるかはわからなかった。

「じゃあ、帰ろっか」

アイスも食べ終わってしまったし、いつまでも棒持っているのもやだもんね。

「うん、この道まっすぐ行ったら帰れるかなぁ?」

「帰れると思うよ」

そう言って彼女はぼくの手を握る。

手を繋いで、道を歩く。分かれ道なんかはなくて、ただひたすら木のあいだに出来た整えられた道を歩くだけ。


「静かだね」

虫や鳥の声でも聞こえるかなって思ってたけど、そんなことなくて、足音しか聞こえない。

「動物とかいないのかなぁ」

「いてもおかしくないのにね」

ちょっと楽しみにしてたのに。いつもは見れない生き物とか、見たことない虫とか見れたらなって思ってたのに。

「森の中なのに、不思議な感じだね」

彼女と手を繋いだまま、2人分の足音を響かせて歩く。

「そうだね。神秘的、とも言うのかな」

「しんぴてき」

彼女はぼくの知らない言葉をよく知ってる。

「他に例えようのないくらい不思議だなって。そんな感じ」

「そっか。そうだね。しんぴてき」

音の響きが気に入った。

「漢字にすると"神"って漢字も使うから、この場所にはぴったりかも」

「そうなんだ。かみさま、居たもんね」

実際に見たわけじゃないけど。

「ね。挨拶、したもんね。あ……いつもの道、見えてきたよ」

「あ、ほんとだ」

いつもより半分の時間くらいで着いた気がする。

ぼくらは手を離して、いつもの道路に出た。ここから左にちょっと歩けば、家が見えてくる。彼女の家は、もう少し先らしい。

いつも送ってくって言うんだけど断られちゃう。なんでだろ。

勿論今日も聞いたけど、大丈夫って言われてしまった。

家、行ってみたいなぁ。ダメなのかな。

「じゃあまた、あした。いつもの時間にいつもの場所で待ってるね」

「うん。またね」

そう言えば彼女、いつもぼくより先に待ち合わせ場所にいるんだよね……ぼくの方がその場所から遠いとはいえ、なんでだろう?

いつだったか、今日はぼくが先に行って待ってるんだって思った時も、先に居て、

「今日は早く来るんじゃないかって思ったから」

って言われちゃった。不思議だなぁ。

それでぼくが早く来なかったら、ずっと待ってるんだったのかな。暑いのに。



図書館の前のベンチで待ち合わせて、近くの駄菓子屋でアイスを買って、色んな道を歩く。

少しの時間だけど、とても楽しい彼女との時間。

これはずっと続いてくんだって、信じてたのに。



ある日、彼女は来なかった。

今日はぼくの方が先だって思って、少し優越感に浸ってたんだけど、何分経っても彼女は現れなくて。

仕方ないから1人でアイスを買って……あれ、そう言えばぶどう味のアイス、なかったや。なんでだろ?

いつもとは違って1人で道を歩く。

……なんかちょっと、寂しいな。


……次の日も、彼女は来なかった。

その次の日も、彼女は来なかった。

ぼくは1人で散歩した。


「今日はここ、通ってみようかな」

彼女と最後に会ったあの日の道。

綺麗に整えられた、歩きやすい森の中。

あのほこらのかみさまに聞いてみよう。

そう思って、森の中に足を踏み入れた。


あの日とは違って、少し騒がしい森の中。

鳥の鳴き声が響き渡っている。

「あ……あれ?」

ほこらを見つけた。

……ほこらの前に、倒れている人もいた。


はずだった。


「……あれ?」

さっきは確実に、倒れている人を見たのに、祠に近づいていくにつれ、その姿は薄くなり、見えなくなった。

「どういうこと……?」

よくわからない……かみさまにお願いしたら教えてくれるかな……?

祠に手を合わせる。

お願いしてみる。

……が、勿論、答えが返ってくるわけがなく。

また1人、道を歩くのでした。


それからぼくは、毎日の散歩を辞めてしまった。

彼女が来ないから……1人で歩くのは寂しいと思ってしまったから。

彼女に会う前は、時々1人で歩いてて、それでも楽しいって思ってたのになぁ。

……そう言えばいつから、彼女と散歩するようになったんだっけ。



学校が始まってしまう前に、久しぶりに駄菓子屋に行った。

……ぶどう味のアイスなんて、やっぱり売ってないや。

いつものソーダ味のアイスを持って、レジへ行く。

彼女はいつもの間にか、アイスを持っていた気がする。

ぼくが会計してる時にはもう封を開けていたような……?

「おばちゃん、ぼく、いつも誰かとここに来てなかった?」

顔見知りのおばちゃんに聞く。お釣りを渡しながら、おばちゃんは

「いつも1人で、そのアイス買って帰ってたよ」

と教えてくれた。

「女の子と一緒じゃなかった?ぶどう味のアイスが好きな」

「いいや……そもそもうちはぶどう味のアイス、売ってないからねぇ……」

……???

何が起こっているんだろう……?

「そっか。そうだよね。ありがとう」

お礼を言って、散歩道を歩く。

久々の散歩。

そうだ、またあの森の中に入ってみよう。


彼女のことはぼんやりしてきてるけど、祠のことはしっかり覚えていた。

整えられた綺麗な道を歩く。

すぐにそれは見えてきた。

「あれ、なにか落ちてる」


手紙のようだった。拾い上げてみると、ぼくの名前が書いてあった。

その場で封を開ける。

手紙を読む……それは彼女からの手紙だった。


「会いたかったら、ほこらに手を合わせて」


そう最後に書いてあって。


ぼくは迷わず、手を合わせた。




次のニュースです。

〇〇県〇〇市で小学3年生の男の子が行方不明になりました。

身長は120cm、空色のTシャツに紺の半ズボンで出掛けたそうです。散歩はほぼ毎日の日課のためいつも通り見送ったそうですが、いつもは帰ってくるであろう19時を過ぎても帰ってこず、警察に通報。現在近隣の森の中などの捜索がされています……




「また、会えたね」




これはぼくの不思議な体験。

今日もまた、ぼくは彼女と散歩する。

お題を募集して短編を書く企画です。

今回は「夏」


「夏」を使わずに夏を表現するってのがやりたかったんですが失敗しました←

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