波乱の風
イケメンが出るよ
村のみんなのお墓を作り
ちゃんと天国へ行けるように必死に二人で祈ったあと
俺たちは村から出てある森に行くことになった。
その山は大きくて俺たちの村の裏にある山の3倍くらいでかいらしい。
俺たち二人は村から食料や野宿できるように色々を荷物を詰めていた。
「そういえば、赤髪は随分と雰囲気が違うな」
「あぁ、夜の僕と会ったんでしたっけ。それはすいませんでした。悪気は無いです。あっ嘘ありますね」
「どっちだよ」
と軽くつっこみを入れた。
赤髪は夜とは別人のように大人しかった。
口数はあまり多くないけど喋ればキチンと返してくれるし
何よりも相手の目をみてきちんと話すところが生真面目なやつなんだなと思わせた。
赤髪は夜のことは覚えていないらしい。
赤髪曰く夜、特に妖気が満ちていたりすると悪鬼と化しやすいらしい。
悪鬼になりかけている時の記憶はほとんど覚えていないという。
「神無月。終わったか?」
と皐月はすでに準備を終えたようで荷物を
よいしょと背負いながら話しかけてくる。
先ほどよりも落ち着いているがやはりまだ表情は硬い。
かくいう俺も何かを喋っていないと落ち着かないほどには
気持ちの整理が全然つかなかった
それよりもなにかしている時の方が、気を紛らせるにはよかった。
「あぁ、俺も終わったよ」
と重たくなった荷物を背負いながらそういえば俺も
立ち上がって外にまっている狗神のところに行く。
「おー、終わった?」
先ほどコイツに向かって激怒したのが馬鹿になるほど
あっけらかんとしながらニコニコと笑みを浮かべながら
手を振ってくる。
呆れたように溜息をついたが狗神が何か持っているのに気が付く。
「何持ってるんだ?」
と狗神がもっている棒状のものを指さす。
狗神は「これ~?」といって手渡してくる。
それは俗に錫杖というものだった。
「なんで妖怪のお前が持ってるの?」
と皐月は不思議そうに錫杖を見ながらそうつぶやいた
確かに妖怪であるものがこれを持っているのは不思議だ。
「ん。あぁ、優夜さんのおうちからくすねてきた。」
と悪びれるわけでもなくそうニコリと笑って答えた。
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「さぁて、あーあー、ねえ、やっぱり山行くのやめない?」
と一番に提案してきた狗神が歩きながらとても嫌そうな声でそう告げる。
優夜の方はハァとため息をつきながらスタスタと歩いていく。
狗神は嫌そうにというか仕方なさそうに優夜の後ろをついていく。
「ねぇ、優夜さん、天狗ってのはどんなやつなんだい?」
と皐月が優夜の隣に行けばそうたずねる。
「あぁ、そうですね。見た目は二枚目ですね。とても顔立ちがよく女性が大好きです。妖怪としての力も申し分なく強く優秀で、風を扱うのに長けているらしいです。忠誠心が強く一度引き込むと中々裏切らないとか」
と、淡々とではあるが話しかけるときちんと答えてくれる
優夜の声は女性にしては、少し低めの声だが
耳にすぅっと入ってくるような声で話してくれる
だから赤髪の声は結構すきだ。
「でも、今から会いにいくあれは、女性と見れば誰でもたらし込むし、風に長けているけど特別強くはないし体つきも少しひょろくて軟弱なんじゃないですか~?」
と少し不貞腐れたような声が優夜の後ろから聞こえる。
狗神は小さい背丈を縮めるように猫背でいかにも
行きたくないっとった雰囲気でトボトボと歩いている。
それに天狗の話をすれば必ず少しながら
嫌味を返してくるあたり本当に会いたくないのだろうと
簡単に俺でも察しがついた。
「まぁ、優夜さんが優秀というならそうなのでしょう」
「つーか、この錫杖俺が持ってていいのか?」
話の流れをぶった切るようで少し申し訳なかったが
俺の手の中に握られている錫杖を狗神と優夜に見せながら俺は
錫杖を握る手を少しだけ弱める
狗神はフゥと息を吐きながら薄く笑い、優夜はよく読み取れない口調でこういった
「妖しである私に錫杖は似合いませんよ」
「…蹴った方が早いですから」
「皐月は?」
「俺そんな重いもの持ちたくなーい!」
と軽く笑いを含めながらそういえば皐月は一番先頭に行くと笑いながら歩いた。
俺も皐月の隣に並んで歩き始める。
狗神と優夜は俺たちよりも少し離れて歩いていた。
理由はよくわからないがなぜか若干距離を置かれる。
狗神が言っていた 交わるものではない からだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると簡単に日が暮れた。
それでも朝の間に山の近くにまではたどり着けた。
俺たちは簡単に野営をするために、木の枝を探して火を点け。
森が近かったためうさぎや、山菜などをとって
食事をしていた。
狗神は「いーらない」と言いながら水だけ飲んでいた。
「あぁ、そういえば」
と優夜が口を開く
「私夜は離れて寝ますね」
と。
「じゃぁ、私は護衛で」
と狗神が流れるようにそういえばふわぁとあくびをした。
夕暮れだといってもまだ完全に太陽が沈んでいるわけでもなく
少し薄暗くなっている時間帯だ。
「わかった」
と俺と皐月は離れて寝るということには意見はない。
実際近くで寝られて鬼が暴走したら殺される可能性の方が高いし
勝てるはずもないから。
皐月も同じことを思っているのだろう初めて会った時を思い出してか少しだけ
顔が青ざめている。
その表情を横目にしながら俺は簡単に食事を済ませる。
そして食器を片付けて夜寝る準備をする。
狗神はどこで寝るのか準備もせずにフラフラと山の中に入れば
「適当に帰ってくる」とだけ告げて山の中に消えていってしまった。
「気にしないでください。あーゆー人ですから」
と優夜にやんわりと探しに行くことはやめたほうがいい
と言われたので俺は大人しく自分の準備をしていた
するとぬるい風が吹いた。
その風は、何か気持ちわるいものをまとっているような気がした。
ブルリと寒さではなく気持ち悪さで体が震える咄嗟に皐月と赤髪を見れば二人共
違和感に気がついたのか俺と同じようにあたりを見ながら警戒の色を見せている。
すると頭上から声が聞こえた。
「おや、珍しい人ですね。」
その声はとても穏やかで、理性の色が確かに残っている。とても優しそうな声色
なのに、とても気持ちが悪い。
咄嗟に赤髪が俺たちをかばうように少し前に出る。
「…貴方を探しに来たのです。紫來さん」
と赤髪は少しだけ緊張の色を隠せない声色で言った。
俺たちは気持ち悪さに声も出ない。
俺は自分の拳を握り締めるだけでそいつを見上げていた。
すると紫來と呼ばれたやつはバサリと大きな音を立てて降りてきた。
大きな音を立てたそれは漆黒に塗りつぶされた大きく頑丈そうな翼だった。
「おや、すいません。優夜さんだけだと思い妖力を抑えていませんでした」
俺たちふたりを見ると翼をしまう。
すると今まであった違和感はスゥと消えていってしまった。
体の力も自然に抜ける。そしてフゥと俺は静かにだが大きく息を吐いた。
そして紫來と呼ばれた多分天狗であろうソイツは確かによく整った顔立ちをしていた。
狗神も黒い髪は艶やかで瞳も大きく
とても愛らしい容姿をしているし
赤髪も中性的で片目が隠れているがそれでも整っていることはわかるが
この天狗はなんというか正統派というような感じだ。
どこぞの貴族といっても通用するような顔立ちだった。
「優夜さんお久しぶりです。相変わらずお美しいですね。このようなところにこんな子供をつれて私に会いに来るとは…まだまだ小さな子達ではありますが私の心は嫉妬で燃えてしまいそうです」
と紫來は赤髪の細い腕を取りそのまま跪けば手の甲に口を落とす
俺と皐月は見てはいけないものを見ているような気がして
アワアワとしていたが赤髪は心底面倒くさそうな
顔をしながらため息をついてこう告げた
「今回はお願いがあってきました」
「はい、愛おしい優夜さんのお願いです。多少無理なお願いであっても受け入れましょう」
「この少年のどちらかと契約を交わして私の家族を殺してください」
と。その声は泥沼の中から這い出るように重く低く
憎しみにこもっていた。
先ほどから笑顔でいた紫來も少し眉間に
シワを寄せると俺たちを交互に見る。
「……それは、優夜さんのお願いでしょうか」
「はい、私だけのお願いではありませんが少なくとも私の願いも入っています」
感情の読み取りづらい声でそう告げれば天狗は立ち上がる
そして赤髪の瞳をじっと見る。そして少しだけ困ったようにこういった。
「…俺はこれでも結構格式高い妖しです。殺しの対価にこの子供は少し…失礼ですが安いですね。これでは俺は買えません」
「何が望みですか」
「…そうですね…それでは、貴方のココを」
と赤髪の胸の中心に指を置いた。
そこに色恋のような甘いものはなく
ただ苦いだけの感情が見えたような気がした。
紫來と呼ばれた妖しの瞳には欲が渦巻いたような
物でいっぱいだと思った。
赤髪は少し返答に困っていたがしばらくして
決心をしたように口を開こうとした。
「ダメに決まってるだろうカラス。」
赤髪とは違う声が聞こえた。
すると空気が先ほどより段違いに重くなる。
肺に鉛が入っているかのように息苦しく
一つ呼吸をするだけで押しつぶされそうだった。
「…カラスてめぇ誰の許しを得て優夜さん触ってんだ。呪うぞ」
狗神だった。
狗神の声はいつもよりも低く、
いつも貼り付けた笑顔を保っているもイラついているのが
誰から見ても明らかなものだった
怖い
そう感じた。
「…なんであなたがいるんですか牡丹。貴方を見ると目が腐ってしまいそうです」
「そのまま腐ってしまえばいいのではないですか?」
「犬っころ風情がよく吠えるな。」
「おいおい、紳士殿随分と口が悪いな?」
「犬風情に口を改めると?」
「ハッハー!飛ぶだけのカラスがよく言うなぁ?」
と今度は二人共満面の笑みで毒を投げつけ合う。
ふたりの間にいる赤髪が心底面倒くさそうな表情でこうつぶやいた
「二人共やめてください」
かわいそうなくらい仲が悪い犬とカラス