昔話の昔話
旅には準備が必要です
「さて、自己紹介から始めようか?」
と女の子がどっこいしょというように社の奥にあったまだまともに使える部屋
へ案内された。そこに赤髪と俺の友人を寝かせた。
「……お、お前らなんなんだよ!」
と今思えば妖怪でも一応神がつく位の妖しなのだからそんな聞き方じゃぁ
殺されるかもしれないねぇとおじさんは少し照れくさそうに
笑いながらまた昔話を続けてくれた。
「んー、あれ?噂になってない?狗神だよ~」
と軽く宿題の答え合わせのようにポンとそう答えられると俺は混乱してしまった
うそだろこんな女の子みたいなやつが狗神!?とでも確かに耳も尻尾も生えている
作り物には見えない。
「じゃ、じゃぁそいつは!」
と俺は怖い思いを必死に奥に押し込めながら赤髪のやつを指さす
「はいはいボーズ。一応女の子だからね、この子」
「おんなぁ!?」
「うん 女の子」
俺は正直驚いた。確かに女のにように華奢だと思っていたが背が高いしつぶやくような声は低かったから。男だと思っていた。それにあの力の強さ。女には出せない。
「さぁーってと…さぁ、人間。何をしに来たか聞いてもいいかい?」
と狗神はそう口を開けば八重歯を見せるようにして笑った。
俺はそれが怖かった。食べられそうで。無邪気に笑うただの女の子なのに
このとてつもない違和感は一体何なんだろうと。
だがそんなこと考えてもわからないのは当然だった
俺はカラカラに枯れた喉に潤いを与えるためにごくりと唾を飲み込めば
「なんだ」
と強がるように少し低くそういった。
狗神はますます面白そう笑いながら
「まずは自己紹介だよ。人間。いやだろ?種族名で言われるの」
「…神無月」
「そうか、いい名前だな。」
「お前に名前はあるのか」
「んー…牡丹だ。よろしく」
「妖怪とは別によろしくしたくはないんだが…」
「あははー無理無理 妖怪相手に真名明かすと縛られるから」
「えっ」
「んで、この子が起きるまで暇つぶし程度になんでも聞いてくれてもいいよ~」
と俺の友人を指差してそう言えば狗神は何でも聞けと言わんばかりの笑顔だった
正直初対面で聞きたいことは?と言われてもえっとしか言えないのだろうが
正直妖怪だしそいつ誰だとか何しに来たとか色々聞きたいことがあるものの
なかなか俺の頭では要領よく収めることはできずとりあえずといった感じで俺はこう聞いた
「…赤髪はなんで襲ってきたの」
「そりゃぁ、神無月たちが人間だからだよ」
「でもさっきはお前も襲ってたし…」
「スイッチ入ると見境ないんだよねー」
「なんで人間を襲うの」
「恨んでるからさ」
ところなは先程と同じように笑いながら告げる。
恨んでいる。言葉で言うには容易い。でも重みを感じる。
「…な、なんで?」
「なぁ、神無月この子人間に見える?」
と俺が聞いているのにも関わらずそんなことはお構いなしといったように
赤髪を指さしながら首をかしげる。
「そりゃ見た目だけなら全然人だけど、なんかこう、違和感みたいなのはある」
「…そう、そっかぁ…」
と素直に俺が答えると狗神は少し残念そうに笑ってみせた
なんでそんな表情するのかその時の俺には理解は全くできなくてただ首をかしげるばかりだった。
「んで、なんで恨んでいるかだっけ?」
「そ、そだよ」
「…そーねぇ、まぁ本人の昔話だけど暇つぶし程度に聞いてあげて。」
とコホンとひとつせきをいれてゆっくりと狗神は話始めた。
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私は一人だった。人の恨みと呪いだけが私を作る全てだったから私に近づいてくる妖怪も人間も当然のようにいなかった。
でも一人だけ私を見ても逃げ出さない人間がいた。
その人間は町の大きな家に住んでいて、妖怪の天敵とも呼べる陰陽師の家計の末席だった。
昔その一族が妖怪からもらった呪いによってその子の髪色はほかの人と違って血のように赤かった。
血はその時代からも穢とされていて誰も彼女に近づくようなもの好きはいなかった。まぁ私は近寄って行ったんだけど。
純粋な興味だった。目の前に立っても逃げ出さないし泣き出しもしないし怯えない笑わない
つまらない子だと思ったよ正直に。
呪いの影響で貧弱もいいところ、陰陽術もろくに使えなくて一族からも異端扱い。
まるで人形のようで妖怪なんかよりずっと気味が悪かったのを覚えてる。
だから話しかけてみたんだ
「つまんなくない?」
ってただ一言それだけ。
そしたら彼女これでもかって言うほどに目を見開いて驚きの表情を浮かべながらこう言ったんだよ。
「話しかけてくれるの?」
って、人間のしかもまだ子供が言うセリフとは思えなくて柄にもなく
「かわいそうだな」とも思ったよ。
だから
「だって、楽しくなさそうなんだもん」
「だって、誰も相手にしてくれないから」
「じゃぁ毎日相手してあげようか?」
「いいの?」
「でも私祟り神みたいなものだから呪っちゃうよ」
「いいの、相手をしてくれるなら誰でもいいの」
本当に素直でいい子だったよ。
嫌な事が起こるまではね。
ある日といってもまぁ喋りかけた日からひと月くらいかな。
私に近寄る人も妖怪もいない、話しかけてくるのは決まって彼女だった。
そんな彼女の町にある流行り病が入ってきてねぇ
今思えばただの風邪だよ。ただ薬がなくてみんな日に日に弱っていって酷い奴は死んだりもしてたよ。
そんな中、誰が言ったか知らないけど
「狗神のせいだ」
「狗神を引き連れる彼女のせいだ」
「彼女は人間ではない狗神に魅入られている」
特別理由はなかったよ。
人間は何かを激しく恨んだり、悔やんだりしないと生きていけない
別にそれは私の力になるだけだからどうでもいいんだけど。
でも向いた矛先が違った。
私ではなく私が気まぐれに話しかけた彼女に向いた。
元々異端で町でも家族にでも嫌われていた
そんな彼女が唯一話している相手がましてや祟り神の一種だなんて
誰もが怪しんで当然だ。
そんな中彼女も流行り病の初期症状にかかった。
咳が続いて熱っぽくて吐き気もすごくて食べ物を受け付けなくてねぇ。
家族は当然のように相手をしないから私が変わって看病をやっていたよ。
そんな時に噂を聞いたんだ
【今夜狗神を使っている彼女を殺そう】
家族内でそんな会議が起こっている。
流石に心がないとしか思えなかったね。
だから風邪で苦しんでいる彼女を抱き抱えて家族と町の住人に向かってこういったんだよねー
「ねぇねぇ人間って本当にバカだよねー。私がこんなクソガキに使われてる?
まさか使っているのは私だよ、でも飽きたから返してあげる。しばらく私の呪いで変なこと言うかもだけどどうでもいいでしょー?あぁーそーそー。風邪の件だけどあれも私のせいなんだよねー!こんなクソガキが私を操れるとでも?見誤るなよ人間。仮にも神を相手に良くも私を侮辱したな」
って。
ちと呪いを振りまくふりをしてその流行り病食べちゃったんだけど。
すると陰陽師でもやっぱり人間だ。折れてくれるの早かったなぁ。
家族たちに彼女を渡してしばらくほとぼりが冷めるまで彼女の元を離れていたんだ。
そして風邪も落ち着いてきた頃に別れを言おうと思ったんだ。
するとね、彼女、なぜか呪いに縛られてて驚いたよ。
家族かと思ったけど流石に呪いは人間がかければすぐにわかるし本人に対してちゃんと対価が求められる。
彼女の呪いは彼女自身のものだったよ。
「どうして狗神のことを悪くいうの? 今までゴミのように扱っておいて今更家族面しないで返して 狗神をかえして 私の友人を 返して 憎い なんで どうして狗神なのなんで どうして 憎い 人間。 ひどい汚い私も人間 嫌だ 嫌だ 嫌だ 人間でいたくないどうして狗神は来てくれないの 会いたい 会いたい 嫌だ 人間でいたくない 」
まさかこんなことになるとは思っていなかったよ
呪いを解こうにもあまりにも深すぎてすぐには取り払えないし
何より呪いの対象が自分自身となると
どうするにも自分の意思だからなんともできない。
だから
「つまらなくない?」
ってあの人同じように声をかけたんだ
するとね彼女輝かんばかりの笑顔を私に向けてくれたんだ
ほっとしたよいつものようだと
でもいつもと違ったのは周りだ
私のことを見るやいなや追い出そうと必死でね。
彼女は「やめて」とお願いしていたけれど周りはそれを私の呪いだと思って聞き入れなかった
それが正しい。
人間と妖しは交わるものではないからね
でもそれが引き金だった。
彼女悪鬼と化していたよ。
気がついたら呪いは心臓にまで到達していて無理に引き剥がしてしまうのならば
彼女は死んでしまう。
だから私は彼女を連れ出してここにいるし彼女は人間を恨んでいる。
一番優しく繊細な人間だからこそ一番汚らしくて図太い人間が嫌いなんだ
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「とまぁこんな感じなにか質問とかある?」
とあっけらかんに笑って聞かせてくれたが
俺は唖然としかできなかった。想像ができないという恐怖。
確かに最初の友人とは特別なものであるし引き離されたら悲しいと思うし
そうなった環境を恨んだりも当然するだろう。
でも、ここまでか?ここまで執着するのか?
確かに環境が環境だったからこそ特別だっただろうし家族よりも
大好きだったんだろう
二人が他愛もない会話で盛り上がり花を咲かせていたこともあるだろう。
気が合わずに喧嘩もしただろう。当然特別な友だったんだろう。
でも理解できない。わからない。
そういう気持ちが俺の心を占めていた。
「まぁ、そう責めないであげてくれ。理解してほしいわけじゃない。お前が聞きたいといったんだ」
確かにそうだ、聞きたいといって聞いたのは俺で
理解してほしいわけじゃないのはわかる
でもどうしようもない居心地の悪さを感じていた。
「元々、脆い子だったんだ。彼岸と近いんだよ呪いをもらっているから。だから魅入られやすい。そして陰陽師の家計だからそういう意味でも、妖怪と近い子出会ったんだ。だから、きっと私と同じで誰も近寄ってくれなかったんだと思う。同じでも分かり合えないんだ。言葉を交わしたその日から特別なんだ」
と狗神とそういえばその子の赤い髪に触れうように撫でれば
そう言って悲しそうに呟いた
「でも、まだこの子は人でいられるんだ。悪鬼になりかけているだけで。」
「悪鬼じゃないのか?」
「んー、私が呪いを呪ったからまだ大丈夫だよ。まだ人だから最初みたいに化物扱いしないであげてくれ」
「えっ呪いを呪う?」
「えっそっち?私結構いいこといったと思うんだけどね?」
と軽く突っ込まれるようにして笑われれば確かにと思うけどそれ以上に呪いという概念に物体がないのに
どうやって呪うのだろう?と純粋に疑問に思ってしまったのだから仕方がない
「まぁ、簡単に言えば強い呪いに呪いをぶつけることで相殺してるんだ。一気に潰せなくてもゆっくり、ゆっくりと時間をかけて人間に戻ってくれるんだ。まぁ体の時間は止まってしまうんだけどね~」
なるほどと顎に手をあてて考えるようにして俯いてしまう。
そんなことを話していると俺の友人が「うぅ…」と低いうめき声をあげながらゆっくりと起き上がってきた。
友人は俺を見るなりあからさまにほっとしたような安心したような表情をしたけど
狗神をみた瞬間顔色が変わった。
「ひぇ…?!い、狗神!」
「あ、それそれ、そういう反応が正しいんだよ?神無月」
「知らねぇよ」
と怯える友人のそばによってやれば軽く背中をさすってやる。
さっきの今、恐怖を覚えているし、何より死にかけたせいで頭も混乱しているなか妖怪と会えばまぁ、怯えるのも仕方がない。
「んー。ちょっとそこのボーズ」
「な、な…何…」
「自己紹介しよっか。」
またそれかよ。と俺はため息をつくしかなかった。
どんな状況でも自分の領域に引きずり込むような雰囲気が狗神にあって毒気を抜かれる
俺の友人もそうなのか、気の抜けた声で
「…皐月…」
「いい名前だね、狗神の牡丹だよ~」
とまた軽いノリで話始める。
「さて、起きたんだから早めに帰ったほうがいいよ~起きちゃうから、優夜さん」
といえば赤髪を指させばそういって人差し指を口にあててそういえば
皐月がまた青ざめる。そりゃぁ殺されかけた相手が隣でまだ寝ているのは恐怖だろう。
「まぁ、時間帯が悪かったな。昼間は割と普通だよ。」
「夜だと変わるのか?」
「まぁ、色々と違うんだよ」
とそれ以上は何も言わなくなってしまったし、これ以上ココにいてもいいことはないので
俺は無言で立ち上がる。すると皐月も立ち上がれば出口へと歩いていく。
そして扉に手を掛けようとした瞬間狗神が声をかけてきた
「あぁ、そうだ。帰り道振り返らないほうがいいよ。まだ遅いから」
と、言い聞かせるように言われた。
「なんで」と聞きたかったがこれ以上遅くなると見つかってしまったときに怒られるし何より、怖くて聞けなかった。
「あぁ、そういえば、あんまり妖怪に名前を聞かれても答えないほうがいいよ。縛られるからお前も私も」
「そういえばさっきも言っていたな」
と早めに帰りたいのに気になることを帰り際に話してくるので気になって仕方がない
皐月も俺と同じだったのか興味があるように狗神の方を見ている
「まぁ、この世で一番短い呪いが名前なんだよ。簡単に縛れてしまうから。
まぁ、呪い専門の私が言うんだ。ほかの妖怪に目を付けられないように気をつけな。一応この山私の呪いの糸が引っかかっているから雑魚はいないと思うけど、何かあったら私の名前を呼べばいい暇だったら駆けつけてあげるよ~」
と気軽にそう答える。俺はまだ聞きたいことがあったが狗神は俺の口を人差し指で抑えて
「じゃぁ、またな」
といった。その言葉は有無を言わさず「早く帰ったほうがいい」と安易に伝えるものだった
俺は、「…わかった」と肯けばそのまま皐月と一緒に山を降りた。
そして旅に出る目的と理由それが必要だと思います。