流星の輝きは、一瞬で。
文才のない作者ですが、許せる方のみ、お読みください。
ーーー幼い頃から、星が好きだった。
星を見るのは、姉の凉花の趣味であり、彼女はまだ幼い弟に、星座の逸話のあれこれを語って聞かせた。
まだ九九もいえない俺には、姉の話すそれらの言葉の意味は理解できなかったが、家の屋根に登ってふたりで寝転がりながら星を眺めるその時間が、たまらなく好きだった。
そして時は過ぎ、姉は中学生に、なった
姉には、どうしても行きたい高校があり、一年生の頃から過酷な高校受験の勉強を始めた。
そこで星座観察は、ぷつりと途切れる。
俺自身も小学校五年生となり、“いつまでも姉と仲良し”というのが恥ずかしくなり始めた頃。
いつしか、誘われても断るようになった。姉と仲良く話した記憶も、そこからはあまり無い
ーーー俺はそのまま、高校生になった。
バルコニーには、座りながら星を見れるようにと、椅子とテーブルが置かれている。
そのテーブルには、珈琲の入ったマグカップ。
そして、姉がまだ生きていた頃に友人と撮った笑顔の写真。
一年前、凉花は病気で亡くなった。
最後まで隠し通し、元気なふりして学校に通う姉の不調に、俺は気づけなかった。
高校に入学して一年後、学校での検診に引っ掛かった姉は病院での精密検査を受けた。判明した病気は、既に根治不可能な状態であったと、後になって母から聞いた。
「悠、ごめんね。 お姉ちゃんは、あなたに心配かけたくないから黙っててって…… お姉ちゃんはあなたのことを思っていたのよ。 ずっと」
母の慰めのような言葉が、俺の心を深く抉った。
姉の優しさは、誰よりも自分が知っているつもりだった。
ーーーー悔しかった。惨めだった。自分に腹が立った。
どうして。どうしてもっと姉を大切にしなかったんだ。
姉との時間を大切にしなかったんだ。わかっていればなんでもした。
なんでもしてあげたかった。
恩返しも、思い出作りも、全部、全部、全部。
姉は、学校の友人達にも、病気のことを打ち明けていなかった。
それでも姉の友人たちーー特に幼なじみで親友の神谷さんは、いまでも頻繁に花を持って仏壇に手を合わせに来る。
彼女は、友人の中で唯一、凉花の病気のことを彼女自身から聞いていた。
突然すぎる姉の死に戸惑い呆然と涙を流す俺に、彼女は泣きながら、
「悠哉くん。凉花の、君のお姉ちゃんの大好きだった高校を、受験してみない?
凉花の大好きだった、天文部に入部してほしいの。もちろん無理に、とは言わないけれどね」
言いながら、彼女は一通の手紙を俺に差し出した。
綺麗に整った文字で書かれたその手紙を、涙で視界が歪む中、ゆっくり、ゆっくり、と読み進めた。
『 悠くんへ
私はこの手紙を、私が死んだときに悠くんに渡して、と、紗良に託しました。
悠くんは、お姉ちゃんのことを、怒っていますか?
病気のこと、ずっと言えなくてごめんなさい。
優しい悠くんに心配をかけたくなくて、打ち明けられないまま私は、悠くんの側を離れてしまいました。
小さい頃の悠くんは泣き虫の癖に正義感が強くて、友達をいじめる同級生と喧嘩しては負けて、よく泣いていました。
お姉ちゃんは、泣き虫な悠くんがずっと心配で、悠くんが泣かないように、辛くないように、それだけを考えていました。
でも、悠くんは、お姉ちゃんが思っているよりずっと早く成長して、強くなっていたんですね。
中二の夏、いじめっ子を殴って出席停止を食らった悠くん。暴力は怖くて悪いことだけど、お姉ちゃんは素直に「かっこいい」と思いました。
誰かのために強くあろうとする悠くんは素敵です。
昔から運動も得意だった悠くんは、いつの間にか筋肉もついて、きっと今では、お姉ちゃんはなにひとつあなたに敵わないでしょう。
でも、私は悠くんのお姉ちゃんです。
それだけは、何があっても変わりません。
例え、私がいなくなったとしても変わることはありません。
ずっと、悠くんのお姉ちゃんです。
だから、何も心配しなくて良いんです。
身長を、抜かれても。
運動神経で負けても。
お姉ちゃんよりかしこくても。
悠くんの方が、格好よくても。
進み続ける悠くんと時間の止まった私の距離が、離れて言っても。
それで、良い。
お姉ちゃんのことは気にしないで、どんどん、どんどんどんどん、進んでいってください。
私は、悠くんが大好きです。
そしてお姉ちゃんは、星が大好きです。悠くんと一緒に見ていたからだと思います。ひとりじゃきっと好きにはならなかった。
悠くんは、星、好きですか?
P.S
私の天体望遠鏡は悠くんにあげます。
もし、悠哉がまだ星が好きなら、お姉ちゃんの代わりに使ってくれると嬉しいです。
悠くんのお姉ちゃんより』
姉ちゃんの高校受験のとき、使っていたノートは、全て残されており、その後の受験勉強でどの参考書よりも役に立った。
後から書き足されたらしきメモは、俺がもし同じ高校を受験する、となったときのためらしい。
何も言っていないのに。どこまでもお人好しだ。
ーーそして、入学式当日には天文部への入部届けを提出した。
初の授業を終え、姉が大好きだと言っていた部室に向かう。
部室の扉の前には机が置かれ、その上には、
『今は亡き私たちの友。
ーー天文部 前部長 茅野凉花。
彼女は前向きで、少し優しすぎて。
星のように、輝く存在でした。
太陽のように、暖かい光を放つわけではない。
でも、夜空に輝く星のように眩い、そんな、私たちの、最高の仲間。
流星のように儚い彼女の人生は、ずっとずっと、輝いていました。
それでも。彼女は、天文部の永遠の仲間です。』
その張り紙と共に、集合写真が飾られていた。
ーーーー俺は昔から、星が大好きだった。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます