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生まれて直ぐに見せ物小屋に売り飛ばされた。
それは人としては異端の赤い瞳のせいであった。
黒い髪、血の通った健康的な色の肌、
瞳以外はごくありふれた色をしていた。
だが、瞳の色が他人と違うというそれだけの理由で、この16年間、私は他人から虐げられた。
そう、他人から見たら私は目の前の化け物と同じなのだ、突如見せ物小屋に現れ、人を食らい出したこの化け物と。
目の前で先ほどまで人間だったものを咀嚼している化け物を静かに見つめながら、少女はそんなことを考えていた。
化け物の後ろ姿を見つめていると、視線に気が付いたのか化け物が咀嚼をやめてチラリと振り返った。
「逃げないのか?次はおまえの番だぞ?」
突然の化け物からの問いに、少女は「あぁ、普通に人の言葉を喋れるんだ」と暢気なことを考えつつ答えた。
「だって逃げたってあなたの方が足が早いのでしょう?
今まで逃げ出した人を追いかけて仕留めるのを見ていたもの。そんな無駄なことはしないわ。」
確かに逃げ出した人間から一人残らず化け物は仕留めていった。
そして、この小屋の人間は彼女以外誰も息をしていない。
だが、それにしては、彼女の反応はあまりに冷めていないだろうか。
血の海となった10畳ほどの小屋の真ん中にいる少女の反応は思えないと化け物は一瞬目を丸くし、
ペタペタと血を床にべたつかせながら少女に近づいて聞いた。
「不思議な小娘だ。私が恐ろしくはないか?
人の血肉を食らう私が。引きちぎられるのが恐ろしくはないか?」
それでも尚、少女は平然として応える。
「生きたままの生き物を貪るなんてこの小屋ではよくあることよ」
少しずつ化け物が近づき、その血にまみれた手で顎を掴み目を真っ直ぐ見つめ喋るも、少女は表情を変えず言葉を続ける。
「死は恐ろしくはないわ。ここで一生笑い者にされて生きることに比べたらずっと。
糧として欲される方がよほど意義のあることだもの。」
その想像もしていなかった言葉を聞いた化け物は思わず口で弧を描いた。
そして愉快そうに少女に言った。
「小娘、おまえが人として気が障れているのか無知なのかは知らぬが面白い。
人の世が詰まらぬか。生きる意義が欲しいか。
ならば妖の世に来るがいい。」
人の世に居場所など最初からなかった彼女には、
人の世に残る理由もその言葉を断る理由もなかった。