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第8話 シグの人斬り 

「シグ、大丈夫?」

「うん、大丈夫。ちょっと体調がよくなくて……」

「そっか……治るまで僕が代わりに主やっているから、ゆっくりしていてね」

「うん、ありがとう」

 シグは、やはり、月の満ち欠けを気にしているようだった。

 そして、人形遣いは月の満ち欠けに影響されることも知っていた。

 僕たちも、人形遣いである限り、そうなる、ということを。

「じゃあ、そろそろ、僕、人来ないか見に行くね」

「うん、よろしくね」

 静かに扉を閉め、一階に降り、椅子に座ろうとした時だった。

「玲さん! 玲さん!」

 猫の姿のレノが、僕に向かって走ってきた。

「どうしたの? レノ」

「それが、最近、棚の上にある人形が少しずつなくなっているんですよ……さっき見たんですが、二、三個なくなっていて……」

「そうなんだ……」

 と、言われても。

 棚の上には、普段からたくさんの人形が置いてあるので、二つ三つなくなったところで、そんなことには気がつかない。

 しかし、僕たちより長い時間をこの屋敷で過ごしているからか、レノにはその差に気が付くのかもしれない。

「誰かが持っていったのでしょうか」

「どうなのかな。そういえば、カエデが人形にする魔法を練習しているから、僕たちの部屋に持っていったのかもしれないよ」

「そうですか、ならいいんです」

「僕、ちょっとシグの様子見てくるね。お客さんも来ないみたいだし。もし来たら、レノ

 僕のところに知らせに来てくれる?」

「もちろんです」

 二階に続く階段をゆっくりとのぼり、シグの部屋へ向かうと……

 扉が開いている!?

 さっき、僕が出たときは、扉をきちんと閉めたはずなのに……!

 誰かが中に入ったのか?

 開いた扉の隙間から、中をそっと覗くと、真剣な表情のカエデが、シグのベッドの横に立っていた。

 何をしているのか、を見ると、寝ているシグの胸元のすぐ上に手をかざしている。

 かざした手の下には魔法陣が出ている。

 その魔法陣はゆっくりとシグの体から、なにかを吸い取った。

 そして、カエデがもう片方の手に持っていたのだろう、人形に、その手をかざすと……

 ……人形が動き出した!

 しかし、人形が動き出したことも知らず、シグはすやすやと眠っている。

「シグ……悪いけど、もう少しだけ寝ていてくださいね」

 カエデは再び、シグの胸元に手をかざし、魔法陣を出した。

「とりあえず、これで成功のはず。これで……を……すれば……」

 カエデが小声で喋っているせいで、人形で何をしたいのか聞こえない!

 何をやりたいんだろうか。聞き取りたいが、これ以上近づくと、カエデに気づかれてしまう。

 ……もしかすると、カエデは、シグから体力を奪い、それを人形に移すことで、動く人形を作っているのか?

 だとしたら、今すぐにレノに伝えなければ!

 シグのここ最近の体調不良と、屋敷にある人形が減っているのはカエデのせいなのだ!

 それにしても、レノはよく異変に気がついたな。

 シグの体調不良も人形の数が減っているのも、特に後者は、僕には違いがよく分からなかった。

 僕は、そろそろと部屋から離れて、一階で留守番をしているであろう、レノの元へ行った。

 

「カエデさんが、動く人形を作っている?」

「うん、あまり大きい声出さないでね。さっき、二階に行った時に僕が見たから間違いないよ」

「一体何に使うのでしょうか……」

「カエデは、シグの体から体力を奪い、それを人形に流していた。人の体力や魔力を奪う魔術を使うのは、呪術師だよ。それにカエデは、シグが目覚めないように、か、もう一つの魔術も使っていた。カエデはシグが目覚めないうちに何かをするつもりだよ……!」

「さっすが玲さん……その通りだよ」

 後ろから声がして振り向くと、そこにはカエデがいた。

 いつもと違う邪悪な雰囲気を放っている。

「どうしたの……? カエデ、いつもとなんか違うよ?」

「僕は、呪術師に生まれたんだよ。玲さん」

 僕たちがいる、この場所に、一気に冷気が入ったような気がした

「カエデは、この人形と、シグの体力を使って、何をするつもりなの?」

「それは教えられませんね……呪術師の秘密、というものなんです。そこらへんは分かってくれないと困りますよ……? まあ、魔術師の玲さんならば、呪術師を倒さないといけないはずですが。しかし、……玲さんは、この、作られた人形に秘められた魔力に対抗することはできるのでしょうか」

「シグに……何するつもり?」

 シグは、屋敷に来た人を人形にできるぐらい、かなりの魔力を持っている。

 人形を作るためには、それなりに魔力も必要だ。

 もし、呪術師であるカエデが、そのシグの魔力を手に入れたら、きっと、カエデは僕がかなわないほどの、魔術を使えるようになるだろう。

 だから、もし、これ以上、カエデが、魔力を手に入れて、暴走がこれ以上発展してしまったら、僕にもレノにも止めることはできなくなるだろう。

 そうなったら、本格的に大変なことになるだろう。

「まあ、僕は、これをやめるつもりはないよ。」

 カエデはそう言うと、二階にある、僕たちの部屋へ、戻っていった。

「カエデは、何をするつもりなんだろう……」

「シグと玲さんのことを、殺そうとしているのでしょうか……」

「何をしようとしているのかは、よくわからないけど、僕たち、結構危険な状態にあるよね」

 僕がそう言うと、レノは大きく頷いた。

「何が起こるかはわかりませんが、何があってもシグを守らなければなりません。私には、猫になって、カエデさんの部屋に忍び込むことしかできないので」

「そうだね……まずは何をしようとしているのか、だよね」

 彼が得意とする魔術。

『なにか』から『なにか』を生み出す魔術。他人に迷惑さえかけなければ、とても便利な魔術だ。

 しかし、そんな便利な魔術を、悪用する魔術師がいる。

 それが、彼の本性である、呪術師である。

 カエデはそれを使って、シグの体力から、魔力を生み出した。そして、生み出した魔力で、人形を動かす魔力にした。

 と、その時、カエデが僕たちの部屋から戻ってきた。

 彼のその手には、たくさんの人形が握られていた。

 彼が目をつぶると、人形が動き出した。

「『我が人形よ……今、動き出せ』」

 カエデがそう言うと、カエデが持っているすべての人形が動き出した。

 人形は、僕たちが呆然としているのをスルーして、シグのいる部屋に向かって飛び始めた。

 ……シグが危ない!

 僕は、すぐに走り出した。

 そうだ、時間を繰り返そう。

 時間を繰り返せば、動く人形たちに、何か起こるかも知れない。

『ザ・ワールド……我、望むすべt』

「うわぁぁぁっ!」

「……え?」

 僕が呪文を唱えている途中、刃がキランと光ったような気がした。

「う……ああ……」

 倒れてもがくカエデ。

 その横に、血のついた鋏を片手に、ただ立ち尽くすシグ。

 そう、シグはカエデを鋏で刺したのだ。

 それは、分かっている。

 しかし、受け入れるのに、数十秒。

「シ、シグ……!」

「安心して。カエデは人形よ。心だけ生まれ変わって、戻ってくると思うわ」

 シグはそう言うと、鋏についた血を拭き取って、言った。

「服に返り血が付いちゃったか……洗わないと……」


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