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第7話 月の満ち欠け

「まあ、仕方ないことよ。前に言ったかもしれないけれど、さっきの玲みたいに、私も、人形遣いになったときに、玲みたいに狂って、妹を殺しちゃったの。人形遣いになると、精神的にも不安定になるみたいだから、仕方ないのよ」

 お兄ちゃんが帰ったあと、僕は、屋敷の自分の部屋で、休んでいた。

 そこにシグがやってきて、今に至る。

 ちなみにカエデは、屋敷に人が来ないかを見ているらしい。

「僕もシグもこうなった、ということは、カエデもいつかこうなるの?」

「そういうことになるね」

「僕が人形を作るのに失敗しなかったらカエデは人形遣いにならなかったのにな」

 シグから言われた現実は、とても厳しいものだった。

 人形遣いは、精神的に不安定になることが、よくあり、シグが外に出たときは、月を見て心を落ち着かせるためだという。

 そして、僕の失敗によって、人形遣いとなったカエデは、いつか、シグのように、大切な人を殺したりすることになることは、ほぼ確実だ、ということ。

 しかし、狂った人間を止めるのは、とても危険だという。

 先ほどの僕は、まだ安定していたほうらしいが、もしかすると、止めに入った人も殺されるかもしれないという。

 元々、心が残っただけの人形である、人形遣いが死んだら、今度は何になるのだろうか。

 どこかの人形遣いが、危ない思いをしたことがあるのだろうか。

 だとしたら、シグと、僕と、カエデ以外にも、人形遣いがいるということだが……

「僕は、狂った時に、カエデを傷つけずに済んで、よかった……」

「まあ、さっきの玲は、まだマシだったからね。狂う人形遣いを減らすためにも、人間を人形にするときは、常に確実に、失敗せずに人形にすることが大切ってこと」

「なるほど」

 もし、また僕が、人形にすることに失敗して、心が残った人形、人形遣いになってしまったら……

 そして、その人形遣いが、精神が不安定になり、大切な人を殺してしまい、悲しむことになったら……

 僕は、魔術を使うのがとても怖くなった。

「とりあえず、いろいろあると思うし、今日はゆっくり休んだほうがいいと思う」

「うん、そうするよ」

「じゃ、ごゆっくり」

 シグは僕の部屋からそっと出て行った。

 部屋に一人、取り残された僕は、とりあえずベッドに横たわった。

 

 どれくらいの時間が経ったのだろう

 僕はベッドで寝てしまったようだ。

 そうだ、確か、僕はお兄ちゃんを殺しそうになったのだった。

 そして、シグに部屋で休んでいろ、と言われ、そのまま寝てしまった、ということか。

 とりあえず、シグ達がいるところに戻ろう。

 ベッドから起き上がり、シグ達がいる、一階に向かう。

「あ、玲さん、大丈夫ですか?」

 一階に降りてきた僕を迎えてくれたのはカエデだった。

「ああ、うん、大丈夫だよ」

 部屋には、人間の姿のレノがいた。

「あ、玲さん。大丈夫だったんですね」

「うん、大丈夫だよ」

「話は聞きました。シグも昔、そのようなことがありました」

 レノは俯きながら、そう言った。

「人形遣いになると、精神が不安定になるんだよね」

 その事は、寝る前にも、シグから聞いていた。

「やっぱり、知っていたのですね。実はシグは、人形遣いになってから、月の満ち欠けをとても気にしています」

「月の満ち欠け?」

「私が屋敷に来たとき、シグに、どうしてたまに外に出るのか。と聞いたことがあるんです。その時、彼女はこう言いました。『月が満ちる時、人形遣いが暴れだす』と」

 それは、全く知らなかった。やっぱり、レノは、シグといる時間が僕やカエデよりも長いからか、僕達よりもいろいろな事を知っているようだ。

 しかし、ここで僕は気になることがあった。

「でも、レノって人間なんでしょ? どうしてレノは、屋敷に来た時に、シグに人形にされなかったの?」

「それは、玲さんと同じですよ。 私は猫になれる、と披露すると、すぐに興味を持ちました」

「シグは、魔術師を歓迎しているってことなのかな。僕も鋏を薔薇に変えたら、殺されなかったし」

「そうかもしれないですね。魔術師だったら、人形遣いではなくても、人形作りのお手伝いができますから。私は、まだ人形を作ったことはないんですけど、屋敷が開いている間は、猫になっています」

 意外だった。レノは、人形を作ったことがないのか。

「私、猫の姿にはなれますけど、それ以外の魔術はできないんです」

「じゃあ、レノは魔術師じゃないんだ」

「そうなんです」

 魔術師でなくても、何か一つ、シグが気に入るような芸をすると、殺されなくて済むのか。結構、単純だな。

「でも、これまで何人も芸をした人はいました。でも、シグはすぐに人を殺してしまったのです」

「それって月の満ち欠けとかが関係しているのかな。『月が満ちる時、人形遣いが暴れだす』ってこと。僕が屋敷に来た夜は、満月だったよね」

「確かに、満月でしたね」

「カエデが僕に人形遣いにされた日は、シグがいなかった……つまり、満月の日だ」

「あれ、人形遣いになったカエデさんが屋敷に来たその日が、満月だったような気がします。満月なのに、シグは外に居ませんでしたね。逆にその前日、カエデさんが玲さんに人形遣いにされた日に、シグは外に居ましたね」

 確かに、僕と同じ満月の日に来た、と考えるのなら、人形遣いになったカエデが屋敷に戻ってきた日が満月、と考えるのがいいのかもしれない。

 そういえば、僕が屋敷に来た日。僕が屋敷に入って、人形を眺めていたとき、シグは後ろから僕に話しかけた。

 もしかしたら、あの日も、外にいたのかもしれない。

「まあ、でも、僕はその人形遣いのカエデが屋敷に来た日、シグにカエデが来ることを話していたからシグが屋敷にいるのはおかしくないと思う。それに、満月だから外に出なければ、というわけでもないと思う。何日か、連続で外に居た時もあるから」

「確かにそうですよね」

 シグの精神が不安定な状態が続いた、と思われる日は、満月の日以外にもある。

 それはまだ規則性がないが、そのうち分かるのかも知れない。

「もしかすると、人形遣いが屋敷に戻ってくるのは、満月の夜、ということなのかな。それで、精神が不安定な時のシグに面白いことを見せると、興味を持つとかかなぁ」

「なるほど、私、そんなこと、全然気にしていませんでした……」

「僕も、ちょっと人形遣いのこととか考えていなかったんだけど、レノのおかげでちょっと分かってきたよ。ありがとう」

「あ、そうだ」

「ん? どうしたの?」

「実はシグが玲さんに伝えておいてくれ、って言われたことがあって」

 シグが僕に伝えておきたい事?お兄ちゃんのことだろうか。それともアメジストドールのことなのか?

「シグが、最近、精神が不安定なので、明日から、少しの間だけ、玲さんに屋敷のあるじを任せたいそうです」

 僕が、屋敷の主!?

「そんなことって、簡単にできることなの?」

「でも、すぐ治るから、と言っていましたし、主になると言っても、仕事は今までと同じですし、多分、二、三日で元に戻ると思いますよ」

「うん、じゃあ少しの間だけ、僕がここの主になるよ。人形遣いが元気でいなきゃ、手伝う魔術師も、つまらないからね! でも、この屋敷にいる時間って、僕より、レノの方が長いから、レノが主になるべきじゃないのかな」

「私が主になっても、人形遣いではないので、玲さんのほうが適任なんですよ」

 レノはそう言って、にこりと笑った。

 

 Continue to next loop……


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