第5話 魔術師としての使命
カエデの魔術が上達し始めたのは、数日後のことだった。
「お、すごいじゃん」
「ありがとうございます!」
カエデが覚えたのは、水から魔力を生み出す魔法。
昔、僕がカエデに教えていたらしい。
やっぱり僕は覚えていないけれど。
ただ、こうやって魔術を練習していくうちに気がついた。
カエデは『なにか』から『なにか』を生み出すことができる。
今はまだ、『水』から『魔力』を生み出す以外、何もできないけれど、練習していくうちに、もっといろいろなものを生み出せると思う。
一方、僕も新しい魔術を編み出した。
その名も『スティルマジック』。
ちなみにこの名前は、ネーミングセンスのない僕が命名した。
その名のとおり、『だれか』から『なにか』を盗む魔術。
これで何を盗むのか、と聞かれても、なにも答えることはできない。
なぜなら、まだ何も盗りたいものがないし、あまり使ったことがないからだ。
使ったとき、といえば、練習だから、と言って、カエデの魔術書を盗ったりしただけだ。
しかし、いつか役に立つだろう。
例えば、シグの欲しいものを手に入れたり。
しかし、魔術師は魔術を乱用してはいけない。
それは最悪の行為であり、魔術師として失格だ。
そして、僕もそんなことはしたことはない。
魔術師には使命がある。
それは、魔術を使い、悪いことをいいことにすること。
悪いことをする人にはそれなりの罰を与え、いいことをする人を護る。
それが、魔術師。
僕は、魔術師として、悪いことをする人に制裁を加えなければならない。
そう考えると今の状況はチャンスのように思える。
シグの元で人形を作る手伝いをしているこの現状。
屋敷には迷った人が来ている。
僕にはカエデという手下もいる。
……これは、魔術師としての使命を果たすチャンスなのではないか。
悪い者を屋敷に呼び寄せ、人形にする。
人形にするということは、人間を殺して、心を取り除くこと。
つまり、悪い人間をいい人間にしてしまえばいいのだ。
さて、それをするためには屋敷に悪い人を誘き寄せ、そして人形にする。
それが、一番いい手かもしれない。
しかし、今の僕に、それをする能力はない。
多分、これをやるのは、少し先のことかも知れない。
「ねえ、玲」
シグに呼ばれて振り向くと、そこには、一人の少女がいた。
「玲、この子ね」
「その子が?」
「あなたが来たとき、私が抱いていた黒猫よ。屋敷が開いていると黒猫の姿に化けているけど、実際はレノっていう人間なの。この屋敷の唯一の人間ね。」
唯一の人間……レノは僕みたいな、シグの失敗作で屋敷に引き寄せられたという訳ではないのか。
「そうなんだ。じゃああの時の黒猫が、この女の子ってことなんだ!」
「そう」
ん? 人形になりきれなかった人を屋敷に引き寄せる?
それって、利用できないかな。
外で悪い人を見つけたら、完全な人形に、とまではいかない、軽く人形にして、屋敷に呼び寄せるような……
しかし、これには欠点がある。
呼び寄せることはできる。しかし、人形になりかけた人間が、暴走したりしないか、それと、魔法をかけた人形が、いつ屋敷に来るかわからない、ということだ。
「……いっ! 玲!」
「……!」
ハッとして、顔を上げると、そこにはシグがいた。
レノは既に黒猫に戻っていた。
そうだ、僕はシグの話を聞いていたんだ!
僕がここに来た時にいた黒猫はレノという女の子で、この屋敷の中で唯一の人間だ、という話だった。
「……聞いてなかったの?」
「え、いや、そんなことないよ! ちょっと考え事していただけ!」
「それって聞いていないってことでしょ」
「うっ……ごめんなさいー」
怒っているシグに謝り続ける僕を、黒猫のレノが眺めていたのが、僕の視界の端に入った。
Continue to next loop……