第4話 新たな人形遣い
次の日、昨日失敗した男の子は、屋敷に来た。
僕はその子のことをシグに話していたので、シグはその子のことを人形にしようとはしなかった。
そして、僕のことを怒ったりすることもなかった。
おそらく、自分も同じミスをしたからだろう。
屋敷に来て、新たな人形遣いとなった男の子は「カエデ」という男の子で、僕の小学校のころの大親友だったらしい。
最も、僕は記憶が抜かれていて、なにも覚えていなかったけれど。
シグは、カエデに僕たちがやっていることを説明して、すぐに外へ出ていってしまった。
人間の観察をする、とか言っていたな。
「それで、僕は一体どうすれば……」
カエデは、魔術師の卵、ということで、僕の下で働くことになった。
「玲さん、よろしくお願いします」
「あ、うん。よろしくね。あ、あと、玲でいいよ。あと、敬語使わなくてもいいよ」
「分かりました、玲さん」
いや、全然分かってないだろう。
まあ、そんな事を言っても仕方ない。
僕が失敗しなければこうならなかったのだから。
それにしても、シグが人形遣いになったのは、誰かの失敗のせい、ということは、その誰かのせいで、僕たち人形遣いは存在している、ということだ。
まあ、こんな魔法を使っている世界だ、という時点ですごく不思議な世の中なのだけれど。
科学や技術でなんとかしていた時代の人々が、小説や絵本で読んだようなことらしい。
僕たちにとっては、なんだか普通なことのように思えてしまうけれど、昔の人からしたらすごく驚くことだと思う。
さて、それよりだ。
僕はカエデに、いろいろ教えなければならなかった。
「んーっと、まずは人形を作れるようにならないとね。人形を作る呪文を教えて、そのあとに人形にするのを失敗したときの対処法と魔術、それから傷ついた者をもとに治す魔術を教えるね」
「はい……なんか難しそうですね」
「そんなことないよ。まあ、ちょっとずつやっていこう」
そう言いながら、棚に置いた魔術書を取り出す。
カエデはおそらく、この僕専用の魔術書に書かれた魔術のうち、半数以上は知らないだろう。
この魔術書は、比較的新しいほうで、まだ、僕もできない魔術がたくさんある。
「じゃあとりあえず、練習してみよっか」
「はい、よろしくお願いします」
カエデは相変わらず敬語は直らないけれど、いい魔術師になれるかもしれない。
なによりカエデは努力家で、なかなか諦めない。
もう一時間ほど続けている。
カエデは、人形にする魔術、『メイキング・ア・ドール』ができず、一番簡単な『ライトニング・ア・ブレイク』から練習を始めたものの、やっぱり成功しそうになかった。
性格もこれだし、多分この練習をやり続けるのだろう。
その時、屋敷の扉が開き、シグが帰ってきた。
「玲、ちょっと来て」
「あ、うん、カエデ、待っててね」
「分かりました」
練習をし続けるカエデを横目に、シグに続いて屋敷の階段を上がっていく。
「ここ、あなたの部屋ね。やっと片付けが終わったわ」
「すごい! ありがとう!」
「カエデと一緒に使って。毛布はそこにあるから」
「分かった」
部屋にはベッドと机が二つずつ、そして、三段の棚が一つ。
いかにもシンプルな作りだ。
どこに何を置こうか。
とりあえず棚には魔術書を置いておこう。
三段あれば、僕の魔術書が一冊、カエデの魔術書が一冊、あとはなにか置物でもおいておこう。
あ、だいぶ隙間があるな。
困ったな。
残念ながら、僕は魔術書以外、ほとんど何も持ってきていなかった。
カエデと僕の人形でも置いておくか。
いや、それでも隙間は埋まらないな。
どうしようか……
そんなことを考えていると、カエデが部屋に入ってきた。
「玲さん、ここが僕たちの部屋なんですね! すごくいいですね!」
「うん、それでね、ここの棚に置きたい物とか、あるかな?」
「そうですねーとりあえず薄いけれど魔術書と、あと、お気に入りの本、一冊置いてもいいですか?」
「もちろん」
あとでそっと家に帰って、あったらCDとか、音楽プレーヤーとか、そういう類いの物を持ってこよう。
ついでにお菓子なんかも持ってこようか。
そういえば、ここに来てから、ずっと家には帰っていないな。
母さんや父さんや兄さんは、僕のことを覚えているだろうか。
シグに聞いたが、シグには妹がいたという。
しかし、シグは、人形遣いになった影響で、精神の状態が不安定になり、狂ってしまった時に、妹を衝動で殺してしまったらしい。
仕方ないかもしれない、心が残ったまま人形になったのだから。
シグの妹は人形にしたのか、それは聞いていない。
ただ、殺してしまった、ということは間違いないらしい。
家族のことを思い出すと、寂しくなった。
いけない、カエデに悲しい顔を見せてはいけない。
きっと、カエデも同じことを考えているのだから。
Continue to next loop……