第1話 不気味な屋敷
クラスメイトが言っていた不気味な屋敷は、深い森の奥にあった。
見るからに怪しげな雰囲気を漂わせていた。
満月の月明かりが屋敷にあたっていて、不気味さはさらに増している。
「面白そうじゃん……!」
興奮する心のままに、重厚な感じの扉を開く。
しかし、重厚な感じとは裏腹に扉は簡単に開いた。
中に入ると棚の上にたくさんの人形が置いてあった。
「へぇーこの家の人は人形が好きなんだなぁ」
そんなことをつぶやきながら、人形をひとつひとつ、眺めてみる。
顔の表情はひとつとして同じものがなかった。
そして、どれもひとつひとつの顔の作りが精巧で素晴らしいものばかりだった。
「けっこう高いんじゃないかなぁ。これ」
「それ全部私の手作りよ」
「うわぁ!?」
振り向くとそこには一人の女の子がいた。
歳は同じか、いや、すこし年下だろうか。
黒い猫を抱いていて、フリルのついたワンピースを着ている。
綺麗な黒髪が印象的だ。
「あなたもお人形になりに来たの?」
「え! なんで!?」
「いいよ、人形にしてあげるよ?」
「ちょっと待って!なんで僕が人形になるの!?」
「え、だってここに来たから」
ここに来たら人形になる?
「え……それってもしかして……」
「そう。ここに来た人はみんな人形になるの」
「え、じゃあこれって全部……」
「そう、ぜぇんぶ人間だよ? だから君も人形になって?」
この精巧な作りは全部人間だからなのか。
この子、見た目によらず、すごいことする人だな。
「よし、いくわよ……」
その子はポケットから鋏を取り出した。
「え、ちょ、やめて!? そ、そうだ! 君に見てもらいたいものがあるんだ!」
「なに?」
「そうだねー……君、その鋏貸して?」
「ん? 別にいいよ。……変なのに使わないでよね」
「もちろん。見ててね」
鋏を降ると、真っ赤な薔薇になった。
しかし、これはマジックというより、魔術だ。
「すごぉい!」
その子は目をキラキラさせてそう言うと、鋏を棚の上に置いて、こう言った。
「夜が明けたら、屋敷の扉は閉まる。そしたら帰れない。あなたの選択肢は私の仲間になるか、人形になってここで死ぬか、どちらかよ」
「そ、それなら君の下について、なんでもするよ! 僕は魔術師だから、きっと君の役に立てると思うしさ!」
あ、嫌な予感がする。
「私の役に、立てるの?」
「もちろん! がんばるよ!」
「気に入った」
「え?」
「私、気に入った。私の名はシグ。よろしくね」
シグ、この子の名前はシグ、というのか。
「そ、そっか。シグ、僕の名前は玲。よろしく!」
「よろしく。玲」
シグはそう言ってにこりと笑った。
この子、笑うと結構可愛いな。
「そうだ、私の役にたってもらうのなら、私のやっていることを言わないと、ね」
とりあえず、命が助かってホッとした。
彼女のやっていることは一体なんなのだろうか。
「あ、ありがとう」
「私は人形を作っているの。でもこの人形たちは人間そのもの」
「じゃあシグは人殺しをしているの?」
人間を人形にしているということは、やっぱりそういうことなのだろうか。
「まあ悪いように言えば、ね。でも私は特殊な力を持っていて、ある空間の時間を繰り返すことができるの。だから殺した人間は、私の能力によって元通りに戻るの」
「なんだそれ……ってことは、噂にあった『屋敷に入った者はしばらく帰ってこないが、しばらくすると消えた時とまったく変わらない状態で戻ってきている』って……」
「あら、そんな噂が流れているのね。まぁ、私の能力のせいってところね。とりあえず、あなたは私が必要とした時にいろいろやってもらうわ。もしかしたら人形つくってもらったりすることもあるかもね」
人形をつくるってそんなに簡単にできるのだろうか。
シグが僕を人形にしようとした時、シグは鋏を取りだしていた。
と、いうことは、刃物を使った作業なのだろう。
「玲、魔術師なのよね」
「うん」
「なら、魔術で人形にすることができるんじゃない?」
「あ、そうなの?」
「私は使えないから鋏でやっているけど、玲は魔術師なんだから、魔術を活用したほうがいいんじゃない? ま、私はやり方を知らないんだけどね」
どうやら、自分で編み出すしか、方法はないようだ。
「ま、がんばって」
「はーい」
かくして僕はシグの仲間になった。
多少の不安はあるものの、なぜかワクワクは止まらなかった。
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