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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第四章 成り上がる英雄
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041 描かれたシナリオ

「ク、クレル先生……! 良かった……ご無事で……」


 バドランドに到着すると息を切らした様子のフィメルが俺達を出迎えてくれた。

 そのすぐ後ろからゼシカとリリィも駆けつける。


「ちょうど今、ギルド長さんに報告に行ってきたところよ。……それにしても良く生きて戻って来れたわね。運が良いというか、悪運が強いというか」


「本当に心配しましたよぅ! あんな化物、王立騎士団の方たちでも倒せるんでしょうか……?」


 呆れ顔のゼシカと震えて身を小さくしているリリィ。

 俺の後ろにいるアーリアとジルは軽くため息を吐いている。


「フィメル先生。『グラッドのことを報告した』というのは、ギルド長だけでしょうか」


「え? あ、はい。まだあの化物……グラッドさんが……その、『あれ』とは確定していないので、むやみに街を騒がせてはいけないと思いまして……」


 俺の予想していた通り、フィメルはまだ他の幹部にも話をしていないようだ。

 ならば何も問題はない。

 俺はフィメルの頭を軽く撫でてやる。


「あ……」


「ありがとうございます、フィメル先生。グラッドのほうはもう大丈夫です。あれは巨龍どもが見せた一種の『幻覚』で、冒険者たちもグラッドも皆無事ですよ」


「はぁ? 幻覚? あれが?」


 頬を染めているフィメルを押し退け、ゼシカが間に割って入る。

 いちいちうるさい小娘だが、後でしっかり調教でもしておくか。


「ゼシカ。クレルの言っていることは本当よ。あとこれ。重たいから一個持って」


「だってアーリア……って、なにこれ! 重い!」


 ゼシカに強制的に龍宝石を持たせたアーリア。

 同じようにジルもリリィに龍宝石を渡す。


「これは……もしかして!」


「この四つの龍宝石をギルドに納品するんだ。これで巨龍種討伐の証明と希少宝石の納品のサブクエスト達成も同時に報告できる」


 目を輝かせるリリィに説明をしてくれたジル。

 フィメルにいたっては口が開いたまま何も答えることが出来ていない。


「あ、あの……これって……まさか」


「幻覚を見せていた巨龍は俺とアーリア、ジルの三人でなんとか倒しました。ゼシカとリリィは直接戦わなかったのですが、これは課外授業の一環です。あとで『補習』という形で巨龍討伐並みの追試を行わせますから、ここは一旦、『こいつら生徒達だけであの巨龍を討伐した』ということにしておきたいのですが……。それでも構わないでしょうか、フィメル先生」


「追試!? き、聞いてないわよそんなこと! てか重い! 腕がしびれる!」


「すっごい大きな原石ですねぇ……。これも磨けば綺麗な宝石になるのでしょうか……。ほえー……」


 三者三様。

 俺の話をまともに聞いているのかいないのか。

 頭が真っ白な様子のフィメルは、それでも何とか俺の提案に回答する。


「ク、クレル先生がそう仰るのであれば……。元々この子達はクレル先生のクラスの生徒ですし、私は勝手に付いてきてしまった身ですし……。でも、どうしましょう。デウスさんに間違った報告をしてしまいました」


「これから俺はギルド長に巨龍討伐と幻覚の件を説明してきます。フィメル先生は生徒達を連れて、ギルドカウンターでクエストクリアの手続きをしてきてください。さっきも話した通り、討伐者の申請はアーリア、ジル、ゼシカ、リリィの生徒四名でお願いします」


「わ、分かりました」


 フィメルに指示を出した俺は、まだ騒いでいるゼシカ達をそのまま彼女に任せ、ギルド本部室へと向かった。





「おや、先ほどは見かけませんでしたが、あの女性教員とご一緒でしたか」


 本部室に向かう途中で紺のコートの男に声を掛けられる。

 ギルド諜報部のギザベラとかいう男だ。

 ニヤニヤした顔で俺の頭から足の先まで眺めた彼は、俺の前に立ちはだかった。


「ギルド長に誤報がありまして、修正に来たのですよ。そこを通していただけますか?」


「ほう……。先ほどから本部長のお顔の色が優れないのは、そういう意味でしたか。理由をお聞きしても口を閉ざすばかり。一体何を考えておられるのか」


 言い含んだように俺の目を見つめそう言ったギザベラ。

 何を考えているのか読めない男だが、デウスにかけた氷魔法はしっかりと継続しているようだ。

 しかし、ギザベラは道を開けようとしない。

 俺は軽くため息を吐き、奴が話を続けるのを待つ。


「ガイアスや王立騎士団どもも同じ。この街が巨龍の脅威に立たされていることを利用し、成り上がろうとする者ばかり……。かと思えば貴方のように生徒を連れて課外授業などと非常識な行動をとる教師もいる。私には理解しかねますねぇ。頭の中がどんな構造になっているのかを知りたいくらいですよ。くっくっく……」


 自分の言葉に酔いしれているのか。

 それとも俺を試しているのか判断がつかない。

 以前の俺であれば、ここですぐに魔法を使い奴の口を封じるところだが――。


「巨龍は全て生徒達が倒しました。それも含めて本部長に報告をさせてもらいます」


「………………はぁ?」


 口を開けたまま固まってしまったギザベラ。

 そのまま彼の脇をすり抜け、俺は本部長のいる部屋の扉へと向かう。


「本部長、失礼いたします。クレル・アースガルドです」


『……入れ』


「ちょ、ちょっとお待ちなさい! それは一体どういう――」


 扉を開けると案の定、ギザベラがそれを制止しようとした。

 俺は彼の問いに答えず、視線だけを部屋の奥にいるデウスに向ける。


「……ギザベラ。お前は下がっていろ。俺はこの男と話がある」


「し、しかし……!」


「下がれ」


「う……。……承知致しました」


 歯ぎしりをしたギザベラだったが、流石に本部長の命令には逆らえないのだろう。

 素直にその場を下がり、扉を閉めた。


 俺はゆっくりと部屋の中を進み、デウスが座っている席の前まで辿り着いた。

 そしてそのまま机の角に寄りかかり、だらしない格好で足を組む。


「疲れるなぁ。演技をするということは」


 首元の襟を軽く緩め、俺はニヤリと笑いそう言った。


「……先ほどお前の所の女教師が報告に来た。『炎の魔法使い』が現れたのだろう。そしてお前がここにいるということは――」


「ああ。ご察しの通り」


 魔法を使い、異空間の扉を開く。

 そして一冊の書物を取り出した。

 それを直視し、目を大きく開いたデウス。

 しばらくそのまま硬直していたが、諦めたように大きく息を吐き、机に腕を組み項垂れてしまう。


「……そうか。お前は二冊目の禁書まで手にしたのか。『氷と炎の童話』に登場する二冊の悪魔の書――。もうこの世界の誰しも、お前に敵う者はいないだろう」


 デウスからその言葉を聞き、俺はまた口元に笑みを浮かべた。

 そして再び書物を異界へと隠し、俺は本題に入る。


「グラッド・ゼリュスを覚えているだろう? お前の元部下のレグザの右腕だった奴だ。俺を追ってこの街に来て、巨龍の討伐クエストを受けていたんだ。そしてあの鉱山で大蜘蛛と出会い、奴からこの書物を手に入れた」


「大蜘蛛とは何者なのだ? 何故そいつは書物を託す?」


「それは俺も知らんさ。だが、あの鉱山で奴の気配は感じていた。そしてグラッドは心底俺を憎んでいた。……俺が生まれてからずっと、この世界を憎んでいたのと同じように」


 世界への憎しみ。

 人への憎しみ。

 そういう臭いを辿って、あの大蜘蛛は現れるのかもしれない。

 ――力を欲している欲望の塊である人間に、魔法の本を託すために。


「グラッドは巨龍どもと、あの場にいた冒険者達を皆殺しにした。俺は魔法で時間を戻し、奴からこの炎の魔法書を奪ったのさ。ついでに冒険者どもも生き返らせておいた。そのうちこの街に戻ってくるだろう」


 そこまで言い、俺は机から腰を浮かす。

 俺の話を聞きながら、デウスは大きくため息を吐くばかりだ。


「……巨龍を倒し、富と名誉を受け、成り上がるか。全てはお前のシナリオ通りなのだな」


 デウスの嘆きともとれる言葉に、俺はあえて反応せずに本部の大窓の前へと歩んだ。

 ここからは眼下の街が一望できる。

 そろそろフィメル達がギルドカウンターに報告を済ませるころだろう。

 すぐに街全体が騒ぎになる。

 そしてその情報は世界へと発信される。


「悪魔よ。もう一度だけ、聞かせてくれ。お前の目的は、なんだ?」


 世界を破滅させるわけでもなく。

 人間を皆殺しにするわけでもなく。

 俺という無能者イレギュラーが、何を考えているのか、到底理解できないデウス。


 俺は振り返り、口を開く。



「前にも話したはずだ。俺は力を隠し、成り上がる。――それだけだ、と」


















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