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俺は氷魔法で世界を手中に収める  作者: 木原ゆう
第四章 成り上がる英雄
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038 鉱山内部

 冒険者らを凍らせた俺はまず、その場にいる全員の記憶を封印した。

 ジルやアーリアには必要ないとも考えたが、一度に全員に対し氷の魔法を詠唱したほうが効率がいい。

 あと小一時間ほどすれば、あの氷は溶けるだろう。

 ずいぶんと威力を落としたから、あの冒険者達であれば死ぬことはない。


 氷像と化した冒険者らをそのままにし、俺達はアービット鉱山へと急ぐ。



「さっきの氷の像は一体何だったのかしら……」


 しきりに首を傾げるゼシカ。


「ホントですよねぇ。急に目の前に現れたし、地面まですごい凍ってましたし……むむぅ」


 ゼシカの真似をし、腕を組むリリィ。

 俺は何も答えずに彼女らの先を進む。


「……ジル」


「……ああ」


 その横を歩くジルとアーリアがなにやら察したようにお互いに頷いている。

 封じた記憶は、さきほどの冒険者らとの戦闘の記憶だけだ。

 俺の正体に気付いている2人ならば、なにが行われた後なのかは容易に想像出来るだろう。


「異常気象というわけではなさそうですし、人工的に作られた氷像にしては生々しかったですし……」


 俺の横を歩くフィメルまで首を傾げている。

 鈍感な彼女のことだから、きっと答えに行き着くことはないだろう。

 俺は氷の微笑を浮かべ、彼女に話しかける。


「きっとこれも巨龍種ドラゴンの異常繁殖の影響なのでしょう。ここから先は何が起こるか予想が出来ません。気を引き締めていかないと」


「は、はい……。そうですよね。私達がしっかりしなくては、生徒らを守りきれないですものね」


 拳に力を込め、気合を入れたフィメル。

 彼女の力は本物だが、男性に弱いという最大の難点が存在する。

 対人戦では足手まといにしかならないので、モンスターとの戦闘だけに特化させたほうが良いだろう。



 そこから数刻は問題なく予定通りに進み。

 俺達の眼前に悠然とそびえ立つアービット鉱山の入り口が出現した。

 すでに何名かの冒険者もここを通ったのだろう。

 入り口付近には緊急脱出用の『技』の紋章が刻まれていた。


「これは『転移紋章』ですね。かなり高度な技の一種ですけれど、これを鉱山の入り口に刻んでおけば、もしものときに命を落とさずに済みますから」


 屈み込み、紋章に触れながらフィメルが生徒らに説明する。

 世界中から集められた冒険者ならば、これぐらいは当然というわけだろう。


「大丈夫なの? 私達は誰も『転移紋章』なんて技、使えないんだけど」


「そのために俺とフィメル先生がいるだろう。これは課外授業だ。お前らの力を見極めるためにここまで連れてきたのだからな」


 ゼシカの言葉に返答する俺。

 しかし何故か胡散臭そうな眼差しで俺を見るゼシカ。


「先生! まったく自信がありましぇん!」


 元気な声で腕をぴんと伸ばし、リリィがそう答えた。

 その顔は不安で溢れていて、今にも泣き出しそうだ。


「声と表情があべこべになっているわよ、リリィ」


 頭を抱えそう言うアーリア。


「しかし、ここで武勲を上げればシュナイゼル家の名も……」


 ぶつぶつと独り言を呟いているジル。

 彼女らは彼女らで様々な事情を抱えている。

 それらを乗り越え、いずれは立派な俺の側近として十二分に働いてもらおう。

 身も心も俺だけに注がれればいい。

 このクエストをクリアしたその暁には――。


「? クレル先生? なにか嬉しそうに見えますけど……」


 俺の表情を察したのか。

 フィメルが俺の顔を見上げるように聞いてきた。


「ええ。彼女らの成長を考えると嬉しくて。それに難関クエストでも、フィメル先生がいてくれますから」


 そっと彼女の腰に手を回す。

 その拍子にフィメルの全身が大きく揺れた。


「せ、せせせ先生……! わ、私も、その……あの……」


「うわぁ……。また生徒の前でなんかやってるわよ、あの2人……」


 冷めた目を俺とフィメルに向けるゼシカ。

 他の3人も同じような目で俺達を見ている。


「行きましょう。どうせあの鬼畜教師は手を貸してはくれないわ。私達4人でなんとかするのよ」


 生徒らを見回し気合を入れたアーリア。


「そうだな。僕達4人で、巨龍種ドラゴンの一匹くらいは狩ってみせよう。それだけでも十分すぎるほどの名誉と勲章が与えられる」


 アーリアに続くジル。

 その言葉に首を縦に振った3人。



 そして、鉱山の入り口へと足を踏み入れることに。





 鉱山内部は異常なほど広い空間で、周りは頑丈な鋼石で敷き詰められていた。

 所々に灯りが見える。

 元々鉱扶が働いていた場所だ。

 半永久的に作動する『技』の技術で作った灯籠かなにかだろう。

 これならば暗視薬は必要なさそうだ。


 すでに大部分の龍玉石は採掘されているようだ。

 あとは巨龍種が出没したという最深部――。


「思ったより静かですね……」


 フィメルがそう呟いた。

 その声が鉱山内部で反響する。


「まだ他の冒険者も潜ったばかりなんじゃないかしら。これだけ声が響く場所だったら、戦闘があったら丸分かりだろうし」


 アーリアの言葉に他の生徒らが首を縦に振る。

 確かにあまりにも静かすぎる。

 モンスターはおろか、すでに到着しているはずの冒険者の足音さえ聞こえない。


(これでは、まるで……)


 俺の脳裏にヴィゼンド洞窟での出来事が浮かぶ。

 やけに静かな洞窟。

 一匹も出現しないモンスター。

 そして眠っている大眠兎を狩ろうとしたその瞬間――。


ゾクリ――。


「ど、どうかされましたか? クレル先生」


「……いえ、何も」


 一瞬だけ、首筋に悪寒が走った。

 しかしどこにも、あの蜘蛛の化物はいない。

 あれは一体、何だったのか。

 俺に魔法の力を与えた、見たこともない醜悪な化物――。


 いつか、調べなければならない。

 魔法ディザ・ベルの根源、歴史。

 今までに出現した魔法使いの数、種類。

 

 同じ時代に2人以上の魔法使いが出現しないとも限らない。

 そうなれば、俺にとって最大の脅威ともなり得る。


(あの蜘蛛の化物の正体さえ分かれば……)


 奴を倒せば魔法の力を得られるのであれば、それを逆に利用することは可能だろうか。

 いつか軍隊を指揮できたとして、出現地帯を把握し討伐することが出来れば――。


 ひとりで2つ以上の魔法を習得することは可能か。

 不可能であれば氷の魔法で洗脳した別の者に習得させればいい。

 しかし『絶対の力』を持つ者を増やしすぎるのは危険だ。

 人の信頼など、力を手にしたらすぐにでも瓦解する。

 そんなことは今までに嫌というほど味わってきた。


「下に向かう通路があるぞ。他の冒険者もここを通ったようだ」


 ジルが何かを発見し、俺達に声を掛ける。

 壁際に刻まれた紋章が輝いている。

 他の冒険者に対する目印かなにかだろう。


「皆、気を引き締めて。なんだか嫌な予感がするわ」


「ちょ、ちょっとアーリア! 急にそんな怖いこと言わないでよ!」


「ひいぃ! やめてくださいよぅ、アーリアちゃん……!」


 アーリアの言葉に怯えるゼシカとリリィ。

 彼女の予感は当たることが多い。

 きっとこの下に巨龍種がいるのだろう。



 ――そして俺達は下層へと向かう。


















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